2021年03月09日

景気ウォッチャー調査(21年2月)~感染者数の減少やワクチン接種開始により現状DI、先行きDIともに大幅上昇

山下 大輔

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1.景気の現状判断DIは4か月ぶりに上昇、先行き判断DIは3か月連続で上昇

3月8日に内閣府が公表した2021年2月の景気ウォッチャー調査(調査期間:2月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は41.3と前月から10.1ポイント上昇した。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は51.3と前月から11.4ポイント上昇した。先行き判断DIが50を超えるのは2018年9月以来である。
現状判断DI・先行き判断DIの推移 地域別でみても、現状判断DI(季節調整値)と先行き判断DI(季節調整値)は、全国12地域の全てで前月よりも上昇した。現状判断DIの前月からの上昇幅が最も大きかったのは感染者増により昨年11月以降大きく落ち込んでいた北海道(前月差+14.6ポイント)であった。先行き判断DIの前月からの上昇幅が最も大きかったのは沖縄であり、11月以降の落ち込みからの反動に加え、緊急事態宣言解除やそれに伴うGo To トラベル再開への期待が反映されたとみられる。
今回の結果からは、感染者数がピーク時から減少し、2月8日に栃木県に対する緊急事態宣言が解除され、調査期間中に6府県に対する緊急事態宣言の2月末での解除が発表されるなど、新型コロナウイルス感染症の感染状況に落ち着きがみられることによる景況感の改善やワクチンの接種開始などによる感染収束への期待が示された。なお、1月よりも景況感は改善しているが、現状判断DIは依然として50を下回っており、平均的には、3か月前との比較で景気はやや悪くなっているという認識が示されている。また、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DI(季節調整値)(32.6(前月差+5.6ポイント))は依然として低水準にある点に留意が必要である。
地域別現状判断DI・先行き判断DIの前月差/現状判断DIと現状水準判断DIの比較

2.景気の現状判断DI(季節調整値):全ての内訳で上昇

現状判断DI・回答者構成比 現状判断DI(季節調整値)は、4月に9.4(当時の季節調整値では7.9)まで落ち込んだ後に、5月から6か月連続で改善し、10月には50を超えた。その後の感染拡大により、11月から下落に転じ、21年1月には31.2まで落ち込んだが、2月は10ポイントを超える大幅な上昇となった。景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、悪化と回答した割合(「悪くなっている」と「やや悪くなっている」の回答の合計)がほぼ半減する一方で(1月:60.7%→2月:38.2%)、現状維持(「変わらない」)と回答した割合(1月:30.2%→2月:45.3%)と改善と回答した割合(「良くなっている」と「やや良くなっている」の回答の合計)(1月:9.1%→2月:16.5%)を合わせると6割を超えた。全体の半数程度が現状維持と回答しており、景況感の下げ止まりが伺われる。
現状判断DIの内訳の推移 現状判断DI(季節調整値)の内訳においても、家計動向関連(前月差+10.9ポイント)、企業動向関連(同+6.8ポイント)、雇用関連(同+12.4ポイント)の全てで、前月から反転した。感染拡大やそれに伴う緊急事態宣言の影響などで大きく落ち込んでいた小売関連(前月差+10.0ポイント)や飲食関連(同+16.5ポイント)、サービス関連(同+12.9ポイント)で大幅に上昇した。また、企業動向関連の内訳においても、製造業(前月差+4.8ポイント)、非製造業(同+7.9ポイント)の双方で反転した。ただし、特に飲食関連やサービス関連の現状水準判断DI(季節調整値)は前月から上昇したものの、依然として低水準にある。
現状判断DI(家計動向関連)の内訳の推移/現状水準判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントからは、緊急事態宣言やGo Toトラベルの一時停止の影響に加え、感染拡大に伴う在宅時間増加を反映した需要増加への言及も多々見られた。株価や2月13日に発生した福島県沖地震に言及したコメントもあった。

<緊急事態宣言やGo To トラベルの一時停止、営業時間短縮の影響に関する主なコメント>
 
  • 緊急事態宣言が解除されず、Go To Travelキャンペーンも一時停止の状態で、客の来店が少なく、売上もほとんどない。(南関東・旅行代理店)
  • 緊急事態宣言発出に伴い2月28日までは午後8時までの営業となれば、居酒屋ではこれからという時間で終わりになり、ほとんど入客が取れないので、現在は宣言解除までは全店休業としている。金銭的な面と、スタッフのモチベーションを維持するのが極限に来ている。(沖縄・その他飲食[居酒屋])
  • 新型コロナウイルスの影響で、全然仕事がない。緊急事態宣言が発出されて、ますます少なくなっている。電車に乗っている人も少なく、街なかには歩いている人もいなくなった。宣言が解除されても、なかなか元に戻るとは思えない。(北関東・タクシー運転手)

<在宅時間の増加を反映した需要増加に関する主なコメント>
 
  • 宅配を扱う輸送業で好業績が報道されているが、BtoBでも個人消費者向けの物量は底堅く、利益を押し上げている。(東海・輸送業)
  • 今年に入ってから、インターネット契約が順調な伸びをみせている。また、通信速度の早い回線への切替えも増えており、在宅勤務の定着が少し進んでいるように感じる。(近畿・通信会社)
  • 家の中や近場でできる娯楽が主となっており、食を中心とした需要がある。食品の物産催事やバレンタインの企画等は高額品から品薄となり、自分への御褒美需要が顕著にみられる。(北陸・百貨店)
  • 景気動向としては、大きな変動はないが、生活スタイルが家中であることは間違いない。食料品好調に対して、衣料関連は苦戦している。(九州・スーパー)

