2021年08月05日

ESG投資の実際の手法を学ぼう-代表的なESG投資手法とその特徴

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.293]

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任   原田 哲志

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1―注目が集まるESG投資について学ぼう

環境・社会・ガバナンス(企業統治)を考 慮するESG投資が世界的に拡大している。

近年では、再生可能エネルギーや電気自動車(Electric Vehicle :EV)の開発と普及といった「脱炭素」が重点政策として掲げられている。また、日常生活の中でもレジ袋が有料化されるなど環境問題を身近な問題として感じる機会も増えているのではないだろうか。

個人投資家の間でもESG投資への関心が集まっており、ESG投資をうたった投資信託に資金が流入している。2020年7月に設定されたアセットマネジメントOneの「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)<愛称:未来の世界(ESG)>」は設定当初から投資家からの資金流入が続き、2021年2月末時点での純資産総額は9926億円と国内最大規模の投資信託(ETFを除く)に成長した。

しかし、日本でESG投資が拡大し始めたのは、2015年にGPIFがPRI*1に署名し、運用にESGを取り入れたことがきっかけであり、日本でのESG投資の歴史は長くない。また、ESG投資には様々な手法や国際的イニシアチブ(規範・ルール)があり、その具体的な内容や投資手法は必ずしも深く理解されていないのではないだろうか。ESG投資の手法について改めて学ぶことで、ESG投資の実際や今後の課題について理解を深めたい。
 
*1 責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)とは2006年当時の国連事務総長コフィー・アナンが提唱したESG投資に関するイニシアチブである。

2―代表的なESG投資手法

ESG投資は環境・社会・ガバナンスを考慮する運用とされているが、これらは具体的にはどのような事を指しているのだろうか。ESGに関する主なテーマとしては、図表1に示すものが挙げられる。
[図表1]ESGの各要素の代表的なテーマ
環境に関しては気候変動の抑制、環境汚染の防止、リサイクルといったテーマが挙げられる。近年では、特に気候変動に関連して再生可能エネルギーやEVといったテーマで投資機会が生じている。その一方で、火力発電など化石燃料に依存した産業・施設は事業の継続ができない、もしくは価値がほとんどなくなる「座礁資産」となるリスクが懸念されている。

社会に関してはダイバーシティや女性活躍の推進、地域社会との共生、サプライチェーン上での人権尊重といったテーマが挙げられる。こうした社会課題が注目されることによって、企業も適切な対応が求められている。最近では、実際にユニクロの綿シャツが原料である中国新疆ウイグル自治区産の綿の生産において少数民族の強制労働が行われているとして、米国税関・国境警備局(CBP)により輸入を差し止められている。ブランドイメージの維持や安定的な事業の継続にはこうした社会的要素の考慮が必要となっている。

ガバナンスに関してはコンプライアンスの遵守、ステークホルダーに対する責任、取締役会の構成の多様性といったテーマが挙げられる。企業活動において社会規範・法律の遵守を社内外の関係者に浸透するためにガバナンスの強化・改善が求められている。

このように、ESGは社会的に注目される様々な問題の背景となっており、その重要性が増している。ただし、ESGのテーマに統一的な規定はなく重要な社会的課題は社会や環境の状況によって変化していくことに注意したい。

ESG投資ではこれらのテーマを、どのような手法を用いて運用に反映しているのだろうか。様々な手法があるが、Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)によればネガティブスクリーニング、ポジティブスクリーニング、規範に基づくスクリーニング、インテグレーション、エンゲージメント、テーマ投資、インパクト投資の大きく7つに分類される[図表2]。
[図表2]主なESG投資手法
ネガティブスクリーニングはESGの観点から問題のある企業や業種を投資対象から除外する手法である。しかし、ESGの観点から不適切な銘柄を単に除外するネガティブスクリーニングは企業の株式を売却し議決権を失うことから、企業との対話による改善の働きかけの機会を失うとの指摘もある。議決権行使などを通じて、投資家が積極的に改善の取り組みを行うエンゲージメントが、投資先企業のESGの観点での改善や長期的な投資パフォーマンスの向上につながる可能性もある。

