コラム
2021年02月15日

2020年都道府県人口社会増減ランキング(上)/人口増加8エリアは不動―新型コロナ人口動態解説(2)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに

新型コロナウィルスによる感染対策の長期化から、漠然としたイメージで「緊急事態宣言元年は、転居等による大移動が起こったに違いない。わがエリアは大幅な人口増があったかも・・・」などの印象をもつ読者は少なくないかもしれない。

そこで日本における人口移動の実情を客観視するために、2020年の国のオープンデータ(月報)を用いて、都道府県別の国内移動によって生じた人口増減(統計上は社会増減という)の状況を速報したい。

人口増加エリアランキング「山は動かず」

2020年の人口移動による人口増減の最終結果(統計上の「転入超過」を月報より集計したところ、転入数>転出数となった人口増加エリアは2019年と同様の8都府県であった(図表1)。1位から6位までの順位も前年と全く変化がない。
 
つまり、コロナ禍においても人口増加エリアと人口減少エリアという大きな視点で2つにグループ分けしてみると、そのエリア布陣に変更は起こらなかった、ということが言える。

いまだ「コロナ禍によって人口集中エリアの過密化は阻止されたのではないか」というデータ結果は示されておらず、「依然として人口集中は続いており、ただそのスピード感が落ちた」という結果となっていることに注意したい。
 
国内移動の集計のため人口増加エリアと人口減少エリアの総数は一致(プラスマイナスゼロ)するが、総数ベースでは前年の約75%水準に相当する12万1094人の入れ替えとなった(男性、女性それぞれ同74%、76%)1

コロナ禍によって国内全体の人口入れ替え数は約3/4に抑制された、という見方ができる。
 
人口増加8エリアの内訳をみると、人口増加規模が対前年で縮小したエリアが3エリア(東京都、埼玉県、滋賀県)、拡大・維持したエリアが5エリア(神奈川県、千葉県、大阪府、福岡県、沖縄県)となっている。
【図表1】2020年 社会移動による「人口増加エリア」 都道府県ランキング(人・倍)
コロナ禍によって8エリアのうち最も人口集中が減速したのは、意外にも滋賀県であり、前年と比べるとわずか3%水準の増加数(9割超減)に止まった。男女別でみると、男性は874人から83人へと減少し、女性は205人からマイナス55人へと転出超過に転じている。

「コロナによって地方が人口誘致に有利になった」とは必ずしもいえないことを示す重要なデータの1つといえるだろう。
 
また、引き続き転入超過総数は最も多いものの、滋賀県に次いで2番目に人口集中が減速したのは東京都であり、増加数は前年の約38%の水準となった。男女別でみると、男性は前年の27%水準にまで減速したものの、女性については同45%水準(つまり、半分弱程度)にまでしか減速していない。この理由については、先に公開したコラム『新型コロナ人口動態解説(1)』を今一度参照いただきたい。

人口増加エリア第3位の埼玉県は、前年の91%水準の増加数であり、前年とほぼ同水準(コロナ禍によるダメージはほぼ見られない)と言える。
 
一方、2019年と比べて転入超過数が拡大している5府県(図表1の黄色)についてみると、神奈川県はコロナ禍にあっても人口増加2位の地位は変わらず、また2019年とほぼ同水準の人数が転入してきており、埼玉県同様、コロナ禍によるダメージゼロエリア、といって良いだろう。

更に千葉県、大阪府、福岡県、沖縄県は総数では前年と比べても約1.5倍から2.4倍の大幅な転入超過数の拡大となっている。ただしこれらの倍率は計算のベースとなる増加母数の規模が異なることから、2020年に発生した全転入超過数 約12万人に占める8エリアの割合(占有率)も確認しておきたい。
【図表2-1】人口増加上位8エリアでの人口増加数占有率(上2020年・下2019年)(%)
【図表2-2】人口増加上位8エリアでの人口増加数占有率(上2020年・下2019年)(%)
コロナ禍でも人口増加した8エリアの全人口増加数合計12万1094人における割合(増加数占有率)を示したものが上図である(図表2)。
 
東京都は前年までは毎年5割を超える占有率であったが、2020年度は26%へと縮小し、8エリアにおける相対的な吸収力が半減したことが示されている。

その一方で、神奈川県、埼玉県はそれぞれ24%、20%を占めており、前年と比べて8エリア内における相対的な割合が増している。大阪府、福岡県も2019年はそれぞれ5%、2%に過ぎなかったが、2020年は同11%、6%に割合を拡大している。

また、沖縄県の2020年の増加総数は1685人と規模は大きくないものの、前年の2倍を超える水準となっている。
 
1 今回は転入超過エリアの超過数ランキングであるので、転出超過となった39エリアについては次回公開予定の転出超過数の39エリアのランキングを参照されたい。

東京圏への集中は依然82%の高水準

図表2からは東京都とその隣接エリアである神奈川県、埼玉県、千葉県2を含めた東京圏内に移動による人口増加が集中する傾向はコロナ禍においても変わっていないことが示されている。

2019年においては、この4エリア(1都3県)だけで人口増加エリア8都府県の増加人口の92%を占めていたが、コロナ禍における2020年でも82%を占めている。
 
俯瞰的に見るならば、コロナ禍は「東京一極集中」を「東京圏(1都3県)一極集中」に変えただけ、という見方もできなくはない。

残る東京圏以外の2割弱を大阪府と福岡県が按分するという構造が、統計的にほぼ正確な「新型コロナ人口動態」の把握ということになるだろう。
 
2 国立社会保障・人口問題研究所では「東京圏」と呼称。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年02月15日「研究員の眼」)

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