2021年03月30日

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【不動産ポートフォリオの考察】
アマゾンが北米で利用するオフィススペースは、この10年間で事業規模の急成長とともに、急速に拡張されてきた。売上高(北米部門とクラウドサービス事業AWSの合算売上高32)が2012年から2020年までの8年間に年率30%で成長する一方、北米でのオフィススペースは、同期間に約47万m2から約273万m2まで年率25%で拡張されてきた(図表3)。このうち賃借スペースは、約30万m2から約220万㎡まで年率28%で拡張され、北米でのこれまでのオフィス増床を大きく牽引してきた。この結果、オフィススペースに占める賃借比率は同期間に64%から81%まで上昇した。

総利用面積が50万m2レベルに近付いた2012年からスペースの所有も開始し、20年末の所有スペースは約53万m2と全体の19%を占めている。自社所有のシアトル本社は、3本の高層オフィスタワー(37階)とスフィア(Amazon Spheres:熱帯雨林を模して植物がうっそうと茂る、3つのガラスドームをくっつけた低層のオフィス)で主として構成されるが、ドップラー(Doppler)と呼ばれる最初のタワーは、2015年にオープンしたため、所有スペースは2015年以降、増加ペースが高まっている。

直近の2020年末の北米でのオフィススペースは、賃借スペースを中心に前年末対比28%も拡張されており(賃借スペースは同31%増、所有スペースは同15%増)、コロナ禍の中でも極めて大幅なオフィス増床が躊躇なく実施された。2020年8月発表のオフィス増床計画の開業時期は不明だが、参考として2019年末の北米のオフィススペース(約214万m2)にこの増床計画(約8.4万m2)を合算した値(約222万m2)と2020年末のスペース実績値(約273万m2)を比べると、後者が約51万m2も上回っており、発表された増床計画を大幅に上回る規模の旺盛なオフィス増床プロジェクトが既にいくつか走っていたことが推測される(図表3)。
図表3 アマゾン・ドット・コム:北米立地のオフィススペースと北米事業売上高の推移
因みに、アマゾンが全世界で利用しているオフィススペース(約467万m2)のポートフォリオは、2020年末で北米の賃借スペースが約220万m2(構成比47.2%)と最も多く、海外(北米以外)の賃借スペースが約177万m2(同37.8%)、北米の所有スペースが約53万m2(同11.3%)で続いている(図表4)。全世界のオフィススペースを賃借・所有の区分で見ると、賃借スペースが約397万m2(構成比85%)、所有スペースが約70万m2(同15%)と、賃借が圧倒的に多い(図表5)。

また、アマゾンの施設全体のポートフォリオ(約4,408万m2、2020年末)を見ると、北米の「配送センター(Fulfillmentと呼ぶ)・データセンター他」の賃借スペースが約2,654万m2(構成比60.2%)と圧倒的に最も多く、海外の「配送センター・データセンター他」の賃借スペースが約972万m2(同22.1%)、北米の「オフィス」の賃借スペースが約220万m2(同5%)、北米の「小売実店舗」の賃借スペースが約197万m2(同4.5%)、海外の「オフィス」の賃借スペースが約177万m2(同4%)、北米の「配送センター・データセンター他」の所有スペースが約79万m2(同1.8%)、北米の「オフィス」の所有スペースが約53万m2(同1.2%)で続いている(図表5)。全体の施設ポートフォリオを賃借・所有の区分で見ると、賃借スペースが約4,222万m2(構成比95.8%)、所有スペースが約187万m2(同4.2%)と、賃借が圧倒的に多い。また用途別の区分(アセットクラス)で見ると、配送センター・データセンター他が約3,737万m2(構成比84.8%)と圧倒的に最も多く、オフィススペースが約467万m2(同10.6%)、小売実店舗が約204万m2(同4.6%)で続いている(図表5)。
図表4 アマゾン・ドット・コム:全世界のオフィススペースのポートフォリオ構成(2020年末)
図表5 アマゾン・ドット・コム:全世界の施設(不動産)ポートフォリオ(2020年末)
 
