2021年05月10日

米雇用統計(21年4月)-雇用者数(前月比)は+26.6万人と市場予想の+100万人を大幅に下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数、失業率ともに市場予想を下回る(失業率は上昇)

5月7日、米国労働省(BLS)は4月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+26.6万人の増加1(前月改定値:+77.0万人)と、+91.6万人から下方修正された前月、市場予想の+100.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は6.1%(前月:6.0%、市場予想:5.8%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、低下を見込んでいた市場予想に反して悪化した(後継図表6参照)。労働参加率2は61.7%(前月:61.5%、市場予想:61.6%)とこちらは前月から+0.2%ポイント上昇し、市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用回復のモメンタムは大幅に低下も、一時的な要因か見極める必要

4月の非農業部門雇用者数は、米国内のワクチン接種の進捗に伴い経済活動正常化の動きが広がっていたことから、大幅な雇用増加が見込まれていたものの、市場予想を大幅に下回る結果となった。中身をみると新型コロナで大きな影響を受けた娯楽・宿泊業で前月比+33.1万人と顕著な雇用回復がみられる一方、半導体不足で生産が抑制されている自動車・自動車部品で▲2.7万人減少したほか、人材派遣業でも▲11.4万人減少した。今年は米経済の高成長が見込まれる中で、雇用の増加基調は持続すると見込まれるものの、これらの雇用増減が一時的な要因によるものなのか、当面続くのか雇用回復の勢いを見極める上で今後の動向を注視する必要があるだろう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.7%(前月:▲0.1%、市場予想:横這い)と前月からプラスに転じたほか、市場予想を大幅に上回った。前年同月比は+0.3%(前月:+4.2%、市場予想:▲0.4%)と、こちらは、娯楽・宿泊業などの低賃金労働者の雇用が減少したことで大幅な賃金増加となっていた前年の反動で、当月の伸びは前月から大幅に低下したものの、市場予想は上回った(図表1)。

このようにみると、4月は大幅な雇用増加予想に反して雇用の伸びが大幅に鈍化する結果となったものの、労働参加率の上昇や時間当たり賃金の予想以上の改善などポジティブな内容も含んだ結果となった。前述の通り、好調な米景気が予想される中で雇用回復傾向は持続するとみられるものの、現在の回復ペースから大幅な加速がみられない限り、労働市場が新型コロナ流行前の水準に回復するには時間を要するだろう。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業は回復基調が持続も、広範な業種で雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+23.4万人(前月:+54.2万人)と前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+33.1万人(前月:+20.6万人)と前月から伸びが加速するなど顕著な回復となった一方、医療・社会扶助サービスが+1.9万人(前月:+5.1万人)と前月から伸びが鈍化した。さらに、人材派遣業が▲11.1万人(前月:▲0.8万人)と大幅に減少したことから、専門・ビジネスサービスが▲7.9万人(前月:+6.7万人)と減少に転じたほか、小売業が▲1.5万人(前月:+3.3万人)、運輸・倉庫も▲7.4万人(前月比:4.4万人)と前月から減少に転じた。

財生産部門は前月比▲1.6万人(前月:+16.6万人)と前月から減少に転じた。建設業が前月比横這い(前月:+9.7万人)と前月から伸びが鈍化したほか、製造業が▲1.8万人(前月:+5.4万人)と減少に転じて全体を押し下げた。とくに製造業では自動車・自動車部品で▲2.7万人の減少が目立った。

一方、政府部門は前月比+4.8万人(前月:+6.0万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+0.9万人(前月:+0.6万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した一方、州・地方政府が+3.9万人(前月:+5.6万人)と前月から伸びが鈍化したことが大きい。
前月(3月)と前々月(2月)の雇用増加数(改定値)は前月が+77.0万人(改定前:+91.6万人)と▲14.6万人下方修正されたほか、前々月は+53.6万人(改定前:+46.8万人)と、こちらは+6.8万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲7.8万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って5月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+74.2万人(前月改定値:+56.5万人、市場予想:+85.0万人)と+51.7万人から上方修正された前月を上回った一方、市場予想は下回った。この結果、ADP統計は前月から雇用の伸びが大幅に鈍化した雇用統計とは対照的な動きとなった。
 
4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.17ドル(前月:29.96ドル)となり、前月から+21セント増加した。一方、週当たり労働時間は35.0時間(前月:34.9時間)と前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,055.95ドル(前月:1,045.60ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:失業率は上昇も労働市場再参入の影響の可能性

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で+43.0万人(前月:+34.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳を見ると、就業者数が+32.8万人(前月:+60.9万人)と伸びが鈍化したものの、失業者数が+10.2万人(前月:▲26.2万人)と前月から増加に転じて労働力人口を押し上げた。一方、非労働力人口は▲33.0万人(前月:▲26.3万人)とこちらは2ヵ月連続の減少となった。

これらの結果、労働参加率は61.7%と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は4月が81.3%(前月:81.3%)とこちらは前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が87.8%(前月:87.6%)と前月から+2.0%ポイント上昇した一方、女性が75.1%(前月:75.2%)と前月から▲0.1%ポイント低下するなどマチマチの結果となった。

4月の失業率は6.1%と1年ぶりに前月から小幅に上昇したが、労働参加率の上昇にみられるように、労働市場の回復を受けて、職を求めて労働市場に再参入している影響があるとみられる。このため、4月の失業率の上昇をそれほど懸念する必要はないだろう。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は418.3万人(前月:421.8万人)と前月から▲3.5万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは43.0%(前月:43.4%)と前月から▲0.4%ポイント低下した(図表7)。さらに、平均失業期間は28.8週(前月:29.7週)と前月から▲0.9週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(185.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(524.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、4月が10.4%(前月:10.7%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+4.3%ポイント(前月:+4.7%ポイント)と前月から▲0.4%ポイント縮小した。この結果、4月はU-3とU-6で正反対の動きとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年05月10日「経済・金融フラッシュ」)

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