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2020年都道府県人口社会増減ランキング(下)/鍵を握る「リモートワーク」―新型コロナ人口動態解説(3)
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
はじめに
今回は同じ2020年において、人口移動によって人口を減少させた「転出超過」39エリア(2019年と該当エリアは変わらず)について、コロナ前の2019年からの変化を踏まえつつ、ランキング形式で解説してみたい。
コロナ禍によるダメージ最大エリアは「愛知県」
愛知県は2018年までは転入超過エリアであったが、2019年に男女ともに転出超過エリアに転じ、2020年は総数で7296人の減少となった1。2019年と比較すると総数4.0倍、男性4.4倍、女性3.3倍の水準まで減少規模が拡大している様子がみてとれる。
また、月別に愛知県の移動による人口増減の状況をみてみると、最初の緊急事態宣言の前月である3月は男性452人増加、女性141人減少、総数で311人となる転入超過であったが、残る1月~2月、4月~12月は全て転出超過となっている(図表2)。図表において2020年3月の東京都や大阪府の転入超過状況と比べてみると、愛知県は新卒就職に向けた引っ越しシーズンに転入超過数が大きく伸びなかったこと、また、大阪府や福岡県のように2020年の年間を通したコンスタントな転入超過がなかったことが、大幅な転出超過につながる原因となっている。
次に昨年の新聞等による報道から、愛知県の転出超過の大幅拡大要因をまとめると3、
1.外国人労働者の渡航規制による大幅な転入減
2.東京と大阪に挟まれた「支店経済都市」の側面もあることから、東京都の大企業を中心に地域間の人事異動を相次ぎ縮小させる動きの影響を大きく受けた
3.トヨタ自動車を中心とした製造業の拠点が多くサービス業が弱いために、転職市場が小さく、かつリモートワークにスイッチできにくい仕事に従事する労働者の割合が高いことから採用抑制が続いている(つまり、コロナ禍では労働従事することが難しい市場傾向のため、労働市場が縮小している)
こと等が挙げられている。
3.については、コロナ禍への対応として「電車等の通勤に頼らない地元労働市場」の厚みが、地元への人口誘致の競争力となってくることを注意喚起したい。
転入超過数を対前年で1.7倍へと大きく伸ばした大阪府の電車通勤圏エリアにあたる兵庫県、京都府、さらに前回の『新型コロナ人口動態解説(2)』で紹介した転入超過数を大きく減らした滋賀県は、全て大阪府への電車通勤圏である。大阪府における府外からの電車通勤を前提とした労働市場の縮小(採用抑制等)のあおりをうけたのではないかと推測する。大阪府の企業におけるリモートワークが急ピッチで進まない限り、コロナ禍前と異なり、大阪府の企業での勤務を希望する労働者は職住近接した働き方を選択せざるを得ない(地元からの通勤を断念して勤務先近くの居住を選択する)。大阪府の転入超過の拡大とその周辺3エリアの転出超過拡大は、同じ状況を説明している可能性がある4。
感染抑止策として東京都がリモートワークを強力に進める中で、東京一極集中が東京圏(1都3県)一極集中に変化したのに対し(『新型コロナ人口動態解説(2)』参照)、大阪圏一極集中とはなっていないため、大阪府への集中拡大はその電車通勤エリアである近郊府県から生じているのではないか、という点を2020年の人口動態の様相から指摘しておきたい。
1 2019年までの10年間において、愛知県は男性の転入超過数:女性の転入超過数が2:1となっており、男性よりも女性を多く集めていた東京都、大阪府、福岡県などの他の転入超過大都市圏とは逆の転入超過の性差を示していた。
2 4エリアの推移の差をわかりやすくするためにグラフの縦軸を1万5000人で切っている。東京都の3月の転入超過数は4万199人。
3 日本経済新聞 2021年1月29日電子版・2020年12月28日朝刊25ページ・2020年12月27日電子版、日経MJ(流通新聞)2020年10月26日 11ページ等。
4 東京都でも一部の小規模企業において、電車通勤者の代わりに「自転車通勤者」を募集する企業もみられている。
3県は転出超過数不変、8道県は転出超過数を5割以下にまで抑制
3県とも新型コロナの感染者数が全国水準と比べて高くはないため、コロナ禍を活かして転出超過規模を縮小することもできるエリアである。都会へ出ていく人口のメインプレイヤーである20代の若い男女に選ばれるための早急な労働市場の見直しが必要であるエリアといえるだろう。
一方、前年と比べて転出超過数を半分以下にまで抑制できたエリアが8エリア存在する。
北関東3エリア(茨城県、栃木県、群馬県)、ならびに、新幹線や特急等による東京への通勤が可能である3エリア(長野県、山梨県、宮城県)、そして福井県、北海道である。
8エリアのうち6エリアはいずれもリモートワークが進む東京都に仕事の軸足をおきつつの滲み出し人口移動がそれなりに含まれるとみられ(関東を中心とした人口集中)、「エリアを超えたリモートワーク可能な労働市場の形成」5が転出超過抑制、すなわち地方創生の鍵のひとつとなることは間違いなさそうである。
5 リモート可能な地元の「箱」作りではない。地元からリモートワークが可能な「仕事」作り、であることに注意したい。
03-3512-1878
(2021年02月22日「研究員の眼」)
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