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まん延防止等重点措置は緊急事態宣言と何が違うのか

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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大まかなイメージとしては、2020年4月に出された一度目の緊急事態宣言は特措法の想定する「緊急事態宣言」であった一方、2021年1月に出された二度目の緊急事態宣言は実際には「まん延防止等重点措置」に相当する措置であったと捉えるのが妥当と思われる。
一度目の緊急事態宣言の時は、居酒屋や理髪店などへは営業自粛要請、スポーツや劇場などへは興行中止要請が行われ、また各種公共施設等がほぼ閉鎖された。二度目の緊急事態宣言の時においては、居酒屋は夜8時までの時短営業要請が行われ、各種興行や各種施設は入場人数を限定すること等が要請された。
このように二度目の緊急事態宣言が一度目より緩やかであったのは、新型コロナ感染症を克服するまでには長期戦を覚悟するほかはなく、長期戦のためには経済を動かせる範囲では動かしておく必要があると判断されたことによると推察される。そして、後述の通り、まん延防止等重点措置は、この二度目の緊急事態宣言で行ったことがほぼ実施できるものとされている。
ところで、改正前の特措法では、緊急事態宣言のもとで営業自粛要請に従わない事業者に対しては、営業自粛指示とその旨の公表しかできなかった。改正特措法では、営業自粛指示を営業自粛命令に格上げ(改正特措法第45条第3項)し、命令違反に対しては30万円以下の過料に処すこととされた(改正特措法第79条)。このように都道府県知事の営業自粛要請に対して最終的に過料という金銭的なペナルティを課すことができるようになり、改正特措法の緊急事態宣言は、従前よりも一段、強い措置となったと言える。
一方、まん延防止等重点措置は、2021年1月からの二度目の緊急事態宣言と比較して考えると決して軽いものではない。特に、時短営業要請違反事業者に対しては要請に従うように命ずることができ(改正特措法第31条の6第3項)、命令違反事業者には20万円以下の過料を課す (改正特措法第80条第1号)。このような過料を課すことは、2021年2月13日より前の特措法による緊急事態宣言ではできなかった。
以上を例えると、新型コロナが国内で発生したことを受け、政府対策本部が設置され、新型コロナへの感染状況の監視とともに一般的な感染予防を政府等が要請するにとどまる段階は一階部分になる。そして緊急事態宣言を出された段階が二階部分となるとすると、今回の改正は二階部分を以前よりもかさ上げするとともに、中二階としてまん延防止等重点措置を作ったということになる(イメージとして図表参照)。
細かい法律論をすると、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発令には、前提要件となる感染状況が全国的か地域的か、あるいは対象となる地域が県全体か、県のさらに一部地域かということもあるが、制度の運用上はあまり本質的な相違ではないように思われる。
留意したいのは、今回のまん延防止等重点措置が、これまで我々が経験してきた緊急事態宣言より軽いものであり、活動自粛を求められる程度も軽いものとの誤った認識が仮に一般化しているのであれば、それは関係各所の広報活動の不足と、「まんぼう」と一見かわいい風に略したネーミングセンスの問題が大きいように思う。
(2021年04月07日「研究員の眼」)

03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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