2021年04月05日

急ピッチで進んだ円安ドル高、持続性をどう見るか?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(3月):「点検」を踏まえ、政策を小幅に修正

(日銀)政策の小幅な修正を決定
日銀は3月18~19日に開催された金融政策決定会合で「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」を行い、各種政策について小幅な修正を行った。

同点検の結果では、現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和について「経済・物価の押し上げ効果を発揮している」と前向きに評価し、「2%の物価安定の目標を実現していくために、継続していくことが適当」と総括。一方で、主に以下の対応を決定した。

(1) 重要な選択肢である長短金利引き下げの金融機関収益への影響を一定程度和らげる仕組みとして「貸出促進付利制度」を導入

(2) 市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取る観点から、「長期金利の変動幅を明確化(±0.25%程度へ)」(ただし、新型コロナの影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先)

(3) 金利の大幅な上昇を抑制する方法をさらに強化するために、「連続指値オペ制度」を導入

(4) RTFおよびJ-REITの買入れについては、「約12兆円および約1800億円の年間増加ペースの上限を感染症収束後も継続することとし、必要に応じて買入れを実施」(ETFについてはTOPIX連動型のみの買入れに)

これらの実態としては、(1) 利下げ余地創出のための金融機関への収益補填策、(2)は金利変動許容幅の小幅拡大、(3)は金利上限順守のアピール、( 4)は平時の買入れ抑制であり、これまでに蓄積し、批判を受けてきた副作用や歪みを緩和するための措置と言える。
 
日銀の主な政策修正内容(3月19日)
会合後の黒田総裁記者会見では、「今回の対応で、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の持続性や機動性が増したと考えており、こうしたもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けることによって、2%の物価安定の目標は達成できると考えている」と政策修正の意義を説明。

今回、長期金利の変動幅を「上下に±0.25%程度」とした件については、「これまでやや幅を持って表現していたもの(概ね±0.1%の幅から、上下にその倍程度)を明確化するもので、変動幅を拡大したわけではない」と発言。この措置の理由について、「金利の変動は一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに市場機能にはプラスに作用するという点検の結果を踏まえ、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取るため」と説明した。

ETFの買入れについて、年間6 兆円増の目安を削除した件については、「ETFの買入れを減らそうとか、あるいは出口とか、そういうことを考えているわけでは全くない」と述べるとともに、今回年12兆円増の上限を残した理由については、「十分な大きさの上限を示すことにより、その範囲でかなり大胆かつ大規模に購入する姿勢を示した」と説明した。
 
一方、今回も「過度な低下は好ましくない」との認識を示されている超長期金利に関しては、「今の時点で何か超長期債の金利を上げるように、あるいはイールドカーブを立てるように何かするということも全く考えていない」と言及した。また、物価目標との距離感(達成に必要な期間)についての再三にわたる質問に対しては今回の対応の主旨を説明することでけむに巻いたほか、出口戦略の議論開始の必要性については、従来同様、「全く時期尚早ですし、適切でない」と一蹴した。
(評価と今後の予想)
今回決定された政策修正によって、金利の硬直化や株価形成の歪みといった大規模緩和継続による副作用の緩和が試みられた点は評価できる。ただし、今回の小幅な修正では副作用の抜本的な緩和までは期待できない。

そもそも今回の政策点検とそれを踏まえた政策修正には違和感が残る。日銀は現行の大規模金融緩和について、一貫して「効果を発揮している」との姿勢を維持しており4、今回の点検や政策修正ももともと現行緩和の継続を前提としている。

しかし、2013年4月の「量的・質的金融緩和」導入から既に丸8年、2016年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入からも4年半もの時間が経過しているにもかかわらず、この間、殆どの期間で2%の物価目標達成から程遠い状況が続いていることへの説明は不十分と言わざるを得ない。2016年の総括的な検証や今回の点検でも物価が低迷してきた理由について一応の説明がされており、原油価格下落や消費税率引き上げ等の外部環境悪化や適合的な期待形成、弾力的な労働供給や企業の労働生産性向上などが理由として挙げられている。そして、それを踏まえて、「時間はかかるものの物価はいずれ上昇に向かう」と結論付けられている。しかし、そうした問題が(いつ)クリアされるのか、クリアされたとしても、果たして我が国において2%の物価上昇率が定着するかという点は不透明だ。

現在はコロナ禍への対応を最優先すべきであるため、時期としては適切ではないが、コロナ禍が終息した折には、我が国の特性も踏まえたうえでの物価目標の妥当性、これまでの政府による財政政策政策と構造改革の取り組み、金融政策にできることの限界などを改めて包括的・中立的な視点で評価し、金融政策を再構築することが求められる。
 
なお、金融政策の当面の見通しについては、現状維持が予想される。今回、政策修正を行ったばかりであるため、日銀はその効果や影響を注視しつつ、しばらく様子見姿勢に徹すると見込まれるためだ。また、今回、長短金利引き下げの影響を緩和するために「貸出促進付利制度」が導入されたが、同制度によって金利引き下げ時の金融機関収益への悪影響を全て吸収できるわけではないため、引き続き引き下げのハードルは高い。引き下げは円高が大幅に進む時などに限られるだろう。
 
4 今回の点検でも、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」による金融緩和の効果について、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)を前年比0.6~0.7%ポイント程度押し上げる効果があったと試算している。」
 

3.金融市場(3月)の振り返りと予測表

3.金融市場(3月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
3月の動き 月初0.1%台半ばでスタートし、月末は0.0%台後半に。
月初、無難な国債入札結果を受けて0.1%台前半に低下した後、黒田日銀総裁が長期金利の変動幅拡大を否定する発言をしたことを受けてさらに低下、5日には0.1%の節目を下回る。その後は米景気回復・インフレ観測を背景とする米金利上昇が波及する形でしばらく0.1%台前半での推移が継続。19日の日銀決定会合における政策修正では、長期金利の変動幅が実質的に小幅に拡大されたが、同時に連続指値オペ制度の導入など、金利抑制姿勢を打ち出したことで、金利上昇の容認とは受け止められず、22日には0.0%台後半へと低下、月末も0.0%台後半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(3月)
(ドル円レート)
3月の動き 月初106円台半ばでスタートし、月末は110円台後半に。
月初、米国でワクチン接種が進むなか、1.9兆ドルの追加経済対策が成立に向かい、米景気回復と物価上昇の加速、その先の金融緩和縮小を織り込んだ米長期金利の上昇がドルの追い風となる形でドル高が進み、9日には109円台前半に到達。その後も米金利の上昇基調が続くなか、108円台半ば~109円台前半で高止まりした。下旬にはバイデン米大統領がワクチン接種目標を引き上げるとともにインフラ投資計画公表への期待も高まり、110円の節目を突破。月末は110円台後半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
3月の動き 月初1.20ドル台半ばでスタートし、月末は1.17ドル台前半に。
月初、米国の良好な雇用統計結果や追加経済対策に向けた動きを受けて米金利が上昇し、ドル高圧力が高まる形で9日には1.18ドル台後半へと下落。その後11日にはECBが理事会で資産買入れペースの加速を決定したが、リスク選好のユーロ買いによって1.19ドル台を回復。以降はしばらく1.19ドルを挟んだ展開が続いた。下旬に入ると、欧州でのコロナ感染拡大とそれに伴う規制強化の動きを嫌気してユーロが下落、米国との格差が意識され、26日には1.17ドル台後半へと下落。月末はさらにユーロが売られ、1.17ドル台前半で終了した。
金利・為替予測表(2021年4月5日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年04月05日「Weekly エコノミスト・レター」)

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