32 アマゾンの財務報告において現在開示されているセグメント情報は、「North America(北米)」、「International(海外:北米以外の地域)」、「AWS(クラウドコンピューティングサービス)」の3部門に分かれる。北米部門と海外部門には、ネット通販事業、Amazonプライム等サブスクリプション事業、実店舗小売事業など、AWSを除くすべての事業が含まれる。AWSは日本を含めグローバル展開が図られているが、北米での事業規模が比較的大きいとみられ、ここでは、北米部門とAWS部門を合算したものを北米事業であると大雑把に捉えることとした。
【創造的なオフィス空間の重要性を熟知】
このように、アマゾンはこれまで事業拡大に合わせて、北米でのオフィス増床をハイペースで実施してきたのだが、コロナ禍の中でもさらなるオフィス拡張に動くのは、単純に成長企業であるとの理由だけではない、と筆者は考える。

「米IT企業ではツイッターが(※2020年)5月12日、約5,100人の全社員を対象として一定の条件を満たせば期限を設けずに在宅勤務を認める方針を示した」のに続き、「フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は(※2020年5月)21日、今後5~10年で社員の半数が自宅で勤務するようになるとの見通しを示した。新型コロナウイルスへの対応として始めた在宅勤務の成果をふまえ、自宅で働くことを前提とした技術者の採用を始めるなど社内体制を整備する」33という。

世界最大のクラウドベンダーでもあるアマゾンなら、両社のように、在宅勤務を前提とした人材採用により大幅なオフィス増床を回避したり、コーポレート・技術開発系の全社員を対象にした完全リモートワーク体制に移行したりすることは、技術的には容易に可能であろう。アマゾンは、コロナ禍の中でもあえてそれをやらずに、従業員増員に合わせてオフィス増床をきっちりと行うことを決めたのは、BCP対策や多様な働き方の1つとして在宅勤務という選択肢も勿論備えつつも、何よりも快適なオフィス空間が従業員の活力や創造性に大きく影響を与えることを熟知しているからだろう。経営陣の目利きで選りすぐった優秀な人材を採用しているとの確信の下に、快適なオフィス環境と柔軟で裁量的な働き方をセットで備えた創造的で自由な環境さえ提供すれば、厚い信頼を置く従業員の創造性は最大限に引き出され、イノベーションが生み出されるとの考え方が、経営陣に浸透していると思われる34

このような考え方は、アマゾンに限らず、アップル、グーグル、フェイスブック、マイクロソフトといった米国の先進的な巨大ハイテク企業に共通するものだ。対照的に人材採用に自信を持てない経営トップは、従業員を性悪説的に捉えがちとなり、創造的で自由な働く環境を従業員に提供するとの考えには至らないだろう。従業員に寄り添うオフィス戦略を描けない、このような経営トップは、オフィスを単なるコストとのみ捉えがちであり、短期利益を確保するコスト削減のために安易にオフィススペースを削減することもあるだろう。
 
33 日本経済新聞電子版2020年5月22日「Facebook 社員の半数、「コロナ後」も在宅勤務」より引用((※ )は筆者による注記)。左記記事によれば、フェイスブックでは「新たに採用する在宅勤務を前提とした技術者は、同社の米国内の開発拠点から4時間以内の地域に住んでいることを条件とする。採用拡大に向けて米東部のアトランタなどに拠点を設ける方針を示した」という。またツイッターでは「オフィス再開後に出勤を希望するスタッフには、出社を認める」(BBCニュース2020年5月13日「ツイッター、在宅勤務を「永遠に」許可へ 新型ウイルス対策で効果実感」より引用)といい、両社ともに在宅勤務の重要性を今回再確認しつつも、極端な「オフィス不要論」には走らない柔軟な対応を取る、と筆者はみている(フェイスブックについては、本文に記述した通り、ニューヨークでオフィスの大幅な拡張を進めている)。
34 筆者は、このような考え方を拙稿「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年8月号にて提示した。
【集積の不経済に対応したオフィス分散化】
第2本社プロジェクトが進められているアーリントンに加え、2020年8月に発表されたオフィス拡張計画が実施される6都市は、いずれも本社のあるシアトルに近接しない、全米の東海岸から西海岸に至る広範な範囲に分布するため、徹底したオフィス分散化によるBCP強化の狙いも大きいとみられる。

