コラム
2021年06月14日

2021年 1~4月転入超過都道府県ランキング/コロナ禍2年目の人口集中状況―新型コロナ人口動態解説(8)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】天下分け目の「就職移動」

新型コロナ人口動態解説シリーズ(8)では、2021年6月現在において判明している最新データをもとに、コロナ禍2年目となる2021年の人口移動の現状を解説したい。
 
住民基本台帳に反映される移動情報は、他の月に比べて毎年3月に大きく変化する。これは4月が進学・就職による新たな生活のスタート時期であることから、都道府県をまたぐような転居は前月の3月に済まされることが多いためとみられる。
 
2021年度も例年と同様に、1月、2月そして4月と比べると、3月に大きな人口移動が生じた。コロナ禍に関わらず、人口移動においてはまさに「天下分け目の3月」ともいえるだろう。

【東京都へ迫る神奈川県、1都3県への集中は全転入超過エリアの9割】

2021年の1月から4月までにおける、移動による人口増加となった転入超過エリアの状況を算出すると、2位の神奈川県が1位の東京都と3%の僅差である様子がわかる(図表1)。
 
神奈川県については、男性は2020年も転入超過数で年間1位であったが、女性は2020年の1月~4月では東京都に大きく引き離された2位(東京都2万9,721人、神奈川県1万570人)であった。しかし、2021年4月末時点では、女性においても東京都が1万5,706人の増加であるのに対して、神奈川県は1万1,691人の増加となり、転入超過エリア8エリアの合計に占める割合で東京都33%、神奈川県25%と8ポイント差(2020年は31ポイント差)まで、その差は縮まってきている。
【図表1】2021年1月~4月 転入超過数 都道府県ランキング(人)
男女総数でみても、1位の東京都は2万6,823人の増加、2位の神奈川県は2万3,824人の増加とその差は2,999人となっている(2020年の同時期における差は2万9,450人)。
 
ただし、両エリアにおける人口の集め方には男女の数で差がある。東京都では、2020年において年間で男性の2.2倍の女性が増加(年間の転入超過数は女性2万1,493人、男性9,632人)したが、神奈川県は1.1倍(同じく女性1万5,279人、男性1万4,295人)にとどまった。つまり、東京都は神奈川県と比べると、男性よりも女性に強く選好されるエリアであることが見てとれる。

2021年1月から4月においても、この東京都が女性により好まれる傾向は依然としてあり、男性の1.4倍の女性が増加している。一方、神奈川県は男女がバランスのとれた数で集まる傾向を維持している(倍率1.0となり、男女数で差がほぼない)。

【人口集中は東京一極集中から1都3県集中へより強く変化/テレワーク推進が奏功か】

2020年都道府県人口社会増減ランキング(上)/人口増加8エリアは不動―新型コロナ人口動態解説(2)」において、2020年は東京一極集中から1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)集中にシフトしていることを解説したが、現時点での状況を見ると、女性人口の転入超過数は神奈川県が東京都に対して2020年(東京都2万9,721人、神奈川県1万570人)よりも追い上げをみせていることから2021年は一層、東京一極集中から1都3県集中へのシフトが強まりそうな傾向となっている。
 
1都3県への集中割合は、総数では転入超過エリアの増加人口合計の90%、女性では85%、男性では97%である。コロナ禍にあっても、1都3県への人口集中シフトが起こっていることには変わりがない。

東京都在住・東京都勤務である筆者は、この1都3県集中へのシフトについてはテレワーク普及の効果が大きいと考える。
 
コロナ禍が長期化するにつれ、最も感染状況の悪化しやすい(過密度が高く、人口の多い)東京都とその周辺エリアである首都圏において、テレワーク定着にむけた動きが着実に進展してきている1

つまり、近隣の比較的交通が便利(たまに通勤する際も不便ではない)かつ、東京都よりはやや物価が安いエリアに転居する、という選択が、少なくとも東京都で働く男女にとってはコロナ禍前よりも可能となってきている。
 
人口移動の立役者は20代前半のほぼ独身の男女(とりわけ、独身女性)であると、この新型コロナ人口動態解説で何度もお伝えしている。彼らがそれぞれの生活のために性差関係なく経済的自立を保ちつつ、より豊かな気持ちで居住できるエリアを選択するようになった結果としての1都3県集中へのシフトであるように感じている。
 
ちなみに転入超過総数でランキング5位となる大阪府(超過人数規模では東京都の1/5水準)、同じく6位の福岡県(同1/10水準)では、女性が男性を大きく超えて増加している。

2020年年間を通じて、大阪府では男性の1.8倍、福岡県では男性の1.1倍の女性が増加しているが、2021年1月から4月では大阪府は7.9倍、福岡県は8.9倍となっている。また京都府も総数ではわずか191人の増加であるが、男性は209人減少する一方、女性が400人増加している。

過密な空間が忌避されるコロナ禍において、人口集中をいかにうまく周辺エリアへ拡散して集中を緩和させるかが、都会と認識されるエリアの課題であり、かつ、日本における過疎と過密の2極化解消を目指す、地方創生の大きなテーマでもあるだろう。
 
1 2021年1月21日ITメディアビジネスオンライン「テレワーク推進は“東高西低”「組織として推奨明示を」」を参照されたい。
正社員テレワーク率(2020年11月)
東京都49.1%、首都圏 43.5%、関西3府県(大阪、京都、兵庫)26.6%
人材サービス会社であるパーソル総合研究所が、2020年3月以降、全国の正社員約2万人に対し4回、テレワークの実施状況を尋ねるアンケートを実施。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年06月14日「研究員の眼」)

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