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- 霧の中のGDP~経済ショック時のGDP速報をどう捉えるか~
GDPは様々な統計情報を集約して作成されており、速報時点では全ての情報が利用できない。そのため、時間の経過とともに、欠落していた情報が反映されてGDPは改定される。しかし、大きな経済ショック時にはGDPが必要とする情報の欠落がより多くなる可能性がある。過去の経済ショック時のGDPの動きから、経済ショック時の動向を確認すると、
- 経済ショック時の状況をみると、経済ショック時に実際の意思決定に利用されたGDP速報(リアルタイムベース)が示すより、最新値(2022年3月9日公表)でみればショックからの回復が弱く、遅れていることを示している。
- Covid-19時の状況では,リアルタイムベースでは大きな落ち込みを取り戻す程度に回復した後に横ばいとなっているが,最新値では急激な落ち込みを上回る回復とならず、さらに経済活動が弱いことを示している。消費税増税による所得効果の影響など、増税と経済ショックが重なった状況となっている。
- 諸外国でのGDP速報の改定状況をみると、オーストラリアを除き、経済ショック時には改定の規模及び標準偏差が大きくなることが確認できる。特に、日本の改定が平時及び経済ショック時とも諸外国の倍近い大きさとなっている。
しかし、GDP速報の改定状況を事前に予測することは困難である(小巻[2015])。このことは諸外国においても同様である。ここでは、諸外国の活用事例として、(1)四半期国民経済計算(QNA)による複数面(支出面(GDE)、生産面(GDPO)、分配面(GDI))の平均値、(2)トレンド推定値の利用、をもとに、公表値との比較検討をおこなう。その結果、
- オーストラリアのQNAの平均値は、GDE、GDPO及びGDIそれぞれより、変動性及び改定が縮小している。日本についても、GDEと雇用者報酬の平均値(1次速報、リアルタイムベース)は、GDE単独より変動性及び改定が小幅になっていることが確認できる。
- GDEと雇用者報酬の平均値でリーマンショックとCovid-19の状況をみると、GDEの最新値と同様に、2つのショックとも回復の速度が遅いことが確認できる。
- トレンド推定値については、最新時点の公表値よりもさらに回復速度が遅いことが確認できる。
経済ショックは事前には想定できない。しかしながら、不規則な要因が大きい場合、その影響は現行のGDPでは大きくなる可能性が高い(ABS[2021])。また、経済ショック時の回復の速度を誤って判断すると、政策的なサポートが軽減あるいは中止される可能性がある(Jordà et al [2020])。特に、Covid-19からの回復過程では2021年4-6月期以降のGDP速報が大きく改定される可能性があり、1次速報(リアルタイムベース)で示された通りであるとは限らない。本論での試算からは、今後、下方改定される可能性がある。
Covid-19が収束しない中で、さらに紛争が生じ、日々の生活や将来に不安を感じながら過ごしている.まさに霧の中を彷徨っている。こうした中で足もとを照らすのがGDP等の経済統計である。足もとをよりみることができるように、オルタナティブなGDP速報の開発・公表が必要ではなかろうか。現在、内閣府で開発中のQNAの公表を待ちたい。
■目次
1――はじめに
2――リーマンショック、Covid-19の経済への影響と政策対応
1|リーマンショック時の状況
2|Covid-19時の状況
3――経済ショック時の四半期別GDPの1次速報と改定の状況(国際比較)
4――諸外国におけるオルタナティブGDP速報
1|四半期国民経済計算(QNA)速報の利用
2|日本のGDEと雇用者報酬の平均値
3|トレンド推定値の利用
5――まとめ
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大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之
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