2021年04月26日

バイデン政権100日の評価-新型コロナと経済対策をまとめ、政権はロケットスタート。米国雇用計画が超党派で合意できるか

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.はじめに

バイデン大統領は5月1日に節目となる就任100日を迎える。バイデン政権は就任直後から多くの大統領令を発出し、前トランプ政権からの政策転換を積極的に進めてきた。

また、最優先課題として位置付けた新型コロナ対策や追加経済対策では目覚ましい成果を上げており、これらの政策への評価も含めて歴代大統領と比較しても高い支持率を得ている。このため、バイデン政権はロケットスタートに成功したと言えるだろう。

本稿ではバイデン大統領のこれまでの政権運営について振り返るとともに、当面の重要政策課題である「米国雇用計画」の概要や今後の見通しなどについて論じている。

これまでの新型コロナ対策や追加経済対策では与党民主党内で合意形成に成功したが、「米国雇用計画」やその先の医療制度改革などでは野党共和党のみならず、与党内の合意を得ることが容易でないことが予想される。今後は上院議員や副大統領として長年議会との政策調整を担ってきたバイデン大統領の政権運営手段が問われるだろう。
 

2.バイデン大統領就任100日の成果

2.バイデン大統領就任100日の成果

(政治任用スタッフの承認状況):トランプ政権を上回るペース
米国では政権交代に伴いおよそ4,000人の政治任用スタッフが入れ替わるほか、およそ1,200のポストでは上院での承認が必要となっている。非営利団体のパートナーシップ・フォー・パブリック・サービスが、上院の承認が必要なポストのうち、およそ800についてトレースした結果1によれば、4月22日時点で閣僚クラスの21人を含む35人が承認されたとしている。これは同時期のオバマ政権(68人)、クリントン政権(45人)を下回っているものの、ブッシュ(子)政権(33人)、政治任用の遅れが指摘されていたトランプ政権(25人)を上回っている。バイデン政権発足前は、トランプ政権による政権移行への妨害から、政治任用が大幅に遅れるとの懸念があったが、政治任用は比較的スムーズに進んでいると言えよう。
(大統領令)就任初日からトランプ政権時代の政策転換を精力的に推進
バイデン政権は当面の優先課題として「新型コロナ対策」、「気候変動」、「人種平等」、「経済」、「医療保険制度」、「移民」、「米国の世界的な地位回復」を掲げており、これらの政策には世界保健機関(WHO)脱退の撤回、パリ協定復帰など、トランプ政権時代に大統領権限で実施された政策からの転換が多く含まれている。
(図表2)就任から4月16日までの大統領令発出状況等 このため、バイデン大統領は就任初日から多くの大統領令を発出し、前政権からの政策転換を精力的に推進している2。実際に、バイデン大統領は就任から4月16日までに40本の大統領令を発出しており、ブッシュ(子)大統領以降の歴代大統領で最多となっている(図表2)。

また、バイデン大統領が発出した大統領令のうち、19本はトランプ大統領による大統領令を取り消す内容となっており、この比率(0.48)も他の大統領と比較して高い。このため、バイデン大統領は歴代大統領に比べても政策転換に大統領令を積極的に活用していることが分かる。
 
 
2 詳しくはWeeklyエコノミスト・レター(2021年1月25日)「バイデン政権が発足-安定政権も、新型コロナ対策と追加経済対策が喫緊の課題となる中で厳しい船出」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66737?site=nli を参照下さい。
(新型コロナ対策):1月に国家戦略を策定、ワクチン接種は政策目標の2倍のペースで実施
バイデン政権は、就任翌日の1月21日にワクチン接種の推進、マスク着用や検査拡大などによる感染対策、学校再開などを盛り込んだ国家戦略を発表し、就任100日目までに1億回のワクチン接種を実現するとした。