また、シリコンバレーやシアトルといった米国のハイテク企業の一大集積地では、人材獲得競争の激化に加え、ハイテク企業に勤務する高所得者の増加に伴う住宅価格・家賃の急騰、住宅不足や交通渋滞など集積の不経済(デメリット)が一部で現れ始めている。アマゾンでは、この集積の不経済を食い止めるとともに、相対的に割安なコストでの雇用増が見込める都市へ進出するためにも、シアトルからのオフィス分散化が喫緊の課題と捉えられているのではないだろうか。また、アマゾンは今年1月に「米国内の本社や拠点の周辺地域に20億ドル(約2,060億円)を投じ、中低所得者向けの低価格帯の住宅を建設すると発表した。高賃金のアマゾン社員の増加に伴う地域の家賃高騰や住宅不足に対応する。本社のあるワシントン州シアトル近郊のピュージェット湾岸地域、第2本社となるバージニア州アーリントン、オペレーションセンターを建設するテネシー州ナッシュビルでの建設を想定している。5年間で少なくとも2万戸の住居を提供する計画だ」35といい、企業市民として集積の不経済を直接取り除く取組にも着手した。アマゾン以外のGAFAも「グーグル親会社のアルファベットやフェイスブックは、すでに手ごろな価格の住宅整備に乗り出している。アップルはカリフォルニア州の住宅難解消に向け、25億ドルの基金を拠出する方針を明らかにしている」36という。企業は、地域・都市に構築した拠点を起点に事業活動を通じて、地域活性化や社会課題解決など「外部経済効果」を最大限に引き出すことに取り組むとともに、立地したことで「外部不経済」が発生するのであれば、それを最小化・ゼロ化しなければならない37。特にGAFAなど巨大デジタルプラットフォーマーが及ぼす社会的インパクトは非常に大きくなっているため、このような視点がより強く求められている、と思われる。

このようにシリコンバレーやシアトルでは集積の不経済が一部で現れ始める一方で、ニューヨークには、GAFAやスタートアップなどハイテク企業が近年相次いで進出し、前述の通り、アマゾンやフェイスブックはコロナ禍の中でもオフィス拡張に積極的に動いていることから、世界有数のメガシティであるニューヨークでは、集積の経済(メリット)が依然としてしっかりと働いていると、多くのハイテク企業が捉えているとみられる。

日本の産業界では、コロナ禍でオフィスの利用率が大幅に低下する中、「オフィスは不要」とまでは言わないまでも、「現状のオフィススペースを維持するのは難しい」と考えている企業は多いのではないだろうか。アマゾンやフェイスブックは確かに成長企業ではあるが、現状ではオフィスを増床するアイデアなどとても出てこないであろう、大半の日本企業と余りにも好対照だ。コロナ禍の中でも、アマゾンが全米にわたる広範かつ大規模なオフィス分散化への投資を戦略的かつ果敢に続行し、フェイスブックは在宅勤務をフル活用しつつも、次のハイテク集積地と期待されるニューヨークには、大規模なオフィススペースの確保に大胆に乗り出すことで、メインオフィスをワークプレイスの中核にしっかりと据えることを堅持しつつ、メリハリの利いた柔軟かつ機動的な経営判断を行っているのを見ると、米国の巨大ハイテク企業の凄みを改めて感じる。
 
35 日本経済新聞電子版2021年1月7日「米Amazonが低価格住宅 本社周辺など家賃高騰批判で」より引用。
36 出典は注35と同様。
37 筆者は、このような考え方を拙稿「CSRとCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日にて提示した。
(4)グーグル:アマゾンに続き米国内でのオフィス増床と雇用増の続行を表明
オフィス空間が従業員の創造性に大きく影響を与えることを熟知し、早くから従業員に贅沢なまでの快適なオフィス空間を提供してきたグーグルも、アマゾンの昨年8月の発表に続き、全米にわたってオフィス増床を続けることを今年3月18日に表明した。グーグルおよびアルファベットのCEO(最高経営責任者)サンダー・ピチャイ氏が、2021年に全米各地でオフィスとデータセンターの新増設に70億ドル超の投資を行うとともに、米国のグーグルで少なくとも1万人のフルタイム従業員を新規雇用する計画であることを、グーグルの公式ブログを通じて発表したものだ38

