2021年06月08日

まん延防止等重点措置は緊急事態宣言と何が違うのか

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.291]

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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本稿執筆現在(2021年5月14日)、東京や大阪など6都府県に「緊急事態宣言」が、北海道、埼玉など8道県に「まん延防止等重点措置」が発令されている。「まん延防止等重点措置」とは、2021年2月13日施行の改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)で新たに導入された制度である。「まん延防止等重点措置」は、以前からある「緊急事態宣言」とどう違うのであろうか。

大まかなイメージとしては、2020年4月に出された一度目の緊急事態宣言は特措法の想定する「緊急事態宣言」であった一方、2021年1月に出された二度目の緊急事態宣言は実際には「まん延防止等重点措置」に相当する措置であったと捉えるのが妥当と思われる。

一度目の緊急事態宣言の時は、接待を伴う夜の店や大規模商業施設などへは営業自粛要請、スポーツや劇場などへは興行中止要請が行われ、また各種公共施設等がほぼ閉鎖された。二度目の緊急事態宣言の時においては、各種興行や各種施設は入場人数を限定したり、営業時間を短縮して営業したりすること等が要請された。

このように二度目の緊急事態宣言が一度目より緩やかであったのは、新型コロナ感染症を克服するまでには長期戦を覚悟するほかはなく、長期戦のためには経済を動かせる範囲では動かしておく必要があると判断されたことによると推察される。そして、後述の通り、まん延防止等重点措置は、この二度目の緊急事態宣言で行ったことがほぼ実施できるものとされている。

ところで、改正前の特措法では、緊急事態宣言のもとで営業自粛要請に従わない事業者に対しては、営業自粛指示とその旨の公表しかできなかった。改正特措法では、営業自粛指示を営業自粛命令に格上げ(改正特措法第45条第3項)し、命令違反に対しては30万円以下の過料に処すこととされた(改正特措法第79条)。このように都道府県知事の営業自粛要請に対して最終的に過料という金銭的なペナルティを課すことができるようになり、改正特措法の緊急事態宣言は、従前よりも一段、強い措置となったと言える。

一方、まん延防止等重点措置は、2021年1月からの二度目の緊急事態宣言と比較して考えると決して軽いものではない。特に、時短営業要請違反事業者に対しては要請に従うように命ずることができ(改正特措法第31条の6第3項)、命令違反事業者には20万円以下の過料を課す(改正特措法第80条第1号)。このような過料を課すことは、2021年2月13日より前の特措法による緊急事態宣言ではできなかった。

以上を例えると、新型コロナが国内で発生したことを受け、政府対策本部が設置され、新型コロナへの感染状況の監視とともに一般的な感染予防を政府等が要請するにとどまる段階は一階部分になる。そして緊急事態宣言を出された段階が二階部分となるとすると、今回の改正は二階部分を以前よりもかさ上げするとともに、中二階としてまん延防止等重点措置を作ったということになる(イメージとして図表参照)。
[図表]まん延防止等重点措置と緊急事態宣言の違い
まん延防止等重点措置では、具体的に、営業時間の変更(時短営業)のほか、従業員への検査推奨、入場者の整理、発熱者の入場禁止、手指消毒設備の設置等が求められる(改正特措法第31条の6第1項、施行令第5条の5)。まん延防止等重点措置が新たに規定されたことで、緊急事態宣言が発令されるのはまん延防止等重点措置では出せない措置、端的に言うと営業停止要請・命令が必要となった場合である。現時点での発出状況を見ると、おおむね各種指標がステージIVの都府県が緊急事態宣言で、ステージIIIレベルの道県がまん延防止等重点措置となっている。

細かい法律論をすると、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発令には、前提要件となる感染状況が全国的か地域的か、あるいは対象となる地域が県全体か、県のさらに一部地域かということもあるが、制度の運用上はあまり本質的な相違ではないように思われる。

ところで、緊急事態宣言にせよ、まん延防止等重点措置にせよ、「外出先」を絞ることで人流を抑制する方策である。昨今問題となっている屋外での飲み会なども含めて人流を抑制したいのであれば、もう一段厳しい規制、すなわち直接的な外出制限を検討し始める段階にきているように思う。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2021年06月08日「基礎研マンスリー」)

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