コラム
2021年01月25日

新型コロナ ワクチンのただ乗り-ワクチン忌避をいかに減らすか?

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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新型コロナウイルス感染症は、年末年始を経て急速に感染が拡大している。世界では、死亡者数で、アメリカが41万人、ブラジルが21万人、インドが15万人に達している。感染者数では、アメリカが2460万人、インドが1065万人、ブラジルが875万人を超えている。そのほかにも、ロシアやヨーロッパ、中南米諸国など多くの国で感染拡大が進んでいる。拡大防止に向けて、アメリカやヨーロッパ各国では、ロックダウンや外出制限などの厳しい措置がとられている。だが、イギリスや南アフリカでは感染力の高い「変異種」が出現して、各国で猛威を振るうなど、収束の見通しは立っていない。

日本でも、昨年末から新規感染者や重症者の数が急増し、年明けには緊急事態宣言が再発令された。1月8日から1都3県に適用され、1月14日からは適用地域が11都府県へと拡大されている。

これまでに、世界全体で感染者数は9746万4094人、死亡者数は211万2689人。日本の感染者数は36万661人、死亡者数は5019人(横浜港に停留したクルーズ船を含まない)に達している。(1月24日現在/世界保健機関(WHO)の“WHO COVID-19 Dashboard”より)

そんな中、昨年12月に欧米各国でワクチンが緊急承認され、接種が開始されている。日本でも製薬メーカーからの申請を最優先で審査し、承認後には速やかに接種が始まるものとみられる。現段階では2月下旬には接種開始となるよう準備が進められているという。

ただ、ワクチンには副反応がつきものだ。副反応を心配して、「ワクチンは当面打たないでおこう」と考える人も多い。たしかに、自分がワクチンを打たなくても、周りの多くの人が打ってくれれば、自分にも感染しないはずだ。

これは「ワクチンのただ乗り(フリーライダー)問題」と呼ばれ、ゲーム理論を使った疫学モデル(「ワクチン接種ゲーム」と呼ばれる)で研究されている。それでは、ワクチンのただ乗りを減らして、集団免疫を確立するにはどうしたらよいだろうか? 少し考えてみたい。

◆ワクチン接種には、慎重な人が多い

まず、そもそも集団免疫とはどういうものか見ていこう。

新型コロナに限らず、感染症の拡大防止には「集団免疫」が重要とされている。これは、集団内に免疫を持つ人が多ければ、感染症が流行しにくくなることを利用した感染拡大防止の考え方を指す。

具体的には、ワクチンの予防接種等により、集団内の免疫保持者を一定割合にまで高めておくことを意味する。新型コロナの感染力にもよるが、おおむね6~7割の人がワクチン接種によって免疫を持てば、集団免疫が確立するといわれている。

ただ、日経新聞が昨年末に行った世論調査によると、新型コロナのワクチンが承認された場合、「ただちに接種したい」という声は、約1割と少数派だ。7割程度の人が、「副作用の発生などの状況をみてから接種したい」としており、「接種したくない」との声も1割程度ある。ワクチン接種には、慎重な人が多いようだ。

◆「ワクチン接種ゲーム」のモデル化

次にモデルについて簡単にまとめておこう。一般に、感染症の拡大の様子をあらわすモデルとして、「SIRモデル」が有名である。

これは、人々を「感染しておらず免疫がない人(Susceptible, S)」、「感染している人(Infectious, I)」、「感染から回復して免疫を持っている人(Resistant, R)」の3つの集団に分けて、時間の経過とともに、それぞれの集団がどう変化するかをみていくものだ。

SIRモデルは、新型コロナの感染拡大の予想にも使われている。ただ、SIRモデルをはじめ、どんなモデルも万能ではない。前提の置き方によって、感染者数が急増するといった結果にもなる。昨年の春には、感染者数が猛烈に増えるとの試算結果が報じられて、激しい議論がわきあがったこともあった。

ワクチン接種ゲームでは、SIR モデルの S、つまり「感染しておらず免疫がない人」について、ワクチン接種の有無を反映させる。ある期の始めにワクチンを接種すればその期は感染しないが、接種しなければ一定の確率で感染する。そして、1期分SIRモデルを動かしてから、次の期の始めに、また接種の有無を判断して、Sに対してその判断内容を反映させる。これを何期も繰り返すことで、接種率の変化と感染拡大の動向をシミュレーション計算していくわけだ。

ワクチンの接種は、それぞれの人が判断する。判断にあたっては、それぞれの人が他人の行動を参考にすると想定する。すなわち、前期に接種した人や接種しなかった人が、どのようなメリット、デメリットを受けたかをもとに、今期の自身の接種の有無を判断する。

◆デメリット割合とワクチン接種率の関係

ここで、ワクチン接種のメリットとデメリットを整理してみよう。

ワクチンを打つメリットは、当然、免疫を獲得して感染を防ぐことだ。一方、デメリットには、接種にかかる費用とワクチンによる副反応が挙げられる。

まず費用について、日本では、新型コロナのワクチン接種は、誰でも無料で受けられることが決まっている。ただし、ここでいう費用は、接種そのものの費用だけを指すわけではない。