ピチャイ氏は、同ブログの中で「社員間でコラボレーションしコミュニティを構築するために直接集まることは、グーグルの文化の中核であり、今後も我々の将来の重要な部分となるだろう。だから我々は、全米にわたってオフィスへの大規模な投資を引続き行う」と述べている。同社では、社内にコミュニティを形成しイノベーションを創出するための場としてのオフィスの重要性が企業文化として根付いているため、コロナ禍の中でも必要不可欠な投資としてオフィスの大幅な拡張を躊躇なく続行できているのであり、ピチャイ氏のブレない考え方に、筆者は強く共感する。

計画では、オフィスを新増設する都市は、首都ワシントン、ニューヨークなどの東海岸からマウンテンビュー、シアトルなど西海岸にわたる13州17都市(筆者集計)の米国全土に及び、昨年発表のアマゾンの計画より広範かつ大規模とみられる(図表6)。このうち、バージニア州レストン、テキサス州ヒューストン、ミネソタ州ロチェスター、オレゴン州ポートランドでは、オフィスを新たに開設する。その他は既存拠点での拡張とみられ、アトランタ(ジョージア州)、首都ワシントン、シカゴ(イリノイ州)、ニューヨーク(ニューヨーク州)では、「数千の業務(※≒雇用)を追加する計画39/sup>である」という。特にニューヨークでは、従業員数を2028年までに倍増させることを2018年にコミットしており、この目標を達成するために同市でのキャンパスの存在感を高めるオフィス投資を継続する40

グーグルは、米国全土に及ぶ極めて広範なオフィス分散化により、BCPの強化や全米の多様なコミュニティでの雇用増・投資増を通じた地域活性化・地域貢献などを果そうとしているとみられる。一方で、最も重要な本拠と位置付けられる本社(マウンテンビュー市)を置く地元のカリフォルニア州では、今年10億ドル超を投じてオフィス増強41を引続き図るとともに、ベイエリアでの住宅の価格高騰・不足の改善に向け10億ドルを投じて対策を講じるコミットメント(2019年発表)の一環として、中低所得者向け低価格住宅の整備促進のサポートを続け、本社のあるシリコンバレーでの一極集中による集積の不経済の緩和への貢献も企業市民として怠らない(図表6)。この住宅問題へのコミットメントの一環で当社が創設した2.5億ドルのファンドの支援によって、2029年までにベイエリアで2.4万戸の低価格住宅が建設される見通しだという。

創造的なオフィスのメリットを熟知しこれまでそれを十分に使いこなしてきたオフィス戦略のベストプラクティスである、アマゾンとグーグルが、コロナ禍の中で、あえて米国内でのオフィス増床を続行するとの力強い表明を揃って行ったことで、筆者が昨年いち早く打ち出した「コロナ前後でオフィスの重要性は何ら変わらない」との主張の正当性・信憑性を、より強く認識して頂けるのではないだろうか。コロナ禍の中でも、「オフィスの重要性」を変えてはいけない原理原則としてこだわる、両社の全くブレない経営戦略の一貫性は、日本企業が学ぶべき重要な視点の1つだ。
図表6 グーグル:米国での2021年オフィス増床計画(2021年3月18日発表)
 
38 本事案については、Sundar Pichai,CEO of Google and Alphabet“COMPANY ANNOUNCEMENTS:Investing in America in 2021”blog.googleを基に記述した。
39 原文は“plans to add thousands of roles in Atlanta, Washington, D.C., Chicago and New York”。※は筆者による注記。
40 ニューヨーク市のデブラシオ市長によれば、グーグルの計画ではニューヨーク市で今年2億5,000万ドルを投資し、従業員数を現在の1万1,000人から数年後には1万4,000人に増やす(CNN2021年3月22日「米グーグル、オフィスやデータセンターに7600億円投資」より引用)。
41 カリフォルニア州の本社近くでは、年内の完成を目指して新たな社屋の建設を進めている(日本経済新聞電子版2021年3月19日「Googleが米で7600億円投資 21年、オフィスなどを拡張」より引用)。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

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