コラム
2021年03月16日

地方の消費回復を阻む要因~コロナ禍の落ち込みは相対的に小さかったが~

藤原 光汰

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地方部の個人消費の落ち込みは三大都市圏と比べ相対的に小さい

新型コロナウイルス感染症により経済活動は大幅な制限を余儀なくされ、2020年の日本の実質GDP成長率は前年比▲4.8%の大幅マイナスとなった。中でも個人消費は、外出自粛や営業制限等に伴い飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少し、前年比▲5.9%と大きく落ち込んだ。ただし、需要の落ち込みの程度は、地域ごとの感染状況や経済実態などに応じてある程度決まると考えられるため、地域によってばらつきが生じているとみられる。そこで、各都道府県を三大都市圏と地方部1に二分し、個人消費の動向を比較した。

地域の経済状況を包括的に把握することができ、かつ速報性にも優れた統計は、個人消費を含め、需要・供給の両面において数に限りがある。このような中で、内閣府が公表している地域別消費総合指数は、都道府県単位の個人消費の月次データとして公表されている指標2であり、地域別に消費動向を比較的早く把握することができる。2019年平均を100として指数化した推移をとると図表1の通りとなった。
(図表1)個人消費の推移 個人消費は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言が発令された4~5月に全国的に急激に落ち込んだが、落ち込み幅は三大都市圏と地方部で大きな差があり、地方部の落ち込み幅は相対的に小さくなっている。新型コロナウイルスの感染者数は都市部ほど多く、政府による外出自粛要請、飲食店などへの営業時間短縮要請が都市圏ほど強化されていたことが影響しているとみられる。また、緊急事態宣言解除後の消費の回復ペースは三大都市圏と地方部で大きな差がみられないため、年末にかけて三大都市圏の消費は地方部を一貫して下回っている。
 
1 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県の1都2府5県を三大都市圏、それ以外の道県を地方部とした。
2 ただし公表頻度は四半期に一度、3ヵ月分のデータがまとめて公表される。

先行きの地方の消費に対してはさまざまな重石がかかる

2020年のコロナ禍における地方部の消費は、三大都市圏と比較すると相対的に落ち込み幅が小さかったが、先行きは(i)物価の上昇、(ii)収入の減少、(iii)資産効果の小ささ、が地方の消費の重石となり、地方の消費回復を阻む可能性がある。
(図表2)コアCPI上昇率と原油価格の推移 (i)物価の上昇
2020年は世界的な経済活動の停滞に伴うエネルギー需要の減少などを受けて、原油価格は低位で推移していたが、足元で原油価格は急激に上昇している。それに伴い、ガソリン価格も足元で高値を記録している。原油価格の上昇は、ガソリンなどのエネルギー価格の上昇を通じて消費者物価を大きく変動させるが、その寄与度は都市と地方3で違いがみられる。コアCPI上昇率と原油価格の推移をみると、原油価格が上昇する局面において、地方の物価上昇率は都市を上回っている(図表2)。これは、地方では、移動手段として車の利用率が高いため消費に占めるガソリンの割合が高いことや、寒冷地を中心として電力需要が高いため光熱費の支出割合も高いことなどが要因である。足もとの物価上昇率はマイナス圏にあるが、原油価格は急激に上昇しており、先行きは地方において物価上昇による実質購買力の下落が、個人消費の下押し要因となるだろう。
 
3 以降では、政令指定都市及び東京都区部を都市、それ以外の地域を地方として分析を行っている。
(図表3)勤め先収入の推移 (ii)収入の減少
また、雇用所得環境の悪化も個人消費の下押し要因となる。勤め先収入を都市・地方に分けてみると、どちらも概ね前年比プラス圏での推移が続いていたが、2019年後半以降、都市の伸び率が地方を一貫して上回っていることに加え、2020年11月以降は地方で大幅な減少に転じており(図表3)、地方の所得環境は都市に劣後している。一方で、都市ではコロナ禍でも前年比プラスを維持している。特に、多くの企業で冬のボーナスが支給される12月は、都市が前年比7.2%の高い伸びとなったのに対し、地方は同▲8.4%と落ち込んでいる。賃金は経済活動の悪化の影響が遅れて反映されるため、雇用所得環境は先行きさらに悪化する可能性が高い。今後も注視していく必要があるだろう。
(図表4)株式・株式投資信託保有高の推移 (iii)資産効果の小ささ
さらに、株価の上昇などに伴って資産効果による消費の増加が期待されるが、押し上げ幅は地域によって差が生じるだろう。日経平均株価は2020年3月の16,000円台から10月末にかけてコロナ前に並ぶ水準まで回復した後、11月に入ると上昇ペースを急激に加速させた。資産効果は金融資産を多く有するほど顕在化すると考えられるが、株式・株式投資信託(以下、株式等)保有高を都市と地方の世帯でみると、都市の世帯が地方の世帯よりも多くの株式等を保有しており、直近のデータである2020年7-9月期は時価ベースでおよそ2倍の開きがある(図表4)。また、2020年10-12月期は前述の通り日経平均株価が大幅に上昇したことから、この期間の株式等保有高は増加し、都市と地方における保有高の差はさらに拡大すると見込まれる。したがって、資産効果の顕在化に伴い、株式等保有高の大きい都市ほど消費が押し上げられる一方、地方の消費は相対的に弱含むことが避けられないだろう。
2021年入り後に緊急事態宣言が再発令されたが、今回は対象地域が三大都市圏に集中していたため、地方における消費の低下は相対的に抑えられた公算が大きい。しかし、政府の取り組む地域経済の活性化に向けて個人消費の回復が欠かせない中、今後緊急事態宣言が全面的に解除され、全国的に経済活動が正常化に向かうもとで、先行きの地方の消費回復ペースは、物価の上昇、収入の減少、資産効果の小ささによって相対的に緩慢なものとなる可能性があることに留意が必要だ。
 
 

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(2021年03月16日「研究員の眼」)

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藤原 光汰

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