- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 鈍る緊急事態宣言への反応
コラム
2021年08月27日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
緊急事態宣言下での人出
緊急事態宣言の発令により経済活動を制限し、人流を抑制することで感染を抑えようとしているが、人流の抑制効果はどの程度あるのだろうか。東京都および大阪府の人流データをみると、1回目の緊急事態宣言が発出された20年4~5月は人出が大きく減少し、緊急事態宣言による人出の抑制効果は非常に大きかった。しかし、2度目、3度目の緊急事態宣言が発令された21年1月~3月、4月末~6月の人流の減少は1度目を下回っている。また、期間中に緊急事態宣言の期限が何度も延長され、宣言の終わりが見えないという状況で、人々の“自粛疲れ”が現れ始め、宣言期間中にもかかわらず人出が徐々に増加することとなった。さらに、宣言の解除からわずか3週間で再び発令された21年7月~現在にかけては、発令前と比べてほとんど人出が減少していないことがわかる。このことから、緊急事態宣言による人出の抑制効果は、宣言を発出するたびに弱くなっていることに加え、何度も期限の延長を繰り返すことが効果を低下させてしまっている。
一方、2021年5月に、およそ1年ぶりに2度目の緊急事態宣言が発出された岡山県および広島県の人流データをみると、2020年の宣言期間と同程度に人出が減少しており、一点集中型の政策としての緊急事態宣言は、人々に行動変容を促し、人流を抑制する効果が発揮されると考えられる。
一方、2021年5月に、およそ1年ぶりに2度目の緊急事態宣言が発出された岡山県および広島県の人流データをみると、2020年の宣言期間と同程度に人出が減少しており、一点集中型の政策としての緊急事態宣言は、人々に行動変容を促し、人流を抑制する効果が発揮されると考えられる。
緊急事態宣言に対する感応度は低下
人流データから緊急事態宣言による人出の抑制効果が弱まっていることが読み取れるが、実際に人々が緊急事態宣言をどのように受け止めているのか、景気ウォッチャー調査を用いて調べた。景気ウォッチャー調査は、景気動向を敏感に反映する現象を観察できる業種の適当な職種の中から約2,000名にアンケートを実施しているため、人々の緊急事態宣言への感応度を確認することができると考えられる。
景気ウォッチャー調査の結果から、長期間にわたって緊急事態宣言の対象地域となっていた南関東と近畿の結果を取り出し、「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」という単語を含むコメントが、全コメントに占める割合を示したものが図表4、図表5である。
緊急事態宣言についてコメントした回答数は、20年4、5月が20%程度と小さかったが、これはコメントの大部分が“新型コロナウイルス”という単語を含んでいたことが影響している。新型コロナウイルスの流行初期だったため、人々が緊急事態宣言よりも新型コロナウイルスというワードに強く反応していた。したがって、コメント数は多くないが、緊急事態宣言への感応度が低かったという訳ではないだろう。その後緊急事態宣言の解除を経て20年末に0%となった後、2度目の緊急事態宣言が発出された21年1月には、関東・近畿ともに40~50%程度に急上昇したものの、2月は宣言の期間中であるにもかかわらず、前月からコメント数が減少している。コメントの内容を見ると、景気の悪化要因として挙げている割合が2月に大きく低下し、変わらないと答えている割合が上昇している。この結果、景気の現状判断DIは1月から上昇している。また、4月に再び緊急事態宣言が発出されると、コメント数が再び増加したが、その割合は1月と比べると若干低いほか、悪化要因として挙げている割合も低下している。さらに、南関東は、東京都が7月に4度目の緊急事態宣言を発令したものの、コメント数は6月から減少している。これらのことから、宣言の期間が長引き、解除と再発令が繰り返されるもとで、緊急事態宣言に対する人々の感応度は徐々に低下しているといえるだろう。
