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新型コロナ インドは集団免疫?-自然免疫と3億人のワクチン接種で、感染を封じ込め

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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これまでに、世界全体で感染者数は1億1960万3761人、死亡者数は264万9722人。日本の感染者数は44万7906人、死亡者数は8590人(横浜港に停留したクルーズ船を含まない)に達している。(3月15日現在(CET)/世界保健機関(WHO)の“WHO COVID-19 Dashboard”より)
日本では、首都圏1都3県で、1月に再発令されて3月7日まで延長されていた緊急事態宣言が、21日までの期間に再延長された。新規感染者数の下げ止まりやリバウンドの傾向がみられており、今後の宣言の解除や感染の鎮静化には、なお予断を許さない状況が続いている。
そんななか、1月下旬、インドでは感染の封じ込めに成功した、とのニュースが海外のメディアで報じられた。インド政府は、感染拡大を止めるために昨年春以来、国民に厳しい行動制限措置を課してきたが、新規感染者数の減少傾向を受けて、2月に措置を緩和している。このインドの感染動向をどう見たらよいか、少し考えてみたい。
◆ 昨年9月のピーク時には1日約10万人が新規感染
その後、新規感染者は春から夏にかけて徐々に増加した。夏になっても感染拡大は落ち着かず、9月中旬にはピークとなり、1日で9万7000人を超える新規感染者が出た。それ以降は徐々に新規感染者数は減少して、今年2月には1日あたり1万人前後の水準に落ち着いた。3月に入って、1日あたり2万人前後に増加しつつある。
1日あたり1万人や2万人というと、まだ感染規模は大きいように思われるかもしれない。しかし、インドは人口が13.5億人(2018年)と、日本の10倍以上であることを踏まえれば、感染はかなり落ち着いたといえるだろう。
死亡者数も、昨年春から夏に増加していった。9月中旬には、1日で1200人を超える死亡者が出てピークを迎えた。その後、徐々に減少して、今年3月には1日100人前後にまで下がっている。
インドでは、欧米や日本などで見られた第2波、第3波といった感染の波は来ていない。9月中旬のピークを境に感染が減少傾向となり、その傾向が続いているという。
◆ インド全域では厳しいロックダウンが敷かれた
このロックダウンは、都市間の移動制限はもとより、食料品や薬剤等の生活必需品関連の店舗以外は営業禁止としたうえで、市民に外出禁止を徹底するなど、非常に厳しいものであった。警察官が違反した人を棒で叩いて取り締まっている様子を、ニュース映像で見た人も多いだろう。
ただ、このような厳しい措置にも関わらず、新規感染者数は徐々に増加した。政府はロックダウンの長期化による経済活動の停滞を懸念したためか、5月30日より全国一律のロックダウンを段階的に解除し、各州政府主導の規制へと移行していった。
学校が休校となり、2億7000万人いるとされる児童のほとんどは、昨年3月~今年1月まで、教室に足を踏み入れなかったといわれている。また、ホワイトカラーの事務員の中には、ずっと在宅勤務をしているという人が多くみられたようだ。
感染が落ち着いたことを受けて、2月からは移動制限の解除をはじめ、スイミングプールの利用制限の撤廃や、映画館、劇場で定員の5割超の観客収容の許可など措置の緩和が行われている。
◆ 首都デリーでは住民の半数以上が抗体を保持?
2月上旬にその分析結果が発表されたのだが、それによると、検査を受けた人の実に56%以上が抗体を持っていたという。これは、首都圏地域の人口約2000万人のうち、半数の1000万人以上が、すでに自然感染して抗体を持っていることを示唆する結果だった。
インドにおける新型コロナの感染力にもよるが、おおむね6~7割の人が免疫を持てば、集団免疫が確立するといわれている。首都圏政府は、この結果を受けて、「デリー首都圏の住民に集団免疫が形成されつつある」と説明している。
◆ 集団免疫の確立には懐疑的な声も
「この調査結果は、パンデミックの過程で多くの無症候性感染が発生したことを示している。約50%がウイルスに対する抗体を持っており、集団免疫を獲得する私たちの自然な方法となる」(オールインディア医科学研究所准教授)
「人々が抗体を作ったのは事実だが、インドは集団免疫を獲得するにはほど遠い」(同研究所元医学部長)
「多くの人々は依然として感染のリスクが高く、ワクチン接種と新型コロナの取扱基準に従うことが重要」(インドのCOVID対策委員会)
「集団免疫はワクチン接種から得られるべき。それこそが感染の拡大を止めて、感染していない人々を守る」(デリー医療協議会)
そもそも今回の抗体検査は、デリー首都圏で行われたもので、インド全体の状況を調査したわけではない。もし首都圏で集団免疫に近づいたとしても、人々が都市間や、都市と地方の間を行き来すれば、インド全体では感染拡大が続いてしまう。自然免疫だけで、インド全体の集団免疫が達成できるかどうかについては、否定的な声が多いといえそうだ。
さらに、ウイルスの変異による感染再拡大を懸念する声も強い。2月の行動制限措置の緩和により人々の感染リスクが高まったところに、イギリス、南アフリカ、ブラジルでみられた感染力の強い変異種ウイルスが襲いかかれば、感染爆発が起こりかねないとの懸念だ。
◆ 感染数が過少と指摘する声も
「報告された患者は、真の患者を反映しているわけではなく、検査を受けた人々を反映しているに過ぎない。このウイルスはインドで猛威をふるい、世界のどの国よりも急速に広がっている」(ハーバード大学教授)
「患者の30~40%が無症候または軽症の感染となっていて、検査を受けていない可能性がある」(オールインディア医科学研究所所長)
「何人死んだか、分からない。誰も数えていない」(クリスチャン医科大学元教授)
このようにインドで公表されている感染者数や死亡者数の数字は実態より過少となっていると指摘する声もある。感染しても検査を受けなかったり、死亡しても死因が決められなかったり、といったケースが相当数あるようだ。
◆ 8月末までに3億人のワクチン接種を目指している
インドでは、1月16日から、医療従事関係者などを対象の第一陣として、ワクチン接種が始まっている。3月1日からは60歳以上の高齢者などに対象を広げた。3月11日時点で、2000万人以上の人が1回は接種を受けたと報じられている。ただ、この接種数は目標ペースを大幅に下回っており、さらに急ぐ必要があるとの声が強い。政府は8月末までに3億人に接種することを目指している。
自然感染による免疫獲得と、ワクチン接種による免疫獲得──どちらが先かはともかく、一人ひとりの免疫獲得が進めば、いずれはインド全体での集団免疫の確立が期待できるだろう。ただ、それまでの間、まだしばらくは感染防止策が必要となる。
インドの政府、医師、科学者は人々に対して、大規模な集会や混雑した場所を避け、フェイスマスクの使用と手指衛生を続けてほしいと呼びかけている。
この呼びかけは、ようやくワクチン接種が始まった日本にも、そのまま当てはまるものと考えられるが、いかがだろうか。
(2021年03月16日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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