2021年06月15日

新型コロナワクチンをすぐには接種しない人の理由と特徴~「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

医療従事者や、高齢者の新型コロナウイルスのワクチン接種に目途がついた自治体が増え、現役世代のワクチン接種も始まりつつある。ワクチン接種によって集団免疫を獲得するためには、いかに迅速に接種を進めるかが課題となる。

懸念されているのが、ワクチン忌避だ。日本は、新型コロナウイルスのワクチンに限らず、ワクチン嫌いが多いと言われている1。新型コロナウイルスのワクチンに関しては、重症化リスクや死亡リスクが高年齢層に偏っているのに対し、ワクチンによる副反応は若年に多いとされる2など、特に若者が慎重になる傾向が予想される。

前稿「新型コロナワクチンをすぐにでも接種したい人とは?」では、ワクチンをすぐにでも接種したい人の特徴を分析し、本稿では、すぐには接種を希望しない人の理由と特徴を分析した。使用したデータは、2020年6月からニッセイ基礎研究所が定期的に実施している「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の第4回調査3(2021年3月実施)である。調査は、全国の20~69歳の男女(調査会社のモニタ)を対象としてインターネットで2021年3月26日~29日に実施し、2,070人から回答を得た。

調査を実施した3月末までのワクチンに関する動向を、NHK特設サイト4で振り返ると、1月頃から海外の臨床試験の結果や接種状況などから効果や安全性についての情報、変異株にも効果があること等が報じられていた。2月にファイザー社のワクチンが認可されて医療従事者の優先接種が始まっており、4月に65歳以上の高齢者のワクチン優先接種が始まることが決まっていた。64歳以下については、心疾患・脳血管疾患・糖尿病・高血圧・呼吸器疾患などの持病がある人、免疫系の持病(治療中の悪性腫瘍を含む)がある、または、免疫の機能を低下させる治療(ステロイドなど)を受けている人、肥満である(BMI30以上など)人は重症化リスクが高いとして、優先的に接種することが考えられていた。

国内におけるワクチン接種と副反応に関連したものでは、3月10日に河野規制改革担当大臣が「欧米の状況と比べると、数は多いように思われる」と発言している。26日には国内の医療従事者で1万2000回に1件の割合でアナフィラキシーが報告されていることが報じられ、3月29日には花粉症や食物アレルギーなどがある人も接種は可能とされている。3月になって、ワクチン接種後に死亡した事例もあったが、これらについては、接種との因果関係が評価できないと報じられた。
 
1 例えば、毎日新聞2021年4月18日「根深い日本の「ワクチン嫌い」 信頼度高めるためには何が必要か」等
2 厚生労働省 新型コロナワクチンQ&Aサイト(https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0014.html
3 調査結果の概要は「第4回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 をご参照ください。
4 NHK ワクチン接種 日本国内の状況は(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/japan_2021/
 

2――ワクチン接種意向

2――ワクチン接種意向

1|半数が「しばらく様子を見てから接種したい」
新型コロナウイルスのワクチンの接種意向をみると、全体の1.4%(28人)が既に接種していた。24.1%が「すぐにでも実施したい」、51.2%が「しばらく様子を見てから接種したい」、15.9%が「あまり接種したくない」、7.5%が「絶対に接種したくない」と回答した。

ワクチンを絶対に接種したくない人は7.5%に留まるが、およそ半数がしばらく様子を見ることを希望しており、集団免疫獲得の目安とされる60~70%以上がワクチンを接種するためには、「しばらく様子を見てから接種したい」「あまり接種したくない」「絶対に接種したくない」などのすぐには接種を希望していない人に、どの程度多く迅速に接種するかが重要となる。
図表1 新型コロナウイルスのワクチン接種意向
そこで、以下では、既に接種している28人を除く2,042人を対象に、すぐには接種を希望していない人の特徴とその理由を分析する。
図表2 すぐには接種を希望しない理由 2|すぐには接種を希望しない理由は「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」
「しばらく様子を見てから接種したい」「あまり接種したくない」「絶対に接種したくない」と回答をした人、すなわち、すぐには接種を希望していない人に対して、その理由を複数回答で尋ねた。その結果、もっとも高かったのは「副反応が心配だから」で51.7%だった。次いで「副反応の程度や症状についての情報が少ないから」(44.2%)と、副反応への不安をあげる人が多かった。

理由を因子分析した結果、すぐには接種しない理由は4つの因子に分けられ、それぞれ「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」とした(最終ページの参考図表参照)。

接種意向別にすぐには接種を希望しない理由を図表2に示す。しばらく様子を見てから接種したい人では「まだ日本国内でのワクチン接種が進んでいないから」「まだ医療従事者や、高齢者などの接種が終わっていないから」といった「順番待ち・様子見」に分類される理由が高く、「将来的な安全性が確認できていないと思うから」や「効果が明確ではないから」が低かった。また、あまり接種したくない人で「副反応が心配だから」「将来的な安全性が確認できていないと思うから」といった「安全性への不安」に分類される理由や「注射が苦手だから」「接種会場での感染リスクがあるから」「2回接種することが面倒だから」といった「面倒」に分類される理由が高く、絶対に接種したくない人で「効果が明確ではないから」「基本的な感染防止対策で十分だと思うから」が高かった。
 

