2021年06月16日

デジタル・プラットフォーマーと競争法(4)-Appleを題材に

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

デジタルトランスフォーメーション(DX) 法務 などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

4――米国での訴訟動向

1|エピックゲーズムによる差し止め訴訟の提起
エピックゲームズは、オンラインゲームメーカーでフォートナイトという1億人以上のユーザーを抱えるゲームソフトを提供している会社である。エピックゲームはAppleに対して、IAP以外での支払いオプションを認めること、および自社のプラットフォームであるエピックゲームズストアズアプリを通じての、ソフトウェアのインストールとアップデートを可能にすることを要求した。Appleはこれを両方とも拒絶した。

これを受け、エピックゲーズムは、2020年8月3日アップデートにおいて、ホットフィックスと呼ばれる機能を追加した。この機能はエピックゲーズムからのシグナルを受けることによって、エピックゲーズムに対するユーザーからの直接支払いを可能にするものであった。

Appleはフォートナイトをアプリストアから削除するとともに、開発者ツールも含めてすべて無効にした。この結果、フォートナイトは新規ダウンロードができないばかりではなく、従来の利用者も最新版へのアップデートもできなくなった。また、開発者ツールはエピックゲーズム以外も利用しており、他に影響を受けるゲーム会社も存在した。

エピックゲーズムは2020年8月17日に北カルフォルニア連邦地裁に仮差止命令申請を行い、フォートナイトのアプリストアへの復活と、開発ツールの無効化の禁止を求めた。
ちなみにGoogleも同様の措置をエピックゲーズムにとり、エピックゲーズムはGoogleも提訴した(本稿では省略する)。
2|エピックゲームズの主張
エピックゲーズムの主張は以下の三点である。まず、(1)AppleはiOSアプリ配信市場を独占していることである。すでに述べたところだが、iPhoneのOSはiOSに限定されており、かつiOSにアプリを配信するにはApp Storeを利用するほかはなく、App Store以外でiOSにアプリを配信することはできない。10億人と言われるiOSユーザーに到達するためにはAppleの課した制約の下でアプリを配布しなければならない。

次に、(2)AppleはiOS上のアプリ内支払処理市場を独占していることである。デジタルコンテンツ、特にゲームの有料アイテムの購入などは、ゲームを中断しないままシームレスに支払いが完了することが重要であり、アプリ内での支払手段を持つことが重要である。しかし、AppleはIAPを提供し、30%の手数料を要求する。他の電子決済が3%程度であることを踏まえると、30%の手数料を課すことができるということは、市場支配力と、競争力の欠如を示している。Appleの契約によるとIAP以外の支払い手段を通知することすらも禁止されている。

最後に(3)iPhoneなどのモバイル機器市場に競争があるからと言って、iOSアプリ配信市場やアプリ内支払処理市場の反競争的な行為は制約されないとしていることである。すなわち、モバイル機器の保有者は機器を乗り換えるという多額のスイッチングコストとiOSエコシステム(iOS上の各種デジタルサービスが相互連携する体系のこと)による顧客の囲い込みがあるので、実際には競争は生じにくいからである。

以上のような行為は、Appleはシャーマン法2条(私的独占の禁止)、シャーマン法1条(不当な取引制限の禁止)、カルフォルニア州カートライト法(不当な取引制限の禁止)に反するものであり、排除されるべきものとする。

Appleは直後の9月8日に、エピックゲーズムは開発者契約違反とApp Storeガイドライン違反を行っており、損害賠償を求める反訴を提起した。
3|その後の動き
裁判所は2020年10月9日に仮差止命令の一部を認め、一部を拒否した3。裁判所はエピックゲーズムをApp Storeに復活させることを拒否したが、開発者ツールについてAppleが何らかの措置をとることを差し止めた。裁判所は以下のように述べた。(1)仮差止命令は本訴(仮差止後に行われる訴訟)で原告勝訴の可能性が高いことが必要であるところ、今回のような新しいビジネスにおいて類似した権威ある先例はない。また、シャーマン法違反等の主張のためには、独占者が不当な排除行為を行ったことを立証する必要があるが、その前提として、競争が行われている関連市場を画定しなければならない。しかし、たとえばソニーや任天堂のゲーム機における市場が含まれるのかどうかを一例として、必ずしも明確ではない。(3)エピックゲーズムはアプリ配信とIAPとをAppleが抱き合わせたと主張するが、アプリ配信市場とは別にIAP市場が存在するとの十分な主張ができていないと裁判所は判断する。なぜならばIAPのサポートするアプリの8割以上が無償であり、アプリのセキュリティ確保や詐欺防止、ペアレンタルコントロール(保護者による利用制限)などの機能も併せ持つためである。(4)エピックゲーズムは自社が契約違反したことを、もともとの契約が独占禁止法違反であるとの理由で正当化しようとしている。「独占」を叫んで契約を書き換えることはできない、とする。

