2021年02月09日

景気ウォッチャー調査(21年1月)~緊急事態宣言で現状DIは前月から更に悪化。先行きDIは2ヶ月連続で改善~

山下 大輔

文字サイズ

1.景気の現状判断DIは3か月連続で更に悪化も、先行き判断DIは2か月連続で改善

2月8日に内閣府が公表した2021年1月の景気ウォッチャー調査(調査期間:1月25日~31日)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は31.2と前月から3.1ポイント下落した。他方で、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は39.9と前月から3.8ポイント上昇した。
現状判断DI・先行き判断DIの推移 また、地域別でみると、現状判断DI(季節調整値)は、全国12地域中、9地域で前月よりも悪化した一方、北海道(前月差+2.9ポイント)と四国(同+3.9ポイント)は前月から改善し、近畿は前月から変化しなかった。悪化幅が最も大きかったのは沖縄(同▲13.7ポイント)であった。一方、先行き判断DI(季節調整値)は11地域が上昇に転じた(下落したのは沖縄のみ(前月差▲2.7ポイント))。先行き判断DIの改善幅が大きかったのは、北海道(前月差10.4ポイント)、甲信越(同10.4ポイント)であった。総じて、地域の感染状況が反映された結果として、北海道の景況感の改善と沖縄の景況感の悪化が目立つ姿となっている。
今回の結果からは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や緊急事態宣言の影響により、前月に引き続き、景況感が急速に悪化していることが示された。なお、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DI(季節調整値)についても27.0(前月差▲1.7ポイント)となり、3か月連続で低下した。
地域別現状判断DI・先行き判断DIの前月差/現状判断DIと現状水準判断DIの比較

2.景気の現状判断DI(季節調整値):住宅関連以外の全てで悪化

現状判断DI・回答者構成比 現状判断DI(季節調整値)は、4月に7.9まで落ち込んだ後に、5月から6か月連続で改善し、10月には50を超えた。その後の感染拡大により、11月から下落に転じた。景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、悪化と回答した割合(「悪くなっている」と「やや悪くなっている」の回答の合計)(12月:50.3%→1月:60.7%)が全体の6割を超えた一方で、改善と回答した割合(「良くなっている」と「やや良くなっている」の回答の合計)(12月:14.6%→1月:9.1%)や現状維持(「変わらない」)と回答した割合(12月:35.1%→12月:30.2%)は減少しており、景況感の悪化が鮮明となっている。
現状判断DI(季節調整値)の内訳においても、家計動向関連(前月差▲4.1ポイント)、企業動向関連(同▲0.9ポイント)、雇用関連(同▲2.5ポイント)の全てで、前月から引き続いて悪化した。感染拡大やそれに伴う緊急事態宣言の影響などにより、小売関連(前月差▲5.2ポイント)やサービス関連(同▲4.3ポイント)は悪化し、11月、12月に既に大きく低下していた飲食関連も小幅であるが更に悪化した(同▲1.0ポイント)。他方で、住宅関連は上昇に転じており(前月差+4.6 ポイント)、回答者のコメントからは、住宅取得のニーズの高さがその要因と思われる。また、企業動向関連の内訳においても、製造業(前月差▲1.6ポイント)、非製造業(同▲0.3ポイント)の双方で2か月連続で悪化した。
現状判断DIの内訳の推移/現状判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントの多くで緊急事態宣言やGo To Travelキャンペーンの一時停止の影響が言及されていた。他方で、感染拡大に伴う在宅時間の増加を反映した需要増加などの業種による影響の違いへの言及も多々見られた。

<緊急事態宣言やGo To Travelキャンペーンの一時停止、営業時間短縮の影響に関する主なコメント>
  • 東京では1月8日から緊急事態宣言が再発出され、営業時間が夜8時までなので、7時半頃になると周りの店が看板の電気を消し始め、街も閑散としている。本当に街から人がさっさといなくなっていくのを切実に感じている(南関東(東京)・一般レストラン)
  • 旅行業界においては緊急事態宣言発令によるGo To Travelキャンペーンの全国一時停止や飲食店時短営業などが影響し、大打撃に直面している。Go To Travelキャンペーンによって緩やかではあったが需要回復がみられていた矢先に急転直下してしまった状況である。(東北・旅行代理店)
  • 緊急事態宣言の発令後、通勤客が減少し、日中の来客数がかなり減っている。また、飲食店への営業時間の短縮要請もあって、20時を過ぎると周辺に人がいなくなり、来客数が激減している。(近畿・コンビニ)

<在宅時間の増加を反映した需要増加などの業種による影響の違いに関する主なコメント>
  • 飲食店業界は非常に厳しい状況が続いているが、一方で、電子商取引のシステムや提案をしている企業は非常に堅調である。あるいは、スーパーの企業も求人活動を開始したり、大卒の採用の準備を始めたりしている。そういう意味では、業界、業種によって差はあるが、やや持ち直してきているという印象を受ける。(東北・人材派遣会社)
  • 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当社においても営業活動を制約しているが、テレワークやIoTの一層の利活用に向けた環境整備、強化に対するニーズが好調であり、当社の業績は堅調に推移している。周囲の企業も同様である。(北海道・通信業)
  • 新型コロナウイルスの影響により、空気清浄器関連や映像商品が売上をけん引し、寒波の到来で暖房商品も順調に推移している。血中酸素濃度計等の新しい需要も生まれている。(九州・家電量販店)

