2012年05月01日

90年代の財政政策のリアルタイム検証

日本大学経済学部教授 小巻 泰之

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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 1.  90年代の追加的財政政策について,一般会計の予算及び決算(公共事業費のみ)からみると,補正後予算(前年度決算比)は,公共事業の増額を含む経済対策が実施された92,93,95及び98年度はプラスとなっている.特に,92-93及び98年度は大幅なプラスとなっており,補正予算編成時点では経済対策の浮揚効果は期待されていたと考えられる.

 2.  決算でみれば,92-93年度及び98年度には大幅プラスが確認できるものの,95年度の対策時は減少している.また,90年代後半以降,補正後予算と決算に大きな乖離が確認できる.

 3.  当初予算(前年度決算比)は,90年度以降では1992年度及び2009年度以外は全てマイナスであり,経済活動に左右されない形で決定されている.

 4.  予算と決算との乖離を,予算誤差及び執行誤差に区分して要因分析を行うと,経済見通しの誤りや政権の不安定化・連立政権により,予算誤差は拡大している.一方,執行誤差は予算誤差と有意であり,大規模な補正予算が組まれると執行誤差が大きくなっている.

 5.  特に,90年代は,執行誤差の内,13%程度(92-2000年度平均)が翌年度に繰越され,全てが当該年度に実施されているわけではない.また,1990年に策定された「公共投資基本計画」の存在を考慮すれば,当時の公共事業費が企図された水準での発動でなかった可能性がある.

 6.  90年代の財政政策の効果に関する実証分析については,モデル構造や推計期間だけでなく,分析実施時期の違い(データの違い)により結果が異なり,必ずしもロバストな結果とはいえない.

 7.  同じモデル構造でリアルタイム・データを用いる(各時点でデータのみ取り替える)と,2003年頃まで公表された政府支出ベース(公的固定資本形成+政府最終消費支出)では,90年度に政策効果が低下したとはいえない.ただし,同期間の公的固定資本形成ベース及び連鎖方式移行後のデータを用いると,政策効果が低下したとの評価が可能である.

 8.  2000年度以降,中央政府一般会計における繰越額が増加している.繰越額の要因分解を行うと,景気循環とは無関係であり,経済活動の攪乱要素になる可能性がある.

 9.  特に,2009年度には,前年の金融危機及び政権交代を巡る思惑などから,2009年度決算は前年度比20.7%と98年度以来の大幅プラスとなり,翌年度は-30.5%と戦後では最大規模の大幅な減少となった.2011年度は再び大幅増加が見込まれ,2012年度は大幅な補正予算が編成されない限り再び大幅マイナスとなる見込みである.

10.  積極的な財政政策による経済安定化は難点が多い.経済活動の変動に左右されない政策運営が求められる.

(2012年05月01日「基礎研レポート」)

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