2023年07月10日

景気ウォッチャー調査(23年6月)~景況感の回復ペースが鈍化

山下 大輔

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1.現状判断DI、先行き判断DIともに前月から低下も50超を継続

現状判断DI・先行き判断DIの推移 7月10日に内閣府が公表した2023年6月の景気ウォッチャー調査(調査期間:6月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DIは53.6と前月から▲1.4ポイント低下した(5か月ぶりの低下、5か月連続の50超え)。また、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DIも50.5と前月から▲0.4ポイント低下した(5か月ぶりの低下、4か月連続の50超え)。2~3か月先の景気の先行き判断DIは52.8と前月から▲1.6ポイント低下した(2か月連続の低下、5か月連続の50超え)。

6月調査では、新型コロナウイルス感染症の分類変更により、コロナ前と同様の方法で各種イベントが開催され、人流が増加していることや、インバウンド需要を含めた旅行需要の堅調さにより、景況感の回復が続いているものの、5類移行による需要増加が落ち着きつつあることが示された。回復ペースの鈍化の要因には物価上昇の影響もみられる。先行きについても、物価上昇への懸念に加えて、コロナ感染者数の増加への懸念がみられるものの、依然として楽観的な見方は継続している。

2.景気の現状判断DI:主に小売、飲食が低下も、引き続き50超を継続

現状判断DIの内訳の推移 現状判断DIの内訳をみると、家計動向関連は53.6(前月差▲1.3ポイント低下、5か月ぶりの低下、5か月連続の50超え)、企業動向関連は53.3(同▲1.0ポイント低下、6か月ぶりの低下、4か月連続の50超え)、雇用関連は54.1(同▲3.0ポイント低下、6か月ぶりの低下、17か月連続の50超え)となり、全てで前月から低下したが、50超えは継続している。
現状判断DI(家計動向関連)の内訳の推移 家計動向関連の内訳では、堅調な旅行需要を背景として、サービス関連は引き続き前月から上昇を継続したものの、飲食関連や小売関連は低下した。低下した飲食関連や小売関連はとも50を超えており、特に飲食関連については、DIの数値からは、景況感が引き続き堅調に回復し続けている状況にあるが、5類移行による需要増に落ち着きがみられることや物価上昇の影響から、回復ペースが鈍化した。サービス関連は前月差1.5ポイント上昇の60.7(5か月連続の上昇、10か月連続の50超え)となった。他方、小売関連は、前月から▲3.0ポイント低下の50.1(2か月連続の低下、5か月連続の50超え)、飲食関連は前月差▲3.7ポイント低下の57.4(2か月ぶりの低下、5か月連続の50超え)となった。また、住宅関連も前月差4.1ポイント上昇の49.5(2か月ぶりの上昇、33か月連続の50割れ)であった。
<回答者の主なコメント>
  • 新型コロナウイルス感染症の5類移行後のマーケット環境の改善や全国旅行支援の追い風により観光客層が動いている。ビジネス層に関しては、新型コロナウイルス感染症発生以前の動きまでは回復していない。(中国・都市型ホテル)
  • 原材料単価の高騰に加え、為替の影響で輸入品価格が大幅に高騰しており、単価が大きく上昇している。来客数、販売数にも大きな影響が出ている。(北陸・スーパー)
  • 景気が上向いているというのとは違うような気がする。コロナ禍が明けて、行動が活発になっており、来客数が増え、売上もそこそこ伸びている。ただし、物価上昇等の影響でいつまで続くかは見当が付かない。(南関東・一般レストラン)
  • 株価の上昇とインバウンド需要の拡大による活性化で、不動産価格の上昇期待が強くなっている。関西はマンション、戸建て住宅共に、高額物件への引き合いは一定レベルでみられる。ただし、低価格帯を中心にした実需物件の動きは鈍く、コロナ禍による反動とみられる影響が出ている。(近畿・その他住宅)

なお、企業動向関連の内訳は、製造業(前月差▲1.1ポイント低下の50.1、2か月ぶりの低下、2か月連続の50超え)、非製造業(前月差▲1.0ポイント低下の55.8、6か月ぶりの低下、5か月連続の50超え)ともに低下した。

3.景気の先行き判断DI:主に小売、飲食が低下も、引き続き50超を継続

先行き判断DIの内訳の推移 先行き判断DIの内訳について、家計動向関連は52.4(前月差▲1.7ポイント低下、2か月連続の低下、5か月連続の50超え)、企業動向関連は53.3(同▲0.3ポイント低下、4か月ぶりの低下、4か月連続の50超え)、雇用関連は54.3(同▲3.9ポイント低下、6か月ぶりの低下、5か月連続の50超え)となった。
先行き判断DI(家計動向関連)の内訳の推移 家計動向関連では、サービス関連(前月差0.1ポイント上昇の56.0、2か月ぶりの上昇、5か月連続の50超え)と住宅関連(前月差0.2ポイント上昇の47.1、2か月連続の上昇、20か月連続の50割れ)が前月からわずかに上昇したが、小売関連(前月差▲3.0ポイント低下の50.4(2か月連続の低下、5か月連続の50超え)と飲食関連(前月差▲0.4ポイント低下の58.2(3か月連続の低下、5か月連続の50超え)は前月から低下した。回答者のコメントからは、サービス関連は、インバウンド需要を含めた旅行需要が今後も堅調に推移することへの期待が示される一方、今後の物価上昇やコロナ感染者数増加への懸念から、小売関連や飲食関連の低下に影響したものとみられる。ただし、前月から低下した両項目は依然として50を超えており、特に飲食関連については、先行きへの楽観的な見方は維持されている。
<回答者のコメント>
  • 国内観光客が順調に回復している。さらに、国際便について、前年からの東南アジア路線の復便に加えて、7月から中国便が復便する予定であることから、インバウンドの増加も期待できる。これらのことから、今後の景気は良くなる。ただ、更なる国際便就航に向けて空港業務の人材確保が課題となっている。(北海道・旅行代理店)
  • 人の動きと経済活動は活発化している。観光業や飲食業の動きの回復が顕著であるが、物販消費にも今後は期待したい(中国・住宅販売会社)
  • 身の回りで新型コロナウイルス感染症の第9波がじわじわと広がっている。夏のイベント本番の時期に影響が出そうである。(東海・コンビニ)
  • 円安やエネルギー価格の高騰を受けた価格改定が複数回にわたるなか、これまでの値上げにはやむを得ないという理解があったが、今秋の価格交渉は難航している。これ以上値上げすれば売れないだろうという感覚を私たち売手も持つが、販売数量が減ってでも値上げをし、最低限の利益は確保していく方針である。販売量や販売先の減少は避けられず、将来の景気に悪影響を与えると予想する。(東海・その他飲食)

なお、企業動向関連の内訳では、製造業は、前月差▲1.0ポイント低下の52.7(2か月ぶりの低下、4か月連続の50超え)となり、非製造業は、前月差▲0.4ポイント低下の53.7(2か月連続の低下、4か月連続の50超え)となった。
 
 

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山下 大輔

研究・専門分野

(2023年07月10日「経済・金融フラッシュ」)

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