さらに、バイデン政権は3月下旬にワクチン接種を行う薬局を増加する(1万7,000件→4万件)など追加対策を発表し、就任100日のワクチン接種目標を2億回に引き上げた。実際に、足元でワクチン接種回数は2億回を超えており、1回以上接種が終了した人数は1億3,580万人と米人口の4割まで進んでいる(図表3)。また、ワクチン接種の効果もあって、1日の新型コロナ新規感染者数(7日移動平均)は6万人台前半と年初の25万人弱から大幅に低下した。

さらに、感染者数の減少に伴い感染対策としての経済活動制限も緩和が継続している。学校や職場の閉鎖状況、外出、移動制限など9項目の感染対策を数値化した米政府による感染対策の厳格度指数は年初から緩和基調が持続していることが確認できる(図表4)。
(図表3)米国のコロナ新規感染者数およびワクチン接種人数/(図表4)米政府による新型コロナ感染対策の厳しさ(厳格度指数)
(経済対策):民主党単独で1.9兆ドル規模の追加経済対策を実現、個人消費主導で高成長へ
バイデン政権は追加経済対策として、3月上旬におよそ1.9兆ドル規模となる「米国救済計画」を、財政調整措置を活用して、上下院の民主党の単独過半数で成立させた。

「米国救済計画」には所得制限を付した上で1人1,400ドルの直接給付や失業保険の週300ドルの追加給付、州・地方政府に対する支援に加え、前述の新型コロナ対策のためのワクチン接種プログラムや学校再開支援策に対する予算が盛り込まれた(図表5)。
(図表5)「米国救済計画」の概要
とくに、家計向けの直接給付では、4月14日時点で1億5,900万件、金額ベースで3,760億ドルが支給されており、予算(4,000億ドル)の94%が既に実行されている3。1.9兆ドル規模の追加経済対策に先んじて、20年12月下旬に成立した9,000億ドル規模の経済対策では、1人当たり600ドルの直接給付によって1月の可処分所得(前月比)が1割超の大幅な増加となった。今回の1人1,400ドルの支給を反映する3月の可処分所得は1月の伸びを大幅に上回る可能性が高い。

また、貯蓄率は21年2月が13.7%となっているが、3月以降は直接給付により3割超へ増加が見込まれており、消費余力を十分に有していると言えよう。
(図表6)クレジット・デビッドカード支払い額(個人消費支出) 一方、クレジット・デビッドカードの支払い額は、年初から回復が顕著となっており、直近(3月28日)は20年1月を1割超上回る水準となっている(図表6)。当面は可処分所得の増加に伴い大幅な増加が見込まれる。

今後、新型コロナの新規感染者数の減少に伴い経済活動制限が緩和され、経済の正常化の流れが加速する中で、消費余力を残している個人消費は大幅な増加が見込まれる。

このため、個人消費主導の景気回復に伴い、21年の米国の実質GDP成長率は前年比で+6%超と、84年(同+7.2%)以来の高成長となるとの見方が広がっている。
(世論調査結果):新型コロナ、経済政策やバイデン大統領に対して高い支持
ピューリサーチによれば、バイデン大統領の新型コロナ対策に対する評価は「良い」との回答割合が43%、「非常に良い」が29%と合計で72%が好意的に評価している(図表7)。
(図表7)新型コロナ対策・追加経済対策の評 また、追加経済対策に対する評価も「やや賛成」が31%、「強く賛成」が36%とこちらも67%が賛成しており、米国民の多数が評価していることが分かる。

一方、同調査でバイデン大統領に対する支持率は59%と過半数が支持しているほか、同時期での歴代大統領との比較でも、トランプ大統領の39%を大幅に上回っているほか、レーガン大統領以来でバイデン大統領の支持率を上回っているのは、レーガン(67%)、オバマ(61%)のみであり、歴代大統領の中でも比較的高い支持率となっている(前掲図表1)。

このため、バイデン大統領は最優先課題と位置付ける新型コロナ対策および追加経済対策で評価されているほか、バイデン大統領自身の支持率も高く、バイデン政権はロケットスタートに成功したと言えよう。
 

