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人口戦略会議・消滅可能性自治体と西高東低現象~ソフトインフラの偏在から検討する~

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之
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人口戦略会議(2024)で示された消滅可能性自治体は、その分布でみて、東日本に有意に偏在している。東日本、西日本でみた経済・社会事象の地域間の偏在については、西高東低として、これまでも出生率、医師数、一人当たり医療費、空き家率等で指摘されてきた。このような地域間の偏在が消滅可能性自治体の東高西低傾向の背景にあるのではなかろうか。また、自治体の施策、特に、20~39歳の女性(以下、若年女性)を対象とする施策について地域間の偏在はあるのか、また有効な施策となっているのかについての検証が必要であると考える。これは、消滅可能性自治体の指定で「若年女性」の動向が鍵を握るからである。
本論では、西高東低(あるいは東高西低)の事例とその背景を整理した上で若年女性を対象とする自治体の施策の有効性を検証し、消滅可能性自治体が偏在する要因を検討する。
本論での分析結果を要約すると以下の通りである。
- 先行研究等で指摘された経済・社会的な事例(医師数、看護師・准看護師数、一人当たり医療費、幼稚園数、高等学校数等の医療関連、教育関連の事例)での西高東低を示す地域間の偏在は、統計学的に有意である。
- また、医療関連、教育関連の事例における地域間の偏在は一時的なものではなく、長期にわたって持続している。
- 市町村で実施されている定住・移住施策の特徴をみると、西日本の方が転入者の受け入れに積極的な施策となっている可能性がある。
- 自治体における医療、教育施設等のインフラの有無は、女性の転入者に対して有意な効果を確認できる。この傾向は、若年女性層ほどパラメーターが大きく有意となっている。
人口戦略会議では2020~50年の30年間で、若年女性人口が50%以上減る自治体を消滅可能性自治体としている。消滅可能性自治体は東日本に有意に多く、医療、教育に関するインフラの偏在が影響している可能性がある。医療と教育は、塩野(2001)で示されたように、ローマ帝国を下部構造から支えたソフトインフラである。
松浦(2024)は西日本からの転出先となる大阪や福岡に比べ、東日本からの転出先として、若年女性の希望する仕事や生活スタイル等があることから東京の引力が強いと指摘している。このことは逆にいえば、東日本等の転出元の引力が弱いことを意味している。引力が弱くなっている要因として、ソフトインフラが地域間で偏在していることが影響しているのではなかろうか。
もっとも、本論では、東日本と西日本という広域での平均値で判断しているが、地域の実情は地域ごとに大きく異なる。たとえば、青森県弘前市に隣接する黒石市と平川市では、弘前市からの転入者で両市は大きく異なる状況にある。本来はこうした地域の特性や実情を詳細に検討すべきある(小巻(2024))。しかしながら、広域でみた地域間の偏在は、消滅可能性自治体が多く分布する東日本での対応策について検討すべき課題を明らかにするのではないかと考える。
■目次
1――はじめに
2――人口戦略会議での消滅可能性自治体
3――西高東低が観察できる事例
4――市町村の定住・移住施策の特徴と効果
5――まとめ
(2024年06月05日「基礎研レポート」)
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大阪経済大学経済学部教授
小巻 泰之
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