規範に基づくスクリーニングはUNGC、OECDなどの国際機関が公表するESGに関する規範を満たす企業に投資する手法である。代表的な規範としては「国連グローバル・コンパクトの10原則」がある*2。規範に基づくスクリーニングが国際機関の公表する規範に従って投資を行うのに対し、ポジティブスクリーニングは投資家がESGについて独自の尺度から企業の調査を行うなどして、より積極的にESGの観点から優れた企業に投資を行う。

インテグレーションは、従来の企業の財務情報を主に用いる投資プロセスにESGに基づく評価を加え、投資先を選定する手法である。年金基金など機関投資家はその投資資金の大きさから、社会や環境への影響も大きい。しかし、社会的観点のみに傾斜してリターンが低下しては、受託者責任を果たしているとは言い難い。こうした中、財務情報とESGの両方を考慮するインテグレーションは、社会や環境への影響を考慮しつつ、投資パフォーマンスを向上するのに適していると言えるだろう。

テーマ投資はESGの特定のテーマに関連する銘柄に投資を行う手法である。ESGのテーマは多岐にわたっており、それぞれの状況は異なっている。テーマ投資では特定のテーマに投資を行うことから、例えば気候変動に関連した再生可能エネルギーやEVなど投資家からの注目度が高く、投資機会の大きなテーマに集中して投資を行うことができる。

インパクト投資は社会的な課題の解決を目的として投資する手法である。近年では、行政から民間へ事業を委託する際に、事業の成果に連動した報酬が投資家に支払われる「ソーシャルインパクトボンド」が増加している。ソーシャルインパクトボンドは、医療や介護、就業支援といった分野で民間の資金やノウハウを活用し、公共事業の成果を向上するのに用いられており、社会的インパクトと投資成果を連動する手法として注目されている。

このようにESG投資は一つの方法ではなく、異なる観点やアプローチで行われている。それぞれの投資手法別残高を見ると、ネガティブスクリーニングやインテグレーション、エンゲージメントが多く、現状のESG投資ではこれらの手法が多く用いられていることが分かる[図表3]。ただし、ポジティブスクリーニング、テーマ投資、インパクト投資の投資残高は小さいものの高い伸び率を示しており、ESG投資手法は今後多様化が進む可能性があるだろう。
[図表3]主なESG投資手法別の投資残高
 
*2 国連グローバル・コンパクトの10原則とは、1999年の世界経済フォーラムにおいてコフィー・アナンが提唱した企業などがリーダーシップを発揮することによって持続可能な社会を実現するための規範である。

3―ESG投資の今後の課題

ここまでで述べたようにESG投資には様々な手法があるが、今後の改善に向けた課題もある。具体的には、(1)ESG評価情報の整備、(2)ESG要因の影響の不確実性、(3)専門知識を持つ人材や体制の整備といった点が挙げられる。

ESG評価情報の整備
多数の評価機関が様々な観点から企業のESG評価を行っているが、評価方法は一律ではなく類似する項目でも評価に食い違いがある、評価作業が属人的であるといった点が指摘されている。また、企業によっては必ずしも十分なESG情報を開示していない場合もある。ESG情報の開示ルールの整備や評価手法の改善が今後の課題となっている。

ESG要因の影響の不確実性
ESG要因の影響は、気候変動をはじめとして将来的な影響の予測が難しいものもある。現在、世界各国が気候変動対策に取り組んでいるが、その内容は各国政府の方針に大きく影響される。また、再生可能エネルギーなどは現在開発が行われている途上にあり、その技術進歩と将来像を予測することは難しい。こうした不確実性の大きさがESGに関する情報を投資に活用する上での課題となっている。

専門知識を持つ人材や体制の整備
ESGは従来の経済・金融だけでなく、環境問題に関連した自然科学、ガバナンスに関連した法律といった知識が必要となるものも多い。こうした専門知識を自社のリソースのみでカバーすることは難しく、外部の専門家と連携する体制を構築することが求められる。

現状のESG投資の手法は完成されたものではなく、改善を続けることが必要である。社会や環境の改善に向けて、ESG投資手法の改善が進められ、今後さらにESG投資が広がることを期待したい。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

(2021年08月05日「基礎研マンスリー」)

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