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- ソーシャルディスタンス(社会的距離の確保)の経済への影響
2020年07月16日
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■要旨
新型コロナウィルス感染症(以下、感染症)の拡大を抑制するため、Social Distancing(社会的距離の確保、以下SD)を含むNon-pharmaceutical interventions (以下NPI)が採用された。これにより、これまで日常のことと考えられてきた人と人との接触を通じて形成されてきた経済活動が遮断される状況にある。
他方で、年初以降の種々のNPIにより日常生活が大きく制約されたことから、これ以上の経済活動の悪化を避けたい、あるいは「自粛疲れ」から、これまでと同様のNPIを避けたいとの考え方が強い。このような状況の中で、NPIの経済に対する悪影響のみが大きく喧伝されればされるほど、適切なNPIが実施できなくなる可能性がある。この背景には、そもそもNPI実施による感染症拡大の抑制と経済活動の悪化との費用対効果が定量的に実施されていないことがあるのではなかろうか。
本論では、日本におけるNPIの浸透状況及び消費に与える効果について検証する。主な結論は以下の通りである。
国あるいは各地域において、外出自粛要請の到達度は外出状況の前年比伸び率で確認されている。この点では、外出自粛要請で80%の外出減少を求められたわけで、その影響を受ける消費がほぼ同等の減少率となったことを意味する。したがって、どの程度の外出削減により感染症拡大のペースが減少し、感染拡大による医療崩壊などに波及しないのか地域毎に比較検討する必要があると考える。また、休業要請等、実施すべきNPIを考える必要があろう。たとえば、徳島県や岡山県のように、他地域からの移動について強く制限を加えることで、自地域内の経済活動を止めない方法も検討される。
このことを検討できる前提は、NPIの感染症に対する効果を学校や劇場あるいは集会など、個々に検証することである。単に、外出自粛の数値目標を示すのではなく、感染がどのような場所で生じているのか、その際にはどのような形態であったのかを分析する必要があると考える。
また、感染症に対する対策を検討するために、今回の感染症に対するNPIは詳細な情報を残すべきである。これは、後の世代への義務ではなかろうか。パンデミックのような感染症への対応は、日々変動する情報への判断が即座に求められる。しかし、高頻度データや情報であればあるほど、ノイズが含まれ適切な判断が難しく、場合によっては誤った判断を導く可能性がある。しかし、誤った判断を含め、詳細な意思決定過程を残し、今後に役立てるべきではなかろうか。日本でも当時の情報通信環境を考慮すれば驚嘆に値する情報が残されている。1918年スペイン風邪では内務省衛生局は「流行性感冒」(1922年刊行)として、詳細かつ膨大な資料を残し、当時のNPI及び都道府県での対応が確認できる。残念ながら、現在の状況はNPIの決定過程に関する情報などが未整備であり、早急に改善すべき課題といえる。
新型コロナウィルス感染症(以下、感染症)の拡大を抑制するため、Social Distancing(社会的距離の確保、以下SD)を含むNon-pharmaceutical interventions (以下NPI)が採用された。これにより、これまで日常のことと考えられてきた人と人との接触を通じて形成されてきた経済活動が遮断される状況にある。
他方で、年初以降の種々のNPIにより日常生活が大きく制約されたことから、これ以上の経済活動の悪化を避けたい、あるいは「自粛疲れ」から、これまでと同様のNPIを避けたいとの考え方が強い。このような状況の中で、NPIの経済に対する悪影響のみが大きく喧伝されればされるほど、適切なNPIが実施できなくなる可能性がある。この背景には、そもそもNPI実施による感染症拡大の抑制と経済活動の悪化との費用対効果が定量的に実施されていないことがあるのではなかろうか。
本論では、日本におけるNPIの浸透状況及び消費に与える効果について検証する。主な結論は以下の通りである。
- 外出自粛要請による外出の減少は、全国的に確認できる。特に、東京都や大阪府が顕著である。
- 外出自粛に影響を与えたのは感染状況である。特に、北海道での感染状況が他の地域にも影響を与えている。また、有名人の死亡ニュースの影響も外出の抑制効果として確認できるが、緊急事態宣言発出の効果の方が大きいことが確認できる。
