2021年08月13日

住宅市場好調、オフィス空室率上昇。REIT指数は8カ月続伸-不動産クォータリー・レビュー2021年第2四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料はこれまでの上昇基調が弱まり横ばいとなっている。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2021年第1四半期は前年比でシングルタイプが▲1.1%、コンパクトタイプが+2.8%、ファミリータイプが▲1.2%となった(図表-11)。一方、高級賃貸マンションの空室率(2021年6月末)は5.0%(前年比+0.1%)、賃料は18,484円/月坪(前年比+2.6%)と3期連続で前年比プラスとなった(図表-12)。
図表-11 東京23区のマンション賃料
図表-12 高級賃貸マンションの賃料と空室率
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、前年の緊急事態宣言の反動の影響により、百貨店とコンビニエンスストアの施設売上が増加する一方で、スーパーは減少となった。商業動態統計などによると、2021年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+43.5%、コンビニエンスストアが+3.8%、スーパーが▲1.8%となった(図表-13)。6月単月では、百貨店が▲1.6%(2カ月ぶりマイナス)、コンビニエンスストアが+0.8%(4カ月連続プラス)、スーパーが▲2.5%(5カ月連続マイナス)となっている。
図表-13 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテルセクターは依然として厳しい状況が続いている。宿泊旅行統計調査によると、2021年4-6月累計の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲57.7%減少し、このうち外国人が▲97.6%、日本人が▲47.3%となった(図表-14)。新型コロナ第4波による第3回緊急事態宣言(4/23~6/17)によりゴールデンウィーク期間の国内需要が消滅し、通常であれば繁忙期となる時期の稼働が戻らず苦しい状態が続いている。STR社によると、6月のホテルRevPARは2019年比で全国が▲72.7%、東京が▲77.2%、大阪が▲81.7%となっている。
図表-14 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2021年6月)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率が1%台で推移し、需給環境は良好である。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2021年6月末)は前期比+0.4%上昇の1.5%となった(図表-15)。今後については、2021年第4四半期までに供給予定施設の内定率は6割近くで需給バランスが大きく緩む可能性は低いが、豊富な新規供給により物件の選択肢が増加するなか、賃料設定が立地やスペックに見合わない物件についてリーシングが長期化する可能性があるとのことである。近畿圏は既存物件でテナントが順調に決定し、空室率は1.7%(前期比▲0.2%)に低下した。

また、一五不動産情報サービスによると、2021年6月の東京圏の募集賃料は4,400円/月坪(前期比▲0.2%)となった。
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2021年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は3月末比+6.8%上昇した。セクター別では、商業・物流等が+7.3%、住宅が+6.5%、オフィスが+6.4%となり全てのセクターが上昇した(図表-16)。株式市場に対する出遅れ感などを背景に海外資金の流入が継続するなか、これで8カ月連続での上昇となった。6月末時点のバリュエーションは、純資産10.9兆円に保有物件の含み益4.1兆円を加えた15.0兆円に対して時価総額は17.5兆円でNAV倍率は1.17倍、分配金利回りは3.3%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドも3.3%となっている。
図表-16 東証REIT指数の推移(2020年12月末=100)
J-REITによる第2四半期の物件取得額(引渡しベース)は2,298億円(前年同期比▲5%)、上期累計で6,732億円(▲6%)となった(図表-17)。アセットタイプ別の取得割合(上期累計)は、オフィス(47%)、物流施設(26%)、住宅(13%)、底地ほか(8%)、商業施設(5%)、ホテル(2%)の順となり、昨年に続いて、商業施設とホテルの低調が目立つ。
図表-17 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
今年上期の取得額は、アベノミクス効果で不動産投資が本格化した2013年以降では最も小さく、ピーク時(2013年上期1.4兆円)の半分以下の水準にとどまる。不動産価格が高値圏で推移するなか、REIT各社は総じて物件取得に慎重な姿勢を崩していないようだ。こうした物件取得の減少はJ-REIT市場の持続的拡大や分配金の成長にはマイナスだが、短期的な需給面ではプラスに働く。今年上期のエクイティ調達額は前年同期比▲26%減少の1,513億円となった(図表-18)。東証REIT指数は年初から堅調に推移しているが、エクイティファイナンスの減少もその要因の1つに挙げられる。

もっとも、投資口価格の上昇によりエクイティの調達コストが低下し、事業会社の保有不動産売却の動きが拡大するなど、物件取得を前向きに検討する環境は整いつつある。今後はREIT各社のファイナンス動向とそれに伴う需給への影響にも留意する必要がある。
図表-18  J-REITによるエクイティ調達額
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2021年08月13日「不動産投資レポート」)

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