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新型コロナ 検査後も3密回避を-陰性判定が出た後には、どのように行動すべきか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
世界各国を見渡すと、死亡者数では、アメリカが10万人、イギリス、イタリアが3万人を上回っている。感染者数では、アメリカが170万人、ブラジル、ロシアが40万人を超えている。
世界全体で感染者は605万7853人、死亡者は37万1166人。日本の感染者は1万6884人、死亡者は892人(横浜港に停留したクルーズ船を含まない)に達している(6月1日現在/世界保健機関(WHO)調べ)。
日本では、緊急事態宣言が5月25日に全面解除された。だが、感染拡大の第2波や第3波の脅威はくすぶったままだ。感染症の状況を把握したうえで、ウイルスとの共生に向けた新たな取り組みを模索する動きが出ている。
感染症の状況をつかむうえで、もっともカギとなるのが検査だ。精度の高い検査を行うことで、感染者と非感染者を分けることができれば、それぞれの区分に適切な対応をとることができる。
しかし、現在まで、日本は、新型コロナの検査数が諸外国に比べて大幅に少ない。このため、検査体制の拡充が必要といわれている。そこで、たとえば新たな検査キットを薬事承認するなど、検査数を大幅に増やす取り組みが進められている。
そんな中、東京都は新規感染者数だけでなく、検査を受けた人のうち陽性判定を受けた人の割合である「陽性率」の公表を5月8日より始めた。5月31日のPCR検査の陽性率は、速報値で1.9%とされている。
それでは、こうした検査体制の拡充により検査が受けやすくなり、実際に検査を受けて判定結果が出たときには、どう行動すべきだろうか。少し、考えてみたい。
◆新型コロナ検査の精度は定まっていない
このPCR検査は、鼻腔や咽頭からぬぐった液を検体として用いる。唾液を検体として用いる検査も、6月2日から可能となった。検体とするウイルスの遺伝子を増幅して検出する検査法で、遺伝子をもとにウイルスの有無をみるため、感染してから日が浅くても検出できる。
遺伝子抽出には複数のステップが必要で、検出までに数時間を要する。また、実験者が感染してしまう「実験室内感染」を防ぐために、手順を慎重に行うことが求められる。このため、一日に処理できる検体数は限られている。
すでに、欧米の一部で始まっている「抗原検査」(迅速簡易検査法)もある。鼻腔や咽頭からぬぐった液を検体として用いるのは、従来のPCR検査と同じだ。唾液を検体として用いる検査も、研究されている。
抗原検査の検査キットには、ウイルスに対する抗体が仕組まれており、検体にウイルスがあると、その抗体が結合してキット上に色のついたラインが確認できる。日本でも、インフルエンザの診断や妊娠検査薬で用いられている方法だ。医療施設などで、15分ほどで簡単に検査できるが、感染してもウイルスが十分に増えるまではうまく判定できないため、PCR検査よりも精度は劣るとされる。
免疫反応からできる抗体を用いる「抗体検査」もある。指先などの皮膚を穿刺(せんし)して得られる、ごく少量の血液を検体として用いる。ウイルスではなく抗体をみるため、感染しても、抗体ができるまでは、うまく判定できない。この検査法は、現在感染しているかどうかよりも、過去に感染したことがあるかどうかをみるのに適している検査とされる。
このほかにも、さまざまな検査法があり、検査キットの開発などが進められている。
どの検査でも、判定結果が感染の実態とどれだけ一致しているか、すなわち検査の精度が問題となる。しかし一般に、新型コロナの検査の精度は、まだ定まっていない。
◆感度と特異度がともに高ければよいが……
感度は、感染している人に、その検査を実施したら、どれだけの割合が“陽性”と判定されるか。特異度は、感染していない人に、その検査をしたら、どれだけの割合が“陰性”と判定されるか──を表すものだ。
感度や特異度は、検査ごとの固有の精度を表す数値だ。もし感度100%、特異度100%の検査があれば理想的だが、実際にはそんな検査はない。
たとえば、PCR検査では、まだ確立された数値とは言えないが、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の『新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療所・病院のプライマリ・ケア 初期診療の手引き Version 2.1(2020年4月30日公開、5月26日改訂)』によれば、感度は30~70%程度、特異度は99%以上と推定されている。
感度と特異度は、“あちらを立てればこちらが立たず”という、トレードオフの関係にある。たとえば、感度を上げようとして、判定基準を緩めて陽性を出やすくすれば、感染していない人についても陽性の判定が多くなり、特異度が下がってしまう。
つまり、検査の精度をみるうえでは、感度と特異度のバランスをいかにとるかがポイントとなる。
◆判定結果はどれだけ信用できるのか?
