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- ESG投資の意義~何のためにESGを意識するのか~
2021年07月07日
近年の日本におけるESG投資の流れは、公的年金の積極的な取組みに加え、金融庁や東京証券取引所が二つのコードを提唱したことで、急速に拡大している。決して、流れに逆らう必要はないが、個々の運用者は、何時どのように、取組むかを考える必要がある。
まず、ESG投資が、すべての企業や団体にとって同じように求められるものか考えておきたい。アセットオーナーの資金特性により、ESG投資への積極性に差が生じることもあるだろう。また、ESGの中で3要素のどれに力点を置くかで、異なる結果が生じる可能性もある。ESG投資がより重要視されると確信すればこそ、折に触れて、その意義を考えておきたい。
年金運用の存在意義は、ベンチマークに対する超過収益を狙うことではなく、設定された必要利回りを中長期的に安定して稼ぐことにある。海外においては、ESG投資が超過収益の源泉になるという分析も見られるが、日本の株式投資において確実な効果は確認されていない。その他の資産クラスについては、まだ検証不足である。
一方、よりサステナビリティを重視する観点からは、ESG要素を意識することで、投資対象の長期的な存続可能性を担保することが出来ると考える。年金が長期運用であるという本来の資金特性に立脚するならば、ESG投資は年金運用に適合した概念である。
年金運用者は、アセットオーナーもアセットマネジャーも、受益者に対する受託者責任を負っている。投資の際に意識されるのは、受益者に対する年金給付の確実性とそれを可能にする収益の獲得である。収益性を犠牲にしてまでも、ESG要素を追求するべきものではない。ESG投資を推進する際には、世間の流れに乗るのではなく、ESG投資に関する中長期的な方針を設け、それに合致した行動を採ることが望ましい。
ESG投資の考え方は、必ずしも新しいものではないだろう。金儲けのためなら何に投資しても良いのかという人間としての良心が根底にあり、“収益の最大化のみが適切な投資行動ではない”という命題が年金運用に内在する。日本においても、儲けのためなら何をしても良いという考え方は決して一般的でないし、欧州においてもノブレス・オブリージュといった規範意識が存在して来たのである。
ESGは、時に、行動規範的なものであるし、時には、ESG投資が超過収益の源泉となることもあるだろう。ESGの3要素は決して等価でなく、重視される方向は、時代やエンティティーによって様々に変化する。
最近の日本の社債等の発行市場を見ると、様々な「ソーシャルボンド」や「グリーンボンド」といったSDGs債が募集されている。しかし、元々固定利付である債券を、グリーンボンドだからと言って、割高な水準で購入する必要はない。割高でなければ、発行体の資金調達の企図と、証券会社の販売推進の姿勢、更に、ESG投資を追求する投資家の「三方一両良し」の合意が成立する。それは「ウィンウィン」の関係であり、ネガティブに評価する必要はないが、ESGに取組む意義をしっかりと抑えておきたい。
現状でのESGへの取組みで注意する必要があるのが、「言ったもの勝ち」の行動である。首尾一貫した言行一致の取組みが望まれる。決してESG投資が一時的な流行となり、排除のための行動になってはならない。特に、ネガティブリストに基づいて排除のみを強調するのは危うく、同様に企業の一部分のみを捉え殊更に肯定的に評価することにも危険性があるだろう。
結局のところ、ESG投資は投資家にとって、中長期的な投資の本質そのものに根差すものである。周囲に流されず、受託者責任を遂行する観点から、改めてESG投資への取組みを真剣に考えておきたい。
まず、ESG投資が、すべての企業や団体にとって同じように求められるものか考えておきたい。アセットオーナーの資金特性により、ESG投資への積極性に差が生じることもあるだろう。また、ESGの中で3要素のどれに力点を置くかで、異なる結果が生じる可能性もある。ESG投資がより重要視されると確信すればこそ、折に触れて、その意義を考えておきたい。
年金運用の存在意義は、ベンチマークに対する超過収益を狙うことではなく、設定された必要利回りを中長期的に安定して稼ぐことにある。海外においては、ESG投資が超過収益の源泉になるという分析も見られるが、日本の株式投資において確実な効果は確認されていない。その他の資産クラスについては、まだ検証不足である。
一方、よりサステナビリティを重視する観点からは、ESG要素を意識することで、投資対象の長期的な存続可能性を担保することが出来ると考える。年金が長期運用であるという本来の資金特性に立脚するならば、ESG投資は年金運用に適合した概念である。
年金運用者は、アセットオーナーもアセットマネジャーも、受益者に対する受託者責任を負っている。投資の際に意識されるのは、受益者に対する年金給付の確実性とそれを可能にする収益の獲得である。収益性を犠牲にしてまでも、ESG要素を追求するべきものではない。ESG投資を推進する際には、世間の流れに乗るのではなく、ESG投資に関する中長期的な方針を設け、それに合致した行動を採ることが望ましい。
ESG投資の考え方は、必ずしも新しいものではないだろう。金儲けのためなら何に投資しても良いのかという人間としての良心が根底にあり、“収益の最大化のみが適切な投資行動ではない”という命題が年金運用に内在する。日本においても、儲けのためなら何をしても良いという考え方は決して一般的でないし、欧州においてもノブレス・オブリージュといった規範意識が存在して来たのである。
ESGは、時に、行動規範的なものであるし、時には、ESG投資が超過収益の源泉となることもあるだろう。ESGの3要素は決して等価でなく、重視される方向は、時代やエンティティーによって様々に変化する。
最近の日本の社債等の発行市場を見ると、様々な「ソーシャルボンド」や「グリーンボンド」といったSDGs債が募集されている。しかし、元々固定利付である債券を、グリーンボンドだからと言って、割高な水準で購入する必要はない。割高でなければ、発行体の資金調達の企図と、証券会社の販売推進の姿勢、更に、ESG投資を追求する投資家の「三方一両良し」の合意が成立する。それは「ウィンウィン」の関係であり、ネガティブに評価する必要はないが、ESGに取組む意義をしっかりと抑えておきたい。
現状でのESGへの取組みで注意する必要があるのが、「言ったもの勝ち」の行動である。首尾一貫した言行一致の取組みが望まれる。決してESG投資が一時的な流行となり、排除のための行動になってはならない。特に、ネガティブリストに基づいて排除のみを強調するのは危うく、同様に企業の一部分のみを捉え殊更に肯定的に評価することにも危険性があるだろう。
結局のところ、ESG投資は投資家にとって、中長期的な投資の本質そのものに根差すものである。周囲に流されず、受託者責任を遂行する観点から、改めてESG投資への取組みを真剣に考えておきたい。
(2021年07月07日「基礎研マンスリー」)
03-3512-1845
経歴
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
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