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新型コロナ 温故知新-新型インフルエンザの感染拡大時には、なにが起きたか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
世界全体で感染者は184万4863人、死亡者は11万7021人。日本の感染者は8357人、死亡者は121人(横浜港に停留したクルーズ船を含む)に達している(4月14日現在/世界保健機関(WHO)調べ)。
日本では、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が、東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に発令された。4月8日から5月6日までの約1ヵ月間が、実施期間となっている。感染者が爆発的に増加する「オーバーシュート」を避け、医療崩壊を防ぐことが、発令の狙いとされている。
過去にも2009年に猛威を振るった新型インフルエンザで、世界的な感染拡大に至ったことがある。このときは、今回と同様、パンデミックとなった。両者には、感染原因がコロナウイルスか、インフルエンザウイルスかという違いはある。しかし、どちらも肺炎を起こす呼吸器系の感染症であり、世界中に感染が拡大しているなど、いくつか共通点もみられる。
新型インフルエンザの感染拡大を振り返ることが、新型コロナの今後を見通すうえで、何らかの参考になるかもしれない。
◆新型インフルエンザでは世界全体で最大40万人が死亡
感染は急速に拡大していった。5月1日までに13か国で367人が感染、10人が死亡した。これが6月11日までに74か国で2万8774人の感染、144人の死亡にまで拡大した。死亡者はメキシコとアメリカに集中していた。こうした感染拡大を受けて、WHOは、6月12日よりパンデミックに移行することを宣言した。
しかし、秋以降、感染はさらに拡大し、11月から12月にピークを迎えた。そして、2010年に入ると、流行の状況は通常の季節性インフルエンザとそれほど変わらなくなっていった。8月10日、WHOは世界的な大流行は終結したとして、パンデミックを解除した。
新型インフルエンザのパンデミックは、約1年2ヵ月続いたことになる。この間の死亡者数は、感染が確認された分だけで1万8311人。ただし、新型インフルエンザは蔓延していくにつれ、季節性インフルエンザとの見分けがつかなくなっていったため、WHOは確認された死亡者数とは別に、感染拡大の“初年度”だけで、世界全体で10万人~40万人が死亡した──との推計数値を公表している。
◆新型インフルエンザでは感染拡大の「第2波」が襲来
たとえば、アメリカの感染の推移をみると、6月中旬にいったん新規感染者の発生がピークを迎えた。その後、徐々に減少して収束するかにみえたが、9月に入るころ、再び増勢に転じた。感染の第2波の襲来だ。10月後半におとずれたピーク時には、第1波のピークを2倍以上も上回る新規感染者を出した。
なぜ、2回も感染拡大の波が来たのか? 感染症の研究者は、以下のような説を立てて検証している。
【夏休み説】
ある説では、子どもの感染の仕方に関係があるという。新型インフルエンザは若年者、とくに子どもたちの感染が多かった。ふつう、アメリカでは6月から8月終わりまで夏休みだ。これが幸いして、子どもたちの感染拡大が収まっていた。それが9月以降、学校が始まったために、再び感染が拡大したというものだ。
今回の新型コロナで、日本政府は、3月2日から春休みまで、全国の小中学校、高校、特別支援学校を臨時休校とするよう要請した。この説が当てはまるとすれば、学校を休みとしたことで、ある程度、感染拡大が抑制できたのかもしれない。
【突然変異説】
別の説では、遺伝子の突然変異の発生が原因だという。感染症を引き起こすウイルスは、DNAまたはRNA、どちらかの遺伝子を持っている。新型インフルエンザウイルスは、RNAを持つタイプだ。
じつは、RNAを持つタイプのウイルスは遺伝子の突然変異が起こりやすい。RNAの遺伝子は、複製時に組み換えやエラーが出やすいことや、複製のスピードが速くて変異体が生じやすいことが、その理由といわれている。この突然変異によって、ウイルスの感染力や毒性が増強されたために、第2波が起こったというものだ。
新型コロナウイルスも、RNAの遺伝子を持つタイプだ。ただ、このウイルスの特性は、まだ未解明な部分が多い。いずれ突然変異の起こりやすさについて、研究結果が公表されるかもしれない。
【複数集団説】
さらに別の説では、年齢構成、居住地、免疫特性などの面から、国民がいくつかの集団に分かれていたためと説明する。つまり、ある集団で第1波が感染を広げた後、第2波が別の集団を襲ったというものだ。この説に従えば、新型コロナでも、何回も感染拡大の波が襲ってくる可能性が生じる。
どの説が正しいかはともかく、注意すべき点は、アメリカでの新型インフルエンザの感染拡大では、波が2回襲来したということだ。今後、新型コロナの感染拡大がいったん収まったとしても、第2波がくる可能性は否定できない。感染症との闘いにおいては、敵はかなりしぶとい、と考えておいたほうがよいだろう。
◆WHOは新型インフルのピーク時に感染者数の公表を中止
7月6日までは感染者数、死亡者数を国ごとに把握して公表していた。しかし、感染国が135にも及んだこともあり、しばらく間をおいて、次の7月27日の公表からは、南北アメリカ、西太平洋、ヨーロッパ、東南アジア、東地中海、アフリカ、の6つの地域の集計結果の公表に変更している。
これは、各国に対して個々の感染の検査や報告までは求められていなかったことから、国別の報告数が実際の数よりも少ないと見られたため──とされている。
そして、12月からはついに感染者数の公表をやめて、死亡者数のみを公表するよう変更している。すでに11月末には、ほぼ全世界、207の国と地域に感染は拡大していた。
多くの国で、軽症者などについて、1人ひとり感染者を数えることをやめていたため、WHOに報告される感染者数は、実際に発生した感染者数よりもかなり少ないと考えられた。すなわち、感染の蔓延化により、感染者数の数値の信憑性が薄れたわけだ。
今回の新型コロナでは、1月21日より、いまのところ毎日、国別に感染者数と死亡者数が公表されている。今後もその推移に注目が集まるだろう。ただし、世界中で感染が蔓延化して軽症感染者が増えていけば、感染者数の数値報告そのものが意義を失っていくことも考えられる。
◆感染拡大の渦中は予測が困難
今回の新型コロナは、いままさに感染拡大の真っただ中にある。2009年当時、新型インフルエンザの予測が難しかったのと同様、いま新型コロナの先の見通しも立ちにくい。
一般の市民としては、感染拡大防止のための取り組み(手洗いや咳エチケット、密閉・密集・密接の3つの「密」を避ける行動自粛など)を進めつつ、感染拡大の動向や疫学研究の結果などのニュースに対する感度を高めておくべきと考えられが、いかがだろうか。
(2020年04月15日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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