3.当面の政策課題等

3.当面の政策課題等

(米国雇用計画):8年間で2.8兆ドル規模の歳出拡大を目指す
バイデン大統領は政権の最優先課題であった新型コロナ対策と経済対策に一応の目途がついたことから、選挙公約で掲げていた成長戦略に政策の軸足を移している。そのような中、3月31日に成長戦略の第一弾として、バイデン政権から議会に要求する政策課題を集めた8年間で総額2.3兆ドル規模4となる「米国雇用計画」を発表した。

同計画には電気自動車(EV)の普及や老朽化した道路、橋などの補修を含む交通インフラ投資交通(6,210億ドル)や、国内製造業への資金提供、サプライチェーンの近代化支援、半導体製造支援などを含む製造業支援(5,900億ドル)、在宅介護サービスの拡充(4,000億ドル)、住宅の改善、学校や保育施設の近代化(3,280億ドル)、高速ブロードバンド構築や水道インフラの近代化(3,110億ドル)、クリーンエネルギーに対する税額控除(金額不明)などが盛り込まれている(図表8)。日本の一部報道で「米国雇用計画」についてインフラ投資政策と説明されているようだが、前述のように在宅介護サービスに対する投資など同計画にはインフラ投資以外にも広範な政策分野を含んでいる。
(図表8)「米国雇用計画」の概要
これらの政策を実現するための財源としては、法人税率の引き上げ(21%→28%)、多国籍企業の海外利益に対する課税強化、石油やガス産業に対する減税措置の取りやめ、などを通じて15年間で必要な財源を賄う方針を示している。

一方、バイデン大統領は近日中に成長戦略の第二弾となる「米国家族計画」を発表することを示している。同計画には医療保険制度改革や育児支援が盛り込まれるとみられており、財源として年収40万ドル以上の富裕層に対する課税強化や富裕者のキャピタルゲイン課税強化が充当されるとみられている。これでバイデン大統領が選挙公約として掲げた「より良い復興」で盛り込まれた成長戦略の項目が概ね網羅されることになる。
 
4 予算規模が公表されていないクリーンエネルギー税額控除を除く予算規模の合計額。
(今後の見通し):問われるバイデン大統領の政治手腕
バイデン大統領は新型コロナ対策と経済対策で実績を上げてきたが、これらの政策では米国が直面する喫緊の課題としての危機意識が与野党問わず浸透しており、これらの政策実現に向けて与党内の合意を得ることには成功した。

しかしながら、足元で議会との政策調整が始まっている成長戦略としての「米国雇用計画」では既に野党共和党議員から法人税の引き上げや同計画の予算規模が大きすぎると反対の声が上がっている。また、お膝元の与党民主党内でも左派からは金額が少ないとの批判が出ているほか、保守派からは共和党と同様に法人税率の引き上げ幅や予算規模についての懸念が表明されており、与党内でさえ、合意形成することが容易でない状況となっている。

さらに、インフラ投資については金額については様々な意見があるものの、投資そのものについては与野党で合意が得られ易い一方、成長戦略第二弾に盛り込むとみられる医療保険制度改革では民主党内でメディケア・フォー・オールの実現を目指す勢力と、バイデン大統領の目指すオバマケアの拡充路線との対立があるほか、そもそもオバマケアを廃止したい野党共和党と妥協点を見出すことは困難である。

一方、バイデン大統領は「米国雇用計画」について法人税率の引き上げ幅の見直しも含めて超党派で合意を目指したい考えを示している。バイデン政権が成長戦略でも成果を上げるために、与野党をまとめることは容易でなく、上院議員や副大統領として議会調整を長年担ってきたバイデン大統領の政権運営手腕が問われるだろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年04月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【バイデン政権100日の評価-新型コロナと経済対策をまとめ、政権はロケットスタート。米国雇用計画が超党派で合意できるか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

バイデン政権100日の評価-新型コロナと経済対策をまとめ、政権はロケットスタート。米国雇用計画が超党派で合意できるかのレポート Topへ