2021年03月09日

2020~2022年度経済見通し-20年10-12月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2020年10-12月期の実質GDPは前期比年率11.7%へ下方修正

3/9に内閣府が公表した2020年10-12月期の実質GDP(2次速報値)は前期比2.8%(年率11.7%)となり、1次速報の前期比3.0%(年率12.7%)から下方修正された。

10-12月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比4.5%から同4.3%へ下方修正されたほか、民間在庫変動も前期比・寄与度▲0.4%から同▲0.6%へと下方修正された。また、1次速報で前期比2.0%の高い伸びとなっていた政府消費も同1.8%へと若干下方修正された。一方、12月の建設総合統計の結果が反映されたことにより、公的固定資本形成が前期比1.3%から同1.5%へと上方修正された。

2020年10-12月期は1次速報から下方修正されたものの、7-9月期(前期比年率22.8%)に続く高成長となり、過去最大のマイナス成長となった4-6月期(前期比年率▲29.3%)の落ち込みの9割強を2四半期で取り戻した。ただし、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年10-12月期の実質GDPは▲3.1%、民間消費は▲5.3%低い水準にとどまっており、経済活動の正常化にはまだ距離がある。
(製造業を中心に企業収益が急回復)
財務省が3月2日に公表した法人企業統計によると、2020年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く)の経常利益は前年比▲0.7%と7四半期連続で減少したが、減少幅は7-9月期の同▲28.4%から大きく縮小した。非製造業は前年比▲11.2%(7-9月期:同▲29.1%)と4四半期連続で前年比二桁の大幅減少となったが、製造業が前年比21.9%(7-9月期:同▲27.1%)と10四半期ぶりの増加となった。

季節調整済の経常利益は2020年7-9月期の前期比32.2%に続き、10-12月期も同15.5%の高い伸びとなった。経常利益(季節調整値)は、2020年前半は新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだものの、年後半は製造業を中心に想定を上回るペースで急回復した。ただし、製造業は新型コロナ前(2019年10-12月期)の水準をすでに上回っているのに対し、非製造業は2019年10-12月期の水準を1割以上下回っており、コロナ禍における回復ペースの違いが鮮明となっている。
経常利益の推移/経常利益(季節調整値)の推移
(対面型サービス消費は一段と落ち込む)
個人消費は2020年5月を底に持ち直していたが、2020年末以降は再び弱い動きとなっている。「家計調査(総務省統計局)」の実質消費支出を形態別に見ると、財については巣ごもり需要の拡大や特別定額給付金の効果からコロナ前の2019年平均とほぼ同水準で推移している。一方、サービスは緊急事態宣言時の落ち込みが非常に大きかったことに加え、その後の戻りも弱い。特に、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)については、2020年4、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、Go To キャンペーン事業による後押しもあって、10月には6割程度まで持ち直したが、Go To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請、緊急事態宣言再発令の影響から、2021年1月には3割強の水準に逆戻りした。

また、2020年7月に開始された「Go Toトラベル事業」の利用人泊数は12月までに約8,781万人泊、割引支援額は約5,399億円に達し、宿泊者数の持ち直しに大きく寄与してきた。2020年7月から12月の延べ宿泊者数の半分以上がGo Toトラベル利用によるものであった。しかし、新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けて、11月下旬から12月中旬にかけて一部の地域でGo Toトラベルが停止された後、12/28からは全国で一斉停止となった。この結果、延べ宿泊者数は2020年11月の前年比▲31%から12月に同▲41%と減少幅が再拡大した後、2021年1月には同▲61%と減少ペースがさらに加速した。
対面型サービス消費は再び落ち込む/「Go To トラベル」の停止で宿泊者数の減少幅が再拡大

2. 実質成長率は2020年度▲4.9%

2. 実質成長率は2020年度▲4.9%、2021年度3.7%、2022年度1.7%

(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
2020年10-12月期のGDP2次速報を受けて、2/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2020年度が▲4.9%、2021年度が3.7%、2022年度が1.7%と予想する。2020年10-12月期の成長率が下方修正されたことを受けて、2020年度の成長率見通しを▲0.1%下方修正した。2021年度、2022年度は変更していない。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
2021年1-3月期は緊急事態宣言が再発令されたことを受けて、再びマイナス成長となる可能性が高い。前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊興施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。また、前回の緊急事態宣言では、当初7都府県に限定されていた対象地域がその後全国に拡大されたが、今回は対象地域が限定されている。
小売・娯楽施設の人出 緊急事態宣言は、6府県(大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡)で3/1に前倒しで解除される一方、1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)では3/7から3/21まで延長された。しかし、緊急事態宣言下にもかかわらず小売・娯楽施設の人出が戻りつつあることからも分かるように、飲食、旅行など特定の分野を除けば、緊急事態宣言延長による経済への悪影響は限定的にとどまるとみられる。