なお、北カルフォルニア連邦地裁のHP4によれば、4月に双方とも300ページを超える書面による主張をそれぞれ行い、それを受け、この5月にも審理が進められてきており、今後何らかの進展がみられるものと思われる。  

5――検討

5――検討

1報告書における考え方
報告書ではアプリ内課金について「手数料を設定すること自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない」としつつ、「アプリの利用に関して消費者が支払いを行う場合にアプリ内課金しか認めず、アプリ外決済を制限することは独占禁止法上問題となりうる」とする。消費者が「アプリ外決済をするという選択肢は自由でなければ」ならず、アプリ外決済は「価格を押し下げる効果が生じるため、アプリ外決済の提供は結果として消費者の利益となるものである」とする5

報告書に基づけば、Appleなどのアプリ運営事業者がアプリ外決済を禁止したり、アプリ外決済の情報提供を不当に妨げたりすることは拘束条件付き取引に該当するおそれがある。また、Appleが直営するApple Musicとは競争関係にあるSpotifyに対して、Apple Musicとは異なる取り扱いをすることは競争者に対する取引妨害となるおそれがある。

直接的には不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9条第6号、第19条)違反となり、仮にAppleが市場における競争を実質的に制限すると解されれば、私的独占の禁止(同法第2条第5項、第3条)違反となる。
 
5 報告書P76~P77
2|欧米の調査・訴訟の行方
欧州は競争法当局である欧州委員会の判断である一方、米国は連邦地裁レベルという違いがある。また米国は本案訴訟提起前の仮差止の段階においてであり、かつ暫定的な判断ではある(ただし、すでに1年近く時間をかけている)。そして、上記の通り、欧州の判断と米国の判断は180度違うように見える。

米国連邦地裁の判断枠組みに立つと、ポイントはアプリ配信サービスと、IAPとが別サービス(別市場)といえるかどうかにありそうである。Apple(およびGoogle)の立場に立てば、この問いにはノーであり、たとえば報告書では、無償アプリも多いアプリストアでは、アプリ内課金がビジネスモデルの中核であり、ここが否定されるとビジネスが成立しないとの意見が掲載されている。他方、アプリ開発者にすればイエスであり、また30%もの手数料は高額すぎるということになる。

他方、欧州のほうは、全面的に独占禁止法上の問題を認めたかのようだが、前提として、Apple MusicとSpotifyの競争関係が存在したことがあり、問題として認定しやすかったのかもしれない6

難しいのは、そもそも有償アプリのデジタルコンテンツに30%の手数料を課すことでビジネスが成立し、成長してきたことであり、従来の手数料をアプリ開発者に不利益変更したものではないということだ。有力な事業者が一方的に不利益変更をしたのであれば、独占禁止法上の問題が認められやすくなるが、本件はそうではない。

ここで、結論を述べるのは尚早ではあるが、少なくとも欧州委員会が暫定的見解とは言え、競争法上の問題を認めたことが重要な意味を持つと思われる。私見では、問題はアプリストアをAppleとGoogleの2社しか提供しておらず、両者とも利用者やアプリ開発者が簡単にスイッチングできないエコシステムを構築している。そして、双方とも30%の手数料を課しており、実質的な競争が全く存在していないというところにある。

前例としてMicrosoftがWindowsにインターネットエクスプローラーを抱き合わせたと指摘される問題が発生した際、Microsoftが自発的に抱き合わせを中止した件が想起される。独占禁止法違反とするかどうかは別として、Appleには(Googleも)、何らかの対応が求められるのではないだろうか。
 
6 この意味でEU委員会の見解の射程が音楽ストリーミングサービスに限定されるかどうかは不明である。
 

6――おわりに

6――おわりに

アプリストアもデジタルプラットフォームであり、両面市場が存在する。アプリの利用者が増加するとアプリ開発者も増加する効果が発生し(間接ネットワーク効果)、逆の効果もまた発生する。また、iPhone(Androidも同様)のエコシステムに組み込まれてしまえば、動画や音楽のデータの引っ越しなど考えたくなくなる。したがって、簡単にスイッチすることはできない(ロックイン)。勝者が総取りのゲームである。

このような特性を踏まえたうえでの競争法(独占禁止法)の運用が求められる。消費者が利用するデジタルの世界では、すでにGoogleとAppleの二択しかなくなっていることを考えると以前のIBMや米国の電話会社であるATT、あるいはMicrosoftなどへの措置同様、競争の促進を検討する段階に入っているのではないかと思う。

App Storeが誕生して、いまだ13年程度であるが、デジタルの世界では長いと考えるのだろう。そすると法律が後追いするとしても、そうは待てないというところなのではないだろうか。
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年06月16日「基礎研レポート」)

アクセスランキング

レポート紹介

【デジタル・プラットフォーマーと競争法(4)-Appleを題材に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

デジタル・プラットフォーマーと競争法(4)-Appleを題材にのレポート Topへ