2021年03月02日

法人企業統計20年10-12月期-製造業を中心に企業収益が急回復も、設備投資の回復は遅れる

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.7四半期連続の減益も、減益幅は大きく縮小

経常利益の推移 財務省が3月2日に公表した法人企業統計によると、20年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲0.7%と7四半期連続で減少したが、減少幅は7-9月期の同▲28.4%から大きく縮小した。非製造業は前年比▲11.2%(7-9月期:同▲29.1%)と4四半期連続で前年比二桁の大幅減少となったが、製造業が前年比21.9%(7-9月期:同▲27.1%)と10四半期ぶりの増加となった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、内外の経済活動の持ち直しを受けて、売上高が前年比▲5.4%(7-9月期:同▲13.2%)と減少幅が縮小したことに加え、売上高経常利益率が19年10-12月期の5.8%から7.5%へと大きく改善したことが収益の押し上げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、売上高の減少幅が縮小する中で、既往の原油安の影響で変動費の減少が続いたため、変動費要因が利益率の改善に大きく寄与した。

非製造業は、国内需要の持ち直しを反映し、売上高は前年比▲4.1%(7-9月期:同▲10.8%)と減少幅が縮小したが、売上高経常利益率が19年10-12月期の5.1%から4.8%へと悪化したことが収益の押し下げ要因となった。変動費要因は小幅なプラスとなったが、売上高の減少幅が人件費の減少幅を上回り、人件費要因が利益率を押し下げた。

2.経常利益(季節調整値)はコロナ禍の落ち込みをほぼ取り戻す

経常利益を業種別に見ると、製造業は輸送用機械(7-9月期:前年比▲38.8%→10-12月期:同68.1%)、はん用機械(7-9月期:前年比▲62.9%→10-12月期:同71.7%)、生産用機械(7-9月期:前年比▲29.5%→10-12月期:同71.7%)など、7-9月期の大幅減益から一転して大幅増益となる業種が目立った。一方、非製造業は建設業(前年比41.1%)、卸売・小売業(同30.4%)は増益に転じたものの、サービス業が前年比▲36.9%の大幅減益となったほか、運輸・郵便業(▲325億円)、電気業(▲74億円)は赤字となった。なお、新型コロナウイルスの影響をより強く受けている宿泊業(▲112億円)、飲食サービス業(▲43億円)は1-3月期から4四半期連続で赤字となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比15.5%(7-9月期:同32.2%)と2四半期連続で増加した。製造業が前期比31.7%(7-9月期:同47.3%)、非製造業が前期比7.5%(7-9月期:同25.9%)となった。経常利益(季節調整値)は、新型コロナウイルスの影響が顕在化した20年1-3月期、4-6月期で3割以上落ち込んだが、7-9月期、10-12月期の2四半期でその95%を取り戻した。ただし、製造業は新型コロナ前(19年10-12月期)の水準をすでに上回っているのに対し、非製造業は19年10-12月期の水準を1割以上下回っており、コロナ禍における回復ペースの違いが鮮明となっている。

なお、20年10-12月期の経常利益の水準(17.3兆円)は、直近のピーク(18年4-6月期の24.8%)に比べれば3割程度低い。製造業、非製造業ともにそれぞれのピークを3割程度下回っている(直近のピークは製造業が18年4-6月期、非製造業が19年1-3月期)。

企業収益は、20年前半は新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだものの、年後半は製造業を中心に想定を上回るペースで急回復した。21年1-3月期は、製造業は輸出の好調と財消費の堅調に支えられて回復の動きが継続する一方、Go To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請、緊急事態宣言再発令の影響で宿泊業、飲食サービス業の赤字幅がさらに拡大することが見込まれるため、非製造業は低調な動きとなることが予想される。業種間の格差は一段と広がることになるだろう。

3.設備投資は減少が継続

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲4.8%と3四半期連続で減少したが、7-9月期の同▲10.6%から減少幅は縮小した。製造業(7-9月期:前年比▲10.3%→10-12月期:同▲8.5%)は5四半期連続、非製造業(7-9月期:前年比▲10.8%→10-12月期:同▲2.6%)は3四半期連続で減少したが、ともに減少幅は前期から縮小した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比▲0.3%(7-9月期:同▲0.7%)と3四半期連続で減少した。非製造業は前期比0.7%(7-9月期:同▲0.5%)と3四半期ぶりに増加したが、製造業が前期比▲2.3%(7-9月期:同▲1.1%)と3四半期連続で減少した。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 景気はすでに底打ちしており、企業収益も製造業を中心に改善傾向が明確となっているが、設備投資の回復は遅れている。19年以降の企業収益の悪化を受けて、設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提が崩れたこと、需要の急激な落ち込みを経験したことで企業の慎重姿勢が強くなっていることが、設備投資の抑制につながっているとみられる。

先行きについては、製造業の機械投資は生産活動、企業収益の回復を受けて底堅く推移する一方、飲食、宿泊業などを含む非製造業の建設投資は低迷が続くことが予想される。設備投資が全体として回復基調に転じるまでには時間を要するだろう。

4.10-12月期・GDP2次速報は小幅上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/9公表予定の20年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比3.1%(前期比年率13.1%)となり、1次速報の前期比3.0%(前期比年率12.7%)から若干上方修正されると予想する。
2020年10-12月期GDP2次速報の予測 設備投資は1次速報の前期比4.5%から同4.8%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比▲6.1%(10-12月期:同▲11.6%)と5四半期連続で減少したが、減少幅は縮小した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ前年比▲5%台の減少となった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比5.3%(7-9月期:同7.0%)と5四半期連続で増加した。1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比▲6.1%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.4%から同▲0.3%へと上方修正されるだろう。その他の需要項目では、公的固定資本形成は12月の建設総合統計の結果が反映され、前期比1.3%から同1.6%へ上方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年03月02日「経済・金融フラッシュ」)

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