2021年04月01日

日銀短観(3月調査)~景況感は製造業で大きく改善したが、業種間格差が鮮明に、先行きは慎重な見方が根強い

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 3月短観では、大企業製造業で前回に続いて大幅な景況感の改善が示された。景気回復が続く中国向けをはじめとする輸出の増加や、耐久財などでの巣ごもり需要の拡大、円高の是正等が追い風となった。一方、非製造業では、「Go To トラベル」の停止や緊急事態宣言の再発令に伴う対面サービス需要の落ち込みを受けて景況感が伸び悩んだ。資源価格上昇に伴うコスト増加圧力も重荷になっている。この結果、製造業のDIが新型コロナ流行前の水準を回復したのに対して非製造業は大きく下回ったままに留まり、製造業と非製造業の格差が鮮明になっている。
     
  2. 先行きの景況感は総じて横ばい圏に留まった。内外でワクチン接種が進み、経済活動が回復に向かうことが期待されているものの、感染力が強いとされるコロナ変異株の流行が拡大し、予断を許さない状況にあるためと考えられる。先行きの環境に対する慎重な見方が根強い。また、調査時期の関係で、3月下旬に起きた半導体メーカー火災による半導体不足の深刻化や最近のコロナ感染再拡大は十分に織り込まれていない点には留意を要する。とりわけ半導体不足の影響を直接受ける自動車産業は産業の裾野が広いだけに、悪影響の広がりが危惧される。
     
  3. 2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比5.5%減へと明確に下方修正された。設備投資関連指標は持ち直しが確認できるものの、昨年度前半の落ち込みを補うほどの力強さはない。既往の収益悪化や緊急事態宣言の再発令も逆風になったと考えられる。また、新たに公表された2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2020年度見込み比で0.5%増となった。例年3月調査の段階では前年割れとなる傾向があるが、今回は2020年度に計画されていた投資の一部が一旦先送りされることで、この時期としては異例の前年比プラスの伸びが示された。ただし、あくまでも先送り分の計上に過ぎず、投資意欲が大幅に改善しているわけではない点には留意が必要になる。むしろ、前年度の大幅な減少の後にしては慎重な印象を受ける。
製造業の業況判断D.I.が3年ぶりに非製造業を上回る(大企業)/主な業種の業況判断DI(大企業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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