ただし、経済活動の制限自体が前回の緊急事態宣言時より限定的だとしても、経済の耐久力が対面型サービス業を中心に大きく低下していることには注意が必要だ。新型コロナの影響を強く受けている宿泊業、飲食サービス業の経常利益は、2020年1-3月期から10-12月期まで4四半期連続で赤字となっており、緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増え、失業者数が急増するリスクは前回の緊急事態宣言時よりも高くなっている。

2021年1-3月期は前期比年率▲6.0%と3四半期ぶりのマイナス成長を予想するが、落ち込み幅は前回の緊急事態宣言時を大きく下回るだろう。民間消費の落ち込みが当時の3分の1程度(2020年4-6月期:前期比▲8.4%、2021年1-3月期:同▲2.8%)にとどまることに加え、2020年4-6月期に成長率を大きく押し下げた外需が成長率の押し上げ要因となるためである。

2020年冬以降は欧米で再び経済活動制限の動きが広がっているが、その影響を強く受けているのは主としてサービス業であり、ペントアップ需要や巣ごもり需要の拡大などから財の消費は総じて堅調で、製造業の生産活動はしっかりしている。多くの国で工場が操業停止となり、輸出入が急激に落ち込んだ2020年春とは状況が大きく異なっている。
世界の実質GDPと貿易量の関係 オランダ経済政策分析局が作成している世界貿易量は、2020年春頃には前年比で▲15%程度と実質GDPを上回る落ち込みとなった。しかし、その後は世界的な生産活動の好調を受けて急回復し、年末にかけて前年を上回る水準を取り戻した。2020年10-12月期に続き2021年1-3月期もマイナス成長が予想される欧州向けの輸出は弱い動きとなることが見込まれるが、米国、中国向けが好調を維持することで輸出全体は引き続き堅調な推移が続くことが予想される。
2021年4-6月期は緊急事態宣言の解除を前提として、前期比年率5.8%の高成長となった後、経済正常化の過程にあることから当面は潜在成長率を明確に上回る成長が続くことが予想されるが、経済活動の水準がコロナ前の水準に戻るまでには時間を要するだろう。緊急事態宣言が解除されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保等が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における企業収益の悪化や雇用、所得の減少が先行きの需要の下押し圧力となるためである。さらに、需要が大きく落ち込んだ状態が続いた業界では、コロナ禍で生じた供給力の低下が将来の需要の回復を遅らせる可能性がある。たとえば、飲食業、宿泊業では、倒産や企業規模の縮小に伴う店舗数、客室数の減少が中長期的な需要の下押し要因となるだろう。

また、2021年度以降はワクチンの普及によって新型コロナウイルスの感染者数が一定程度減少することが期待される。しかし、感染者数がゼロになることは考えにくく、気温の低下によってウイルスが活性化し免疫力が低下する冬場には感染者数がある程度増加することは避けられない。その場合、感染拡大防止に向けた公衆衛生上の措置がとられることによって個人消費を中心に経済活動が停滞する可能性がある。

実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年4-6月期となるが、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度までずれ込むだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年12月には前年比▲1.0%と約10年ぶりに1%台のマイナスとなったが、Go To トラベルの一時停止によって宿泊料の下落率が大きく縮小したことを主因として、2021年1月には同▲0.6%と下落率が縮小した。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は同0.1%と6ヵ月ぶりのプラスとなり、経済活動の急激な落ち込みの割に物価の基調は弱くなっていない。巣ごもり需要の高まりから、食料品、日用品、家電製品など財の消費は堅調なものが多いこと、自粛要請などにより需要が急激に落ち込んでいる外食などのサービスについては、通常の景気悪化時と異なり、値下げによる需要喚起が期待できないことがその背景にあると考えられる。

先行きについては、これまでコアCPIを大きく押し下げてきたエネルギー価格は、足もとの原油価格の大幅上昇を受けて、2021年度入り後には上昇に転じ、その後上昇ペースが加速することが見込まれる。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は、2021年4-6月期に5四半期ぶりのプラスとなることが予想される。ただし、需給面からの下押し圧力が残存すること、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから物価の基調が大きく高まることは期待できない。コアCPI上昇率は、2020年度が前年比▲0.4%、2021年度が同0.7%、2022年度が同0.6%と予想する。

なお、今回の見通しでは、2020年12月末に停止されたGo To トラベルの再開は想定していない。Go To トラベルによるコアCPI上昇率への影響は2020年度が▲0.2%、2021年度が0.2%である。
日本経済の見通し(2020年10-12月期2次QE(3/9発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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