<株価に関する主なコメント>
 
  • 今月の売上は、緊急事態宣言により1時間の時短営業を行っているものの、前年比で8%の減少にとどまる。株価の高騰に反応し、宝飾品や美術品、輸入ブランドの売上が好調である。一方、衣料品や身の回り品は、相変わらず前年比で25%減少と厳しい状況にある。(近畿・百貨店)
  • 緊急事態宣言が延長され、不要不急の外出が制限されているなかで、外出着や雑貨などに対する客の消費行動は全く振るわず、景気の悪い状況が継続している。株高などの好材料もあるが、現時点での実感は余りない(南関東(東京都)・百貨店)

<福島県沖地震に関する主なコメント>
 
  • 新型コロナウイルス感染の終息が見えず、新車販売が停滞している。また、半導体不足と先日の地震の影響で新車の生産が止まったことも、販売減の要因となっている。(甲信越・乗用車販売店)

3.景気の先行き判断DI(季節調整値):内訳のほぼ全てで3か月連続上昇

2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は、7月に感染拡大への懸念で大きく落ち込んだ後に、8月から10月まで3か月連続で上昇し、11月にいったん上昇は止まったが、12月から3か月連続で上昇した。

景気の先行き判断DIの回答者構成比でみても、悪化と回答した割合(「悪くなる」と「やや悪くなる」の回答の合計)(1月:38.1%→2月:20.4%)と減少する一方で、改善と回答した割合(「良くなる」と「やや良くなる」の回答の合計)(1月:17.6%→2月:36.3%)や現状維持(「変わらない」)と回答した割合(1月:44.3%→2月:43.3%)は増加した。
先行き判断DI・回答者構成比 先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差+11.7ポイント)、企業動向関連(同+9.9ポイント)、雇用関連(同11.6ポイント)の全てで上昇し、50を超えた。家計動向関連の内訳をみても、小売関連(前月差+11.8ポイント)、飲食関連(同+11.9ポイント)、サービス関連(同+13.5ポイント)、住宅関連(同+3.6ポイント)の全てで上昇した。企業動向関連の内訳でも、製造業(前月差+8.2ポイント)、非製造業(前月差+11.3ポイント)の双方で前月より上昇した。小売関連やサービス関連、製造業、非製造業で50を超えた。
先行き判断DIの内訳の推移/先行き判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントからは、緊急事態宣言解除やワクチン接種などを含めた感染収束、Go To トラベル再開への期待の声もみられた。また、東京オリンピック・パラリンピックに関するコメントも多々あった。他方、先行きの不透明感への言及もあった。

<緊急事態宣言解除、ワクチン接種開始、Go To トラベル再開への期待に関する主なコメント>
 
  • 3月以降に緊急事態宣言が解除されるのと、Go To Travelキャンペーンの再開による観光客及び外食の増加に期待している。(沖縄・食料品製造業)
  • 4月から開始されるワクチン接種により、更なる感染者数の減少や病床使用率の改善が見込めるため、期待感を持っている。あわせて、Go To Travelキャンペーンが再開されれば、更に改善されるとみている。(北関東・旅行代理店)
  • 大変厳しく、いつ倒産するか分からない状態である。早く緊急事態宣言を解除して、新型コロナウイルスのワクチン接種を進めてもらい、新型コロナウイルスがインフルエンザと同じようになるのを願うばかりである。(南関東(東京都)・一般レストラン)

<東京オリンピック・パラリンピックに関する主なコメント>
 
  • 東京オリンピックが最大のイベントとして、映像関連の販促に注力している。ホテル関係の備品や通信関係の見直し、除菌関係の提案の取組も強化して、売上を確保していく。(北関東・家電量販店)
  • ワクチン接種、Go To Travelキャンペーンの再開、東京オリンピック開催など国家プロジェクトの実施が大きな鍵となる。いずれも遅れや中止などが決定された場合には、観光業界の将来の景気は確実に今よりも悪化する。(東北・旅行代理店)

<先行きの不透明感を指摘する主なコメント>
 
  • 新型コロナウイルスの影響で業績が悪化している会社が多く、失業者も増加していることから、今後の景気はやや悪くなる。(北海道・金属製品製造業)
  • 学生の就職ランキングで人気上位だった企業が、2022年度の新規採用の見送りや人員の削減等を発表している。4月以降になると企業が新年度に入るため、更に厳しい政策が発表されると予想される。(九州・新聞社)

2月調査の結果は、新型コロナウイルス感染症の感染状況の落ち着きとそれに伴う一部の府県に対する緊急事態宣言解除などにより、現状の景況感が改善したことを示すものであった。また、ワクチンへの期待感などから先行きをより楽観的に捉える見方が強まっていることが伺われた。ただし、以前より景況感が改善したといっても悪化の度合いが緩和されたに過ぎない。今後も、感染動向やそれへの対応策に景況感が左右される状況は続くと予想されるが、感染者数が減少し、ワクチン接種が進捗するなどの感染収束への期待が高まる状況になれば景況感は一層改善に向かう可能性が高いだろう。
 
 

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山下 大輔

研究・専門分野

(2021年03月09日「経済・金融フラッシュ」)

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