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新型コロナ禍での人流規制-外出制限をどう考えるか

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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国会でも重点措置で人流が減らないならば、もう一段重い緊急事態宣言を出すことになるとの発言も見られた。人流とは聞きなれない言葉であるが、要するに街への人出や電車の混み具合などを指している。
さて、前回執筆した「まん延防止等重点措置は緊急事態宣言と何が違うのか」で述べたように、重点措置は、時短営業命令の違反事業者に過料を課すことができるため、2021年1月に発令された緊急事態宣言と比較して軽いものとはいえない1。また、重点措置から緊急事態宣言への移行が意味するところは、飲食店等に対して時短営業要請・命令よりもさらに強い営業自粛・店舗閉鎖の要請・命令を行うことにあるとも述べた。先ほどの論者達がこの点を意識して発言しているのかどうかはよくわからない。
ただし、人流が減っていないのは、通勤の電車が混んでいることや、繁華街の人出の増減率に関する数値を見ると確かなようだ。そうすると、外出先(飲食店や店舗)を制限するだけではなく、そもそも自宅から外出させないようにすることを考えるべきなのかもしれない。水道に例えると蛇口を締めるだけでなく、元栓も絞めるということなのだろう。
この点、特措法はどうなっているのだろうか。
まず、国内に新型コロナが発生し、政府対策本部・都道府県対策本部が設置されているだけの段階であっても、不要不急の外出自粛要請は可能である(特措法第24条第9項)。ただし、知事による抽象的・一般的な要請権限によるもので、当然のことながらペナルティはない。
次に、重点措置が発令されている場合においては、時短営業が要請されている店舗等に、時間外にみだりに立ち入らないようにすることが知事から要請される(特措法第31条の6第2項)。この要請は外出そのものを自粛するよう求めるものではないうえに、これも違反者に対する命令やペナルティはない。
最後に緊急事態宣言下にある場合においては、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと」(特措法第45条第1項)が知事より要請される。個別具体的な条文に基づく外出自粛要請である。しかし、これもあくまで要請にとどまり、違反者に対して命令やペナルティを課していない。
仮に、海外でみられるように外出制限を行い、違反者に罰金を科すような措置がロックダウンだとすると、日本ではロックダウンに相当する措置は法律上認められていないというのが結論である。また、各都道府県の知事は折に触れ、住民に対し不要不急の外出を避けるよう発信してきており、これを超える実効的な外出制限なるものもなかなか考えにくい。
立法論としてはどうか。まず、移転の自由は憲法が保障しており(憲法第22条)、外出制限についても慎重な議論が求められる。憲法上、移転の自由は「公共の福祉に反しない限り」認められているため、感染者ではない人についても強制的な外出制限が認められると考えるかとの立場もあろうが、ここは議論が分かれるところであろう。
仮に憲法が許容するとの立場をとった場合であっても、たとえば地域については繁華街を個別指定するなど極めて限定的なものとし、また期間については2週間を上限とするなど最小限なものとする必要があると思われる。
さらに言えば、外出制限違反者に過料を課すとして、それをどう実行するかというエンフォースメントの問題も大きい。たとえば道を行く人が生活必需品の買い出しに行くのか、多人数の宴会に行くのかをどのように判別するかというペナルティを課す前提となる基本的な問題すら解が難しい。
この点、たとえば仮に外出を事前許可制にすることとし、許可申請をスマホ経由で行うとした場合にはそれなりのシステム開発費を要し、しかも開発期間がかかる。また取り締まりにあたる人手を要することとなるが、このような要員の余裕が行政にあるとも思えない。
このような対応は法律改正を要するうえ、仮に改正ができたとしても現下の状況に直ちには対応できなさそうである。
そうするとワクチンが普及するまでは、現在の取り組みを工夫し、充実するという平凡な結論にならざるを得ない。たとえば最近目立つ夜の公園での宴会などの個別行為を列挙したうえで自粛を丁寧に呼びかけ、違反者には声がけをするといった地道な方法しかないように思われる。各種報道においても、行政への批判だけではなく、住民に対してどのような行為が推奨され、どのような行為を自粛すべきなのかを丁寧に呼びかけるといった役割を期待したい。
1 ただし、2021年2月13日以降、緊急事態宣言に基づく時短命令違反者に過料が課されることとなった。実際に東京都は一部の違反事業者に過料課す手続きに入ったとの報道があった。
(2021年04月15日「研究員の眼」)

03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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