2021年02月05日

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企業の研究開発プロセスへのAI活用

社会を変えるような革新的な製品の開発には、外部の叡智や技術も取り入れる必要があり、世界中で発表された膨大な数の多様な領域の研究論文や過去に実施された実験データなどのビッグデータの活用が求められる。しかし、このような多様で膨大なビッグデータは、人間の経験や勘だけでとても扱えるような規模ではない。このため、人工知能(AI)の活用により、人間では発見できないデータ間の相関関係や最適な組み合わせを、ビッグデータから網羅的・効率的に解析・発見することが必要になってきている。

例えば、大手素材メーカーが手掛ける電子材料など機能性材料の開発では、ビッグデータやAIを活用した「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」と呼ばれる、新たな材料設計手法を取り入れようとする動きがある。これは、多くの試作回数、長い開発期間を要する、勘や経験に基づくこれまでの非効率な開発プロセスを刷新しようとする試みだ。

複雑化する研究開発プロセスにAIを導入すれば、膨大な物質の組み合わせの中から人間が思いもつかなかった新素材を、実験・試作工数を最小限に抑えて探し出すことができる。すなわち、MIの狙いは、高速な材料設計による「プロセス・イノベーション(業務プロセスの効率化)」と、新規材料の探索による「プロダクト・イノベーション(新技術・新製品の創出)」にある、と言える。研究者・エンジニアは、ビッグデータの分析時間や実験・試作工数の短縮により浮いた時間で、より創造的な活動を業務内外で行うことができるだろう。

このようにAI利活用の目的は、イノベーションを通じた「社会的価値」の創出にあるべきだ、と筆者は考える。

現実空間と仮想空間の融合がDXを推進

最先端テクノロジーを駆使して社会課題を解決する「第4次産業革命」や「Society5.0」では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた「サイバーフィジカルシステム(CPS)」が重要と考える。すなわち、現実空間で収集・蓄積されるビッグデータが、仮想空間でAIにより解析され、その解析結果が現実空間にフィードバックされ、イノベーションを通じて社会課題解決に活かされ、最終的に社会生活の質(QOL)を豊かにする世界だ。

一方、企業がデータとデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセスから組織や企業文化までも変革しようとする取組である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」も、CPSにより強力に推進できる、と筆者は考えている。MIはCPSの構造を取り入れたものであり、研究開発プロセスへのAI活用は「研究開発DX」を推進するドライバーを担う、と言える。創薬研究でもビッグデータやAIを活用する動きが見られる。

人間とAIのコラボレーションが不可欠

企業は、AIの活用で研究開発DXを進める一方で、必ずしも合理性や常識にとらわれない、研究者・エンジニアの偶発的な行動が、思いがけない発見(=セレンディピティ)を引き寄せ画期的なイノベーションにつながり得ることにも留意すべきだ。例えば、実験の失敗など一見非合理的なプロセスを経て、世界を変えるような大発明が生まれることがある。

しかし、研究者・エンジニアの一見非合理的な行動は、暗黙知そのものであり、データ化(形式知化)してAIに学ばせることは非常に難しい、と思われる。このように、すべての研究開発業務をAIでシステム化できるわけではない。人間にはできない多様で膨大なビッグデータの網羅的・効率的な解析をAIに任せ、研究者・エンジニアは、合理性のみにとらわれない創造性を発揮することやAIによる分析結果を参考に意思決定をすることで互いに得意分野を担い、人間とAIが協調・調和して業務を遂行できる「ハイブリッド環境」を実現することが望まれる。

企業の研究者・エンジニアは、AIによる自動分析の利便性に安住し、その分析結果を十分に吟味しないまま機械的に業務の意思決定に用いてしまったり、また学会活動、異業種交流会、多様で創造的な人々が集うコワーキングスペースなどへの参加といった、偶発的な出会いを求めて行う地道な創造的活動を怠ってしまうことは禁物だ。そのようなスタンスが社内に蔓延してしまうと、研究者・エンジニアの能力退化を招いてしまい、AIに真っ先に代替・淘汰される人材を増やし、イノベーションが起こらない社内環境を作ってしまうことになりかねない。

研究者・エンジニアは、AI利活用を受け身や他人事ではなく「自分事」として捉えAIに向き合って、AIによる分析結果の持つ意味をしっかりと考え、それを活かしながらも自らが業務の意思決定を行わなければならない。

「CPSがDXの強力な推進役を担う」と述べたが、CPSという「構造」を形式的に取り入れるだけではなく、CPSという「仏に魂を入れる」ように、人間がAI利活用を「自分事化」し、明確な目的を持ってAIを使いこなす「AIマネジメント能力」を身に付け磨いていかなければ、実のところ、DXの強力な推進は難しい。
 
* 詳しくは、研究員の眼「AIと研究開発DX」(2020 年12月28日)を参照されたい。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66478
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

(2021年02月05日「基礎研マンスリー」)

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【AIと研究開発DX-人間とAIが協調・調和するハイブリッド環境が欠かせない】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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