- 地域別にNPIの状況をみると、NPIの発出時期、その内容が地域毎に大きく異なる。たとえば、休業要請の状況をみると、中国・四国地域が特徴的である。徳島県や岡山県は未実施であり、愛媛県、鳥取県、島根県も実質的に未実施といえる。
- 各地域の感染状況及び休業要請の期間(NPIの強さ)をもとに、地域毎のSDへの影響を確認すると、休業期間の長い地域ほど外出の減少幅が大きくなることが示されている。
- 日別家計調査(総務省)での消費を「基本的消費」「延期可能消費」「仕事関係消費」及び対面コミュニケーションへの依存度の高い消費(SD消費)の4つに区分して、NPI発出中の状況を確認すると、外出自粛で延期可能消費及びSD消費が大きく減少した。特に、娯楽サービス関連で文化的な消費(映画、演劇等の鑑賞)はここ3か月の消費がほぼゼロに近い状況にあることが確認できる。
- 消費と人々の外出行動との関係でみれば、外出が1%減少すると延期可能消費で0.37~0.44、SD消費で0.91~1.04で有意となっている。概ねSDが1%強化(外出が1%減少)すると、人と人が接触する必要のある消費は0.65%程度減少(延期可能消費とSD消費のウエイトから換算)すると試算できる。
- 外出状況の水準の高低で見れば、外出率の比較的高い地域では販売額が大きく低下していない。この点では、NPIへの取組で強く実施した地域ほど消費への影響が大きいことが窺える。
国あるいは各地域において、外出自粛要請の到達度は外出状況の前年比伸び率で確認されている。この点では、外出自粛要請で80%の外出減少を求められたわけで、その影響を受ける消費がほぼ同等の減少率となったことを意味する。したがって、どの程度の外出削減により感染症拡大のペースが減少し、感染拡大による医療崩壊などに波及しないのか地域毎に比較検討する必要があると考える。また、休業要請等、実施すべきNPIを考える必要があろう。たとえば、徳島県や岡山県のように、他地域からの移動について強く制限を加えることで、自地域内の経済活動を止めない方法も検討される。
このことを検討できる前提は、NPIの感染症に対する効果を学校や劇場あるいは集会など、個々に検証することである。単に、外出自粛の数値目標を示すのではなく、感染がどのような場所で生じているのか、その際にはどのような形態であったのかを分析する必要があると考える。
また、感染症に対する対策を検討するために、今回の感染症に対するNPIは詳細な情報を残すべきである。これは、後の世代への義務ではなかろうか。パンデミックのような感染症への対応は、日々変動する情報への判断が即座に求められる。しかし、高頻度データや情報であればあるほど、ノイズが含まれ適切な判断が難しく、場合によっては誤った判断を導く可能性がある。しかし、誤った判断を含め、詳細な意思決定過程を残し、今後に役立てるべきではなかろうか。日本でも当時の情報通信環境を考慮すれば驚嘆に値する情報が残されている。1918年スペイン風邪では内務省衛生局は「流行性感冒」(1922年刊行)として、詳細かつ膨大な資料を残し、当時のNPI及び都道府県での対応が確認できる。残念ながら、現在の状況はNPIの決定過程に関する情報などが未整備であり、早急に改善すべき課題といえる。
■目次
1――はじめに
2――NPIの感染症拡大と経済への効果
2.1 経済全体への効果
2.2 消費への効果
3――日本でのNPIの状況
3.1 日本全体の状況
3.2 都道府県別の状況
4――日本の消費行動の状況
4.1 家計の消費行動とSDとの関係
4.2 消費への効果(推計結果)
4.3 地域別消費とSDとの関係
5――まとめ
Appendix:1918年スペイン風邪におけるアメリカのNPIと感染症拡大の抑制効果
1――はじめに
2――NPIの感染症拡大と経済への効果
2.1 経済全体への効果
2.2 消費への効果
3――日本でのNPIの状況
3.1 日本全体の状況
3.2 都道府県別の状況
4――日本の消費行動の状況
4.1 家計の消費行動とSDとの関係
4.2 消費への効果(推計結果)
4.3 地域別消費とSDとの関係
5――まとめ
Appendix:1918年スペイン風邪におけるアメリカのNPIと感染症拡大の抑制効果
(2020年07月16日「基礎研レポート」)
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小巻 泰之
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