人によっては、接種会場までの交通費がかかったり、接種のために仕事や学校を休まなくてはならなかったりすることがあるだろう。複数回接種を受けること自体が面倒と考える人もいるはずだ。そのため、費用がまったくゼロになるとは限らない。

もう一つの副反応について、どんなワクチンでも副反応を完全にゼロにすることはできない。ワクチン接種が始まったイギリスやアメリカでは、接種後にアレルギー反応が出たケースが報告されている。ただ、副反応にも、いろいろなものがある。一時的な炎症であればデメリットは小さいが、生命の危険にさらされたり、後遺症が残ったりするような副反応となると、大きなデメリットとなる。

ワクチン接種ゲームでは、これらのデメリットを全部まとめたうえでメリットと比較することで、ワクチンを打つか打たないかを考える。つまり、感染を防げることのメリットを100%として、それに対するデメリットの割合に応じて、それぞれの人が接種するかどうかを判断する。

何期か終えた後のワクチン接種ゲームの計算結果のイメージを、グラフで見てみよう。横軸に接種のメリットに対するデメリットの割合、縦軸にワクチンの接種率をとる。右にいくほどデメリットが大きくなり、その分、ワクチン接種の魅力は下がる。その結果、グラフは右下がりの曲線となる。
図.デメリット割合と接種率の関係(イメージ図)
このグラフを少し細かく見てみよう。デメリットがゼロならば接種率は100%だ(別掲グラフの1の部分)。だが、デメリットが少しでもあると、接種率は大きく低下する。これは、「少しでもデメリットがあるなら、ワクチンは打たない」という人が出てくるためとみられる。

次に、そうした人が抜けたあとは、デメリットが大きくなるにつれて、ワクチンを打つ人がなだらかに減ってくる(別掲グラフの2の部分)。この状態では、「ワクチンを接種して感染するのを避けたい」と思う人が徐々に減るため、接種のデメリットが上がるにつれて接種率が下がるわけだ。

最後に、デメリットがどんどん大きくなり、感染予防のメリットの9割程度になると、ほとんどの人にとってワクチンを打つ意味がなくなってくる(別掲グラフの3の部分)。これは、「たとえワクチンで感染は防げたとしても、重い副反応が出てしまうのでは話にならない」と考える人ばかりの状態だ。こうなると、接種率はゼロまで下がってしまう。

◆ワクチン接種の判断は、何を参考にするか

モデルでは、それぞれの人が接種の判断にあたり、他人の行動を参考にすることを想定している。そもそもワクチンを接種するかどうかを判断する際、読者のみなさんは何を参考にするだろうか?

「他人の様子は一切気にせず、自分一人で決める」という人もいるかもしれない。だが、たいていの人は、「他の人が接種を受けて、その結果、感染を防げたようなら自分も受けてみよう」というように、他人の真似をすると考えられる。つまり、当面は様子見をしておこう、という考え方だ。前出のメディアの世論調査の結果にも、そのことが表れている。

ここで問題となるのは、誰の真似をするかだ。まず考えられるのは、家族や友人など身近な人だ。しかし、現代のような情報化社会では、参考になるのは身近な人ばかりとは限らない。

例えば、メディアで有名人の接種が報じられれば、その影響を受ける人も多いはずだ。アメリカでは、現大統領や副大統領などが、12月に予防接種を受ける姿を公開していたが、これは国民への接種推奨の効果を考えてのことといえそうだ。

では、接種に関する情報が開示されていて、模倣する対象が多い場合、どうなるだろうか?
先ほどのモデルによると、グラフの主に2の部分で違いがあらわれるようだ。情報が開示されるほど、デメリットが上がった時の接種率の低下の傾きが急になる。つまり、ワクチン接種に関する情報がオープンな社会では、人々がデメリットの情報に敏感になるとの結果だ。

◆デマやニセ情報は「ワクチン忌避」をもたらす恐れも

ワクチンに対する考え方は、人それぞれだ。接種を受けるか、受けないかの判断基準は、人ごとに異なる。

ただ、判断にあたって、すでに行われた接種の情報はとても大切だ。特に、副反応については、「何人に接種して、そのうち何人に症状が出たのか?」、「その症状の重さはどの程度だったのか?」、「症状が出た原因は、どの程度わかっているのか?」といった情報が正しく伝えられるかどうかで、様子見をしていた人の態度が変わってくるだろう。

SNSが浸透している現代は、ネット上のデマやニセの情報に翻弄される恐れもある。正確な情報がないと、人々は疑心暗鬼になってしまう。たとえば、副反応の情報がSNSを通じて断片的に流れて、それに尾ひれがつくと人々の不安が高まってしまう恐れがある。そうなれば、せっかくのワクチンを忌避する動きが出てしまいかねない。

WHOは、健康に対する脅威の1つとして、「ワクチン忌避」を挙げている。誤った情報のせいで、せっかくのワクチンを忌避する動きが出る事態は、何としても防ぐべきだろう。

日本では、この春から新型コロナのワクチン接種が始まる予定だ。ワクチンを打つかどうかを考える際には、まずはワクチンに関する正確な情報への感度を高めておくことが必要だ。

最終的には、一人ひとりが自分で納得のいく判断をして、ワクチン接種に対応する。このことが、集団免疫確立の近道といえそうだが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

(2021年01月25日「研究員の眼」)

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