景気ウォッチャー調査の結果から、長期間にわたって緊急事態宣言の対象地域となっていた南関東と近畿の結果を取り出し、「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」という単語を含むコメントが、全コメントに占める割合を示したものが図表4、図表5である。
緊急事態宣言についてコメントした回答数は、20年4、5月が20%程度と小さかったが、これはコメントの大部分が“新型コロナウイルス”という単語を含んでいたことが影響している。新型コロナウイルスの流行初期だったため、人々が緊急事態宣言よりも新型コロナウイルスというワードに強く反応していた。したがって、コメント数は多くないが、緊急事態宣言への感応度が低かったという訳ではないだろう。その後緊急事態宣言の解除を経て20年末に0%となった後、2度目の緊急事態宣言が発出された21年1月には、関東・近畿ともに40~50%程度に急上昇したものの、2月は宣言の期間中であるにもかかわらず、前月からコメント数が減少している。コメントの内容を見ると、景気の悪化要因として挙げている割合が2月に大きく低下し、変わらないと答えている割合が上昇している。この結果、景気の現状判断DIは1月から上昇している。また、4月に再び緊急事態宣言が発出されると、コメント数が再び増加したが、その割合は1月と比べると若干低いほか、悪化要因として挙げている割合も低下している。さらに、南関東は、東京都が7月に4度目の緊急事態宣言を発令したものの、コメント数は6月から減少している。これらのことから、宣言の期間が長引き、解除と再発令が繰り返されるもとで、緊急事態宣言に対する人々の感応度は徐々に低下しているといえるだろう。
このように日本では緊急事態宣言の発令により感染拡大の抑え込みを図っているが、宣言に対する人々の感応度は低下し、人出の抑制効果はかなり薄まっており、宣言の終わりが見えない状況が続いている。一方で緊急事態宣言下の飲食店などへの営業制限等により、対面型サービス業種を中心とした経済への悪影響も大きい。
ワクチン接種が進む欧米では経済活動の正常化が進展している。イベントは人数制限の規制を撤廃するなど、コロナ禍の影響を大きく受けた対面型サービス業種も持ち直しつつあり、日本に先駆けて経済の回復が進んでいる。日本ではワクチン接種の開始が欧米に比べて遅れたものの、足元で接種ペースは加速しており、8月末には2回目の接種率が全国民の50%近くに、9月末には60%近くに達する見通しとなっている1。欧米と同様に、経済活動の正常化に向けた議論を進めるためにも、医療体制の拡充が早急に求められるだろう。
1 2021年8月17日菅内閣総理大臣記者会見より
ワクチン接種が進む欧米では経済活動の正常化が進展している。イベントは人数制限の規制を撤廃するなど、コロナ禍の影響を大きく受けた対面型サービス業種も持ち直しつつあり、日本に先駆けて経済の回復が進んでいる。日本ではワクチン接種の開始が欧米に比べて遅れたものの、足元で接種ペースは加速しており、8月末には2回目の接種率が全国民の50%近くに、9月末には60%近くに達する見通しとなっている1。欧米と同様に、経済活動の正常化に向けた議論を進めるためにも、医療体制の拡充が早急に求められるだろう。
1 2021年8月17日菅内閣総理大臣記者会見より
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年08月27日「研究員の眼」)
藤原 光汰
藤原 光汰のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2021/09/30 | ニッセイ景況アンケート調査結果-2021年度調査 | 藤原 光汰 | ニッセイ景況アンケート |
2021/09/13 | 企業物価指数(2021年8月)―上昇率は高水準も、前月から0.1ポイント縮小 | 藤原 光汰 | 経済・金融フラッシュ |
2021/08/27 | 鈍る緊急事態宣言への反応 | 藤原 光汰 | 研究員の眼 |
2021/08/12 | 企業物価指数(2021年7月)―前月から上昇率がさらに拡大。高水準が続く | 藤原 光汰 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【鈍る緊急事態宣言への反応】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
鈍る緊急事態宣言への反応のレポート Topへ