3.景気の先行き判断DI(季節調整値):内訳の全てで前月より改善

2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は、7月に感染拡大への懸念で大きく落ち込んだ後に、8月から10月まで3か月連続で上昇し、11月にいったん上昇は止まったが、12月からは再び上昇した。
先行き判断DI・回答者構成比 景気の先行き判断DIの回答者構成比でみても、悪化と回答した割合(「悪くなる」と「やや悪くなる」の回答の合計)(12月:49.1%→1月:38.1%)と減少する一方で、改善と回答した割合(「良くなる」と「やや良くなる」の回答の合計)(12月:11.5%→1月:17.6%)や現状維持(「変わらない」)と回答した割合(12月:39.4%→1月:44.3%)は増加した。
先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差+4.2ポイント)、企業動向関連(同+2.5ポイント)、雇用関連(同4.2ポイント)の全てで上昇した。家計動向関連の内訳をみても、小売関連(前月差+3.0ポイント)、飲食関連(同+8.2ポイント)、サービス関連(同+5.9ポイント)、住宅関連(同+2.6ポイント)の全てで上昇した。企業動向関連の内訳でも、製造業(前月差+1.3ポイント)、非製造業(前月差+3.2ポイント)の双方で前月より上昇した。
先行き判断DIの内訳の推移/先行き判断DI(家計動向関連)の内訳の推移
回答者のコメントからは、感染動向の先行きを懸念するものも見られたが、ワクチンに対する期待に言及するものが非常に多かった。Go To Travelキャンペーンなどの各種政策の再開への期待の声もみられた。また、東京オリンピックへの言及もみられた。

<ワクチン接種開始に対する期待に関する主なコメント>
  • 緊急事態宣言が奏功し、新型コロナウイルスの感染拡大が収まり、かつワクチン接種が開始されることにより、観光需要が復活することを期待している。また、ゴールデンウィークの花観光の集客に向けて準備を進めていく必要がある。(北海道・旅行代理店)
  • 気温の上昇やワクチン接種の開始などにより、新型コロナウイルスが終息に向かい、人々の動きや経済活動が回復し始めると予想する。(四国・スーパー)
  • 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まれば、効果うんぬんより安心感によって全体的に上向くはずである。(東海・その他飲食[仕出し])

<Go To Travelキャンペーンなどの政策に対する期待に関する主なコメント>
  • 新型コロナウイルスの感染第3波の収束や、Go To Travelキャンペーンの再開によるプラスの影響が期待される。(近畿・高級レストラン)
  • 客がキャンセルで消失している状態のため、これ以上悪くなることはないが、緊急事態宣言の解除、Go To Travelキャンペーン等が実施されなければ、このまま低空飛行で終わってしまう懸念がある。政府には適切な新型コロナウイルス対策と共に宿泊観光業界に対しての支援策を配慮してほしい。政府の対策なくして景気上昇はない。(東海・観光型ホテル)
  • 新型コロナウイルスのワクチン接種により、感染者数が減少し、加えて、政府の経済対策で、一気に景気が回復することを期待している。(九州・コンビニ)

<東京オリンピックに関する主なコメント>
  • 緊急事態宣言の解除は、予定されている2月7日から延長される可能性があるものの、2~3か月先には解除される。企業活動の平時への移行による活発化に伴い、幅広い業種で求人が戻り、景気は回復へと向かうと予想される。ただし、このタイミングで東京オリンピックの中止が決まれば、株価の下落や景気に対するマインドが一気に下がり、景気が下向く可能性がある。(近畿・新聞社[求人広告])
  • 必要に迫られて購入するもの以外で何か気分が明るく前向きになる要素、例えば東京オリンピックの開催などが見えてこないと、消費が上がってくるようなことはない。(東北・衣料品専門店)
  • 東京オリンピック、パラリンピックはどうなるか分からないが、新型コロナウイルスが収束に向かい、開催できれば、個人消費が上向くのではないか。国の積極的な感染防止策と経済支援策が早期に奏功することを期待している。2~3か月後になって、今が新型コロナウイルス禍による経済低迷の底だったということになってほしい。(南関東・化学工業)

2021年1月調査の結果は、新型コロナウイルス感染症の急激な感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言などの実施により、現状の景況感が著しく悪化していることを示すものであった。他方で、ワクチンへの期待感などから先行きは現状よりは悪くならないとの見方が強まっていることが伺われた。今後も感染動向やそれへの対応策に景況感が左右される状況は続くものの、ワクチン接種開始などによって感染収束を見通せる状況になれば景況感は改善に向かう可能性が高いだろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

山下 大輔

研究・専門分野

(2021年02月09日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【景気ウォッチャー調査(21年1月)~緊急事態宣言で現状DIは前月から更に悪化。先行きDIは2ヶ月連続で改善~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

景気ウォッチャー調査(21年1月)~緊急事態宣言で現状DIは前月から更に悪化。先行きDIは2ヶ月連続で改善~のレポート Topへ