- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- コーポレートガバナンス >
- ESGのGとは-重要視されるコーポレートガバナンス
ESGのGとは-重要視されるコーポレートガバナンス

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――ESGは着実に普及

他方、企業においてもESG課題に積極的に取り組む姿勢が見られ始めている。背景には、環境や社会に係る諸課題に対する関心が世界中で急速に高まっていることがある。以下では、投資や企業経営において重要視されつつあるE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のうち、G(ガバナンス)のテーマについて概観する。
2――重要視されるG(ガバナンス)

ではなぜ、ガバナンスが重視されるのだろうか。その理由としてガバナンスならではの2つの特性を挙げることができる。1つ目は、コーポレートガバナンスが企業経営に係わる課題であり、あらゆる企業に例外なく認識される課題であることだ。環境や社会に係るテーマの場合、各テーマの重要性が企業によって異なるのに対して、コーポレートガバナンスが全ての企業に共通の課題となっていることは、図表2のアンケート集計結果にも少なからず影響している可能性がある。2つ目は、ガバナンスが環境や社会の諸課題に対処する上での大前提として認識されていることである。健全なガバナンスなくして、環境や社会の諸課題に対処できないとする考え方で、ガバナンスが機関投資家の関心を集める要因の一つになっていると推察される。
環境や社会に係る課題に比べ、ガバナンスは世間における話題性に欠く面は否めないが、ガバナンスへの取り組み次第で、今後のESG課題の行方が左右されかねないという意味で、ガバナンスは極めて重要性の高いテーマと言える。
3――コーポレートガバナンスとは
ESGのG(ガバナンス)の中核的なテーマとなっているのが、コーポレートガバナンスである。様々な意味を持つ概念だが、「会社は経営者のものではなく、株主のものとの考え方のもとで、企業経営の健全性の確保と効率性の実現を通じて株主に還元する利益を最大化するための仕組みや体制」と考えることができる。
従来は、不正会計、データ改ざんなどの不祥事が相次いだことを受け、不祥事の防止などにコーポレートガバナンスの主眼が置かれることが多かった。しかし、欧米の企業に比べ日本企業の収益性が低い状況が長らく続いてきた中、最近では持続的な成長や中長期的な企業価値の向上のための方策としてコーポレートガバナンスが強く意識されるようになっている。コーポレートガバナンスに求められる機能はその時々の社会や経済情勢によって変わり得るが、中長期的な企業価値向上という観点で、ESG課題に対応することが求められるようになっていることは、最近の特徴的な傾向と言える。
コーポレートガバナンスの範囲は広く、課題は多岐にわたるが、企業経営の健全性の確保や効率的な企業価値向上の観点では、その実効性を高める役割を担っている取締役会への注目度は高い。中でも機関投資家やESG評価機関の関心の高いテーマとして、「取締役会の独立性」と「役員報酬の有効性」の2つが挙げられる。
前者は経営全般に対する取締役会のモニタリングが機能する体制となっているかを問うもので、独立性を確保する方策の一つとして、社外取締役の導入・増員が注目されている。社外取締役とは社外から迎い入れる取締役のことである。他の取締役や社内との間に利害関係がない立場であり、主な役割として各種経営課題に対する客観的な判断が期待されている。経営判断の客観性や企業価値向上の効率性を高める上で、社外取締役の増員が効果的と考えられているのは、そのためである。
後者の「役員報酬の有効性」は、報酬体系の設計や支給額の決定プロセスの透明性が確保されているか、経営者の報酬水準が妥当か、企業の持続的な発展に向けたインセンティブとなるような報酬体系となっているかを問うものである。インセンティブの例としては、中長期の企業価値の向上に連動するような役員報酬の導入などがある。
上記に代表されるようなコーポレートガバナンスに係わる課題は、形式を整えればよいというものではなく、実効性を伴っているかどうかが重要となる。このため、中長期的な企業価値向上のための取り組みや、実効性に係わる取締役会の独立性や役員報酬の有効性などの情報は、その背景となる考え方を含めて開示し、株主をはじめとするステークホルダーの理解を得られるように努力することが重要であり、コーポレートガバナンスの重要な課題の一つとして認識されている。
4――ESG課題への踏み込んだ関与が求められる可能性
従来より、株主以外のステークホルダーにも配慮した経営が実践されてきた日本企業はもとより、株主至上主義を貫いてきた米国においても、ステークホルダーに配慮する経営が広まることになれば、必然的に、ESG課題への一層の取り組み強化が要請されるようになる。その場合には、中長期的な企業価値向上のための手段としてのESGを経営戦略の中で明確に位置づけ、ESG関連のモニタリングや意思決定に取締役会が積極的に関与し、ESGに係わる目標達成度に応じた役員報酬を導入するなど、より踏み込んだガバナンスが求められるようになる。ESGに対する世の中の意識が強まるなか、コーポレートガバナンスにおけるESG課題の重要性は今後一層高まるであろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年07月28日「基礎研レター」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
梅内 俊樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/03 | 資産配分の見直しで検討したいプライベートアセット | 梅内 俊樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2025/02/28 | 日本版サステナビリティ開示基準を巡る議論について-開示基準開発の経過と有価証券報告書への適用の方向性 | 梅内 俊樹 | 基礎研レター |
2024/09/06 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 基礎研マンスリー |
2024/09/05 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【ESGのGとは-重要視されるコーポレートガバナンス】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ESGのGとは-重要視されるコーポレートガバナンスのレポート Topへ