3――女性で「安全性への不安」…

3――女性で「安全性への不安」「順番待ち・様子見」、若年で「面倒」。「ワクチン不要」は感染不安が低い。

図表3 すぐには接種を希望しない理由の4つの変数 「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」の各グループと関連が深い理由のいずれかを回答していた場合を1、それ以外を0とした変数を作成し(図表3)、これを被説明変数として線形回帰モデルを使って、それぞれの理由で、すぐには接種を希望していない人の特徴を分析した。調整変数として、都道府県、職業・業種、世帯年収、家族(祖父母、両親、子ども、孫)との同居/別居状況を投入した。

推計結果を図表4に示す。
図表4 推計結果(n=2,042)
安全性への不安から、すぐには接種を希望していない人の特徴として、女性、妊娠中または授乳中の人、肥満ではない人があげられた。現在の不安としては、日本経済が悪化し、国内の企業業績や雇用環境が悪化する、感染状況の公表や厚生労働省によるコロナアプリの開発などによって個人情報が保護されない事態が生じる可能性があることをあげていた。また、順番待ち・様子見をしていると思われる人の特徴として、女性があげられた。現在の不安としては、日本経済が悪化し、国内の企業業績や雇用環境が悪化することをあげていた。面倒さから、すぐには接種を希望しない人の特徴として、若い人と肥満ではない人があげられた。現在の不安として、感染状況の公表や厚生労働省によるコロナアプリの開発などによって個人情報が保護されない事態が生じる可能性があることをあげていた。ワクチン不要と考えている人は、「持病がある人5」は少なく、自分や家族の感染による自分や家族の健康状態の悪化の不安が低い人だった。性、年齢による有意差はなく、男女ともどの年代にもワクチン不要という考え方をする人はいるようだ。
 
5 「持病がある」は、「心疾患・脳血管疾患・糖尿病・高血圧・呼吸器疾患などの持病がある」「免疫系の持病がある、または、免疫の機能を低下させる治療を受けている」「これら以外の持病がある」のいずれかにあてはまることとした。以下同じ。
 

4――おわりに

4――おわりに

ワクチン接種は大規模会場などを活用しながら急ピッチで進められており、医療従事者や高齢者の優先接種スケジュールに目途がたった自治体も多いようである。「しばらく様子を見てから接種したい」と順番待ち・様子見をしている人も、国内での接種実績が増え、優先接種が終われば自身の接種も検討するようになると思われる。近隣住民の接種率を公表する自治体もあり、接種に前向きになる試みとなりそうだ。

安全性への不安を感じている人においては、「しばらく様子を見てから接種したい」と考えている人もあり、より副反応が出やすいとされる2回目接種後の副反応の程度や件数、対応状況などを公表している中で不安が解消していく可能性がある。また、安全性への不安を感じている人の特徴として、妊娠中の人や授乳中の人が含まれる。日本産科婦人科学会からは2021年5月12日付けで、国内においても、現時点では世界的に接種のメリットがリスクを上回ると考えられることを提言している6。しかし、自身の身体のみならず、胎児の健康も守らなくてはいけない妊婦の中には、慎重になる人がいるのも自然だろう。ただ、妊娠中に新型コロナウイルスに感染するのも非常にリスクが高い。同提言にもあるとおり、出産までは、家庭内での感染を防ぐためにパートナー等周囲の人が接種することもあり得るだろう。

2回接種することが面倒、注射が苦手の面倒さが理由となっている人には、若い人が多く、感染状況の公表や厚生労働省によるコロナアプリの開発などによって個人情報が保護されない事態が生じる可能性があることも不安に感じていることから、少なからず、国によるワクチン接種の強い推奨が負担になっている可能性がある。自分自身のタイミングで日常生活の中で接種ができるような会場の整備や、副反応が出た場合の治療体制についての説明を行うほか、職場での特別休暇等の対応等、なるべく接種にともなう負担を減らす試みが必要だろう。

ワクチンが不要だと感じている人は、自分や家族の感染不安も少ない。「絶対に接種したくない」と考えている人も多い。国内のデータでも、ワクチン接種による個人の感染予防効果や、社会全体での損失の軽減効果などを示していくことが重要になるだろう。また、それでも全員がワクチンを接種するような状態にはならないと思われることから、感染経路や感染パターンを周知するなど、充実した情報開示を期待したい。
 
6日本産科婦人科学会「COVID-19 ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する⽅へ(2021年5月12日)」特に感染リスクが高い職業に就いていたり、重症化リスクが高いとされる基礎疾患がある場合は積極的に考慮することのほか、現時点で妊婦に対して短期的安全性を示す情報が出つつあるが、中・長期的な副反応や胎児および出生児への安全性に関しては今後の情報収集が必要であることや、可能であれば妊娠前に接種すること、産婦人科医に十分相談し管理の下で接種することが望ましいこと等も記載されている。

 
参考表 すぐには接種しない理由の因子分析
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2021年06月15日「基礎研レポート」)

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