検査を受ける人がいちばん気にするのは、判定結果はどれだけ信用できるのかということだろう。
陽性の判定が出たときに、本当に感染している割合は「陽性的中率」といわれる。逆に、陰性の判定が出たときに、本当に感染していない割合は「陰性的中率」といわれる。検査を受ける人にとっては、この陽性的中率や陰性的中率が関心の的(まと)となるはずだ。
ただ、残念なことに、陽性的中率や陰性的中率は、検査固有の数値ではなく、その社会の感染者の割合によって左右されてしまう。そのことを、次の【モデル】でみてみよう。
まず、PCR検査の精度について、感度70%、特異度99%と想定する。次に、検査を行う地域では、住民のうち10%の人が感染していると想定する。
この地域でランダムに選んだ1000人の住人にPCR検査を実施する。すると、この1000人は「感染していて陽性判定の人」「未感染だが陽性判定の人」「感染しているが陰性判定の人」「未感染で陰性判定の人」の4つのタイプに分けられるはずだ。
この4つのタイプがそれぞれ何人ずついるか、計算してみよう。
まず、住民のうち10%の人が感染していると想定したから、100人が感染、900人が未感染となる。
次に、感度70%と想定したから、感染している100人のうち、70人が陽性判定、30人が陰性判定となるはずだ。
また、特異度は99%と想定したから、未感染の900人のうち、891人が陰性判定、9人が陽性判定となるだろう。
このようにして、4つのタイプがそれぞれ何人いるかをまとめたのが、つぎの(表1)だ。陽性判定は79人、陰性判定は921人となる。1000人が検査を受けて、79人が陽性判定となるから、検査の陽性率は7.9%となっている。
いっぽう、陰性の判定を受けた921人のうち、本当に感染していない人は891人で、陰性的中率は97%と高い。残りの30人は、じつは感染している「偽陰性」だ。この偽陰性の人が問題となる。
偽陰性の人が、密閉空間・密集場所・密接場面の3密を回避せずに、人混みのなかに入っていけば、周囲の人に感染を広げてしまう恐れがあるからだ。
◆偽陰性の増加と感染拡大の「負のスパイラル」
検査で陰性と判定されたが、実は感染している偽陰性の人が何人もいたとしよう。この人たちが3密を回避せずに、人混みにのなかに入っていけば、周囲に感染を広げてしまう。
すると、社会全体の感染者の割合は高まる。感染者の割合が高まると、陰性的中率はさらに下がる。つまり、偽陰性の割合が上がる。こうして増加した偽陰性の人が、さらに感染を拡大させていき……。このように、偽陰性の人の増加と、感染拡大の「負のスパイラル」が発生する恐れがあるのだ。
◆判定結果を受けて、どのように行動すべきか
繰り返しになるが、どんな検査にも100%の精度はない。検査を受けた人が、このことをよく理解しないまま、判定結果を鵜呑みにして行動してしまうことは避けるべきだろう。
たとえ陰性の判定結果が出た場合でも、「感染していない可能性が高い」ぐらいに捉え、「絶対に感染していない」とは考えないようにする。
ちなみに、5月に薬事承認された抗原検査では、陽性判定の場合は確定診断となるが、陰性判定の場合は確定診断を下すために、別途PCR検査を行うこととされている。
今回の新型コロナは、感染拡大が始まってからまだ日が浅く、疫学や病理学などの研究が進行している段階だ。こうした中では、検査結果の過信は、感染の収束に弊害をもたらす恐れがある。
今後、検査の実施数が増えていくにつれて、陰性の判定結果を受けた人が、検査後も3密の回避を続けるかどうか、が重要なポイントになるだろう。検査の拡充を通じて、社会全体の感染状況を明らかにするとともに、判定結果の見方の理解を広めていくことも、感染の収束のために必要と思われるが、いかがだろうか。
(2020年06月02日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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