2021年03月08日

J-REIT市場の動向と今後の収益見通し。5年間で12%成長を見込む~今年は横ばいも、来年以降回復に向かう見通し

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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賃貸マンションはテナント入替時の賃料上昇が継続。コロナ禍を受けて東京は人口流出に転じる
住宅系REIT主要5社の開示資料によると、テナント入替時の賃料変動率は右肩上がりで推移している。2020年下期の賃料変動率は5社平均で+5.2%となった(図表―10)。一方で、これまで賃料上昇を支えてきた都心部への人口流入に変化が生じている。なかでも、保有マンションの7割を占める東京23区は昨年5月以降流出超過に転じている。2020年の転入超過数は1.3万人とプラスを維持したものの前年比で▲80%減少した(図表―11)。こうした市場動向を勘案し、前提条件としてテナント入替時の賃料上昇が足もとの+5%から+2%へ鈍化することを想定する。
[図表10] 賃貸マンションのテナント入替時の賃料変動率(住宅系REIT主要5社)/[図表11] 東京23区の転入超過数(月次累計)
コロナ禍による減収金額(2020年下期)は▲333億円。回復は2022年以降となる見通し
J-REIT各社の開示資料をもとにコロナ禍による減収金額(変動賃料の減少や賃料減免などの影響)を推計すると、2020年下期(2020年7月~12月期決算)は合計▲333億円となった(図表―12)。内訳は、ホテル(87%)と商業施設(12%)で全体の99%を占める。本来、コロナ禍に伴う減収は一過性のもので翌年以降DPUの押し上げ要因となる。しかし、ホテルや商業施設を取り巻く事業環境は依然として厳しく、各社の業績予想においても2021年内の回復は難しい模様だ。そこで、減収金額については、減収額の8割(266億円)が2022年から段階的に回復することを想定する(67億円/年)。
【図表-12】コロナ禍に伴う減収金額
借入利率の変動によるDPUへの寄与度はゼロとなる見通し
各国の中央銀行が積極的な金融緩和姿勢を維持するなか、J-REIT各社は引き続き好条件でデット資金を調達できている。2020年にJ-REITが発行した投資法人債の平均利率は0.54%(期間9.3年)で、現在のJ-REIT全体の負債利子率(融資関連費用を含む)を下回り、支払利息の減少が業績にプラス寄与している(図表―13)。

ところで、ニッセイ基礎研究所の中期経済見通し2によると、「しばらくは新型コロナの影響が尾を引くことから、日銀は現行の金融緩和を長期にわたって続けざるを得ず、10年国債利回りは現状より多少上振れるものの上昇幅は限定的となる(メインシナリオ)」としている(図表―14)。この金利見通しを利用して、一定の前提条件(稿末に記載)のもと借入利率の変動に伴うDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した。結果はメインシナリオでゼロとなり、借入利率の変動はDPUに対して概ね中立となる見通しである。
[図表-13] :負債利子率、10年国債利回り、投資法人債利率の推移/[図表-14] 10年国債利回りの見通し(2020年度~2025年度)
取得利回りが既存ポート利回りを下回るものの、外部成長はDPUにプラス寄与する見通し
J-REITによる物件取得(外部成長)は、2013年に2.3兆円と過去最高を記録しその後も高い水準(1.3兆円~1.8兆円)を維持している(図表―15)。2020年の取得額は約1.4兆円(前年比▲2%)となり、新型コロナの影響で第2四半期(4-6月)に落ち込んだものの例年並みの水準を確保した。一方で、売買市場における取得競争は厳しく、取得利回りは既存ポート利回りを下回る水準が続いている。

そこで、現在の取得環境を踏まえて、今後の外部成長について以下のシナリオを想定しDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した(年1.5兆円取得、取得利回り4.4%、借入比率50%、増資PBR1.4倍3、借入利率:メインシナリオの金利)。結果は、取得利回りが既存ポート利回りを下回るものの、プレミアム増資(高PBR)の効果によりDPUに3%プラスに寄与する見通し4である。しかし、プレミアム増資はREIT価格の水準に大きく依存することに留意したい。
【図表-15】J-REITによる物件取得額と取得利回り
 
3 2月末時点の市場平均PBR(株価純資産倍率)は1.45倍である。
4 取得利回りの低下に伴う総資産利益利率(ROA)の悪化を、プレミアム増資に伴う1口当たり純資産(BPU)の上昇が補いプラスに寄与する。
今後5年間のDPU成長率は+12%(年率+2.4%)の見通し
最後に、上記で設定したシナリオをもとに今後5年間のDPU成長率を試算した(図表―16)。DPU成長率は+12%(年率+2.4%)となり、業績の回復が期待できる結果となった。内訳は内部成長が9%(このうちコロナの収益回復が7%)、外部成長が3%、財務がゼロとなる。2021年は概ね横ばいで推移するものの、来年以降は成長率が高まり回復に向かう見通しである。

ただし、DPUの成長ドライバーは主に、コロナ禍により剥落したホテルや商業施設の収益回復と、保有オフィスビルの賃料ギャップ(継続賃料<市場賃料)に依存する。特に、後者については足もとの市場賃料の軟化により賃料ギャップが想定以上に縮小している可能性があり、その動向に注意したい。

現状、新型コロナの猛威が収まらず不動産賃貸市場は不確実性の高い状況が続いている。しばらくの間、JREIT各社は守りを固めたリスクマネジメント重視の運用姿勢が求められることになりそうだ。
[図表-16] :今後5年間のDPU見通し(2020年下期=100)
<主な前提条件>
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年03月08日「基礎研レポート」)

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