2021年02月05日

発行も視野、中央銀行デジタル通貨-昨年の振り返りと2021 年以降の展望

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.287]

総合政策研究部 准主任研究員   鈴木 智也

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1―はじめに

世界で中央銀行デジタル通貨(英語表記:Central Bank Digital Currency、以下CBDC)の研究開発が加速している。CBDCは、中央銀行が発行するデジタル化されたマネーであり、紙幣や硬貨等と同様の価値を有する、信用力が極めて高い法定デジタル通貨だ。近年、個人や企業などの幅広い主体が利用することを想定した「一般利用型」CBDCに注目が集まっている。

昨年(2020年)は、世界第2位の経済大国となった中国で、デジタル人民元のパイロット試験が開始されただけでなく、新興国のバハマやカンボジアで、CBDCが正式展開された「節目の年」となった。

CBDCには、個人や企業の利便性を高め、イノベーションの起爆剤になるとの期待がある反面、取引のトレーサビリティが高まることで、個人のプライバシーが低下し、金融政策に悪影響が及ぶことで、経済が不安定化するのではないかといった懸念もある。

ただ、CBDCは、長期的な視点で見た場合、経済安全保障に関わる政治的な側面も有しているため、国際的な開発競争が本格化しつつある。

本稿では、昨年の動向を振り返り、2021年以降の展望について考察する。

2―〈2020年〉 慎重姿勢から転換

昨年は、小規模な新興国だけでなく、主要な経済国においても、CBDCへの取組み姿勢が変わる「節目の年」となった。
[中国]―2019年にデジタル人民元構想が表面化した中国では、昨年4月以降、本格導入を見据えたパイロット試験が実施されている。

中でも、特に注目を集めたのが、深圳市政府と人民銀行が、10月に共同実施した「红包」キャンペーンという、デジタル人民元の配布イベントだ。同イベントでは、抽選で当選した5万人に対して、総額1,000万元(約1億6,000万円)を配布し、デジタル人民元の送金や支払といった基本的な機能の検証を行ったとされる。深圳市政府の公表によれば、47,573人が200元/人を受け取り、実際に羅湖区の3,389店舗で62,788件の取引に利用し、876.4万元が使用されたという。

また、12月には、蘇州市でも2倍に規模を拡大して「红包」キャンペーンが実施されている。そこでは、新たにオンライン決済機能やオフライン決済機能が追加されるなど、応用的な機能の検証が進められたようだ。

今年は、既に第3弾のイベントが深圳市で実施されており、デジタルデバイド対策として、カード方式の検証が進められている。

中国では、技術面や運用面における課題の洗い出し作業のほか、デジタル人民元の発行に向けた法律の改正作業も進められており、本格導入に向けた環境整備が進んでいる。
[米国]―基軸通貨国である米国は、既存の国際秩序を守る立場から、主要国の中でも、とりわけCBDCに対して慎重な姿勢を示して来た。ただ、中国を始めとする各国で研究開発が加速する中、徐々に態度が修正されつつある。

昨年2月には、米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事がスタンフォード大学で講演し、米国もCBDCに関する調査や実験を、実施していることを明らかにしている。また、6月には、パウエル議長が米下院金融サービス委員会で発言し、CBDCを「真剣に研究していく案件の1つだ」と述べている。さらに10月には、日本や欧州などが創設した「共同研究グループ」に合流し、国際的な連携を深め始めたことも分かって来た。
[欧州]― 欧州におけるCBDCの実用化に向けた研究は、スウェーデンのe-kronaプロジェクトが先行して来た。昨年12月には、スウェーデン政府が公式にe-kronaの実現可能性についての調査を開始し、2022年11月末までに調査を完了する方針を示している。

また、スウェーデンと同じく、CBDCに前向きな姿勢を示して来た英国では、イングランド銀行のベイリー総裁が、7月の学生向けウェビナー・イベントで講演し、CBDCの作成について、英国も検討を進めていることを明らかにしている。

さらに10月には、ユーロ通貨圏の金融政策を担う欧州中央銀行も「デジタルユーロ」に関する報告書を公表し、プロジェクトを開始するか否かの決定を、2021年半ばに掛けて行うことを明らかにしている。
[新興国]― なお、CBDCの発行に対する動機は、先進国より、むしろ新興国や途上国で強いことが知られている。それらの国では、金融システムが未成熟なことが多く、CBDCの導入により、金融包摂(金融サービスへのアクセスの改善)が促進され、金融政策の有効性や金融システムの安定につながることが期待されている。

昨年10月には、中南米のバハマで、初めてCBDCの正式運用が始まり、その8日後には、東南アジアのカンボジアでも、正式運用が開始されている。
[日本]―昨年の大きな特徴として、デジタル円の発行に関する、政治面の動きが活発化したことが挙げられる。

昨年2月、自民党のルール形成戦略議員連盟が、経済安全保障上の視点から、デジタル円の導入を検討するよう促す提言をまとめると、6月には、自民党の金融調査会が、金融面の問題に対処するための提言を取りまとめ、CBDCの「より具体的な検討を直ちに開始すべき」との考えを表明している。政府は、それらの動きを受けて、政権の経済財政政策の基本方針を記す「骨太の方針2020」に、初めてCBDCの検討方針を盛り込んでいる。また10月には、自民党の新国際秩序創造戦略本部が、CBDCの導入に必要な関連法の改正を促す提言を策定している。

このような政治の動きは、日銀の研究開発にも影響を及ぼし始めている。昨年2月、日銀の決済機構局内に「CBDCに関する研究チーム」が発足すると、7月には、それを改組する形で「デジタル通貨グループ」が創設されている。そして、その初代グループ長には、他のグループ長と同じ企画役ではなく審議役が就任し、研究開発を強力に推進する体制が整えられた。さらに10月には、デジタル円の実証実験を、2021年度の早い時期に開始するとの計画が示されている。同計画は、プロジェクトの実現可能性を、技術的な観点から検証する2段階の実証実験と、本格導入に向けた課題を検証する1段階のパイロット試験で構成されるという。

3―〈2021年〉 加速する潮流

日本銀行法には、日本銀行券の種類や発行は「政令で定め」、その様式は「財務大臣が定める」との記載がある。それを踏まえると、デジタル円の発行についての決定権は、政府にあると見ることもできる。

日本におけるデジタル円の発行可能性を考えると、政治における議論がさらに進み、一歩踏み込んだ決断が為されれば、相対的に慎重な姿勢を見せる日銀も、姿勢の転換を迫られるかもしれない。足元では、日本銀行法や通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律など、関連法の改正に向けた議論も始まっている。日銀に対する国内圧力は、今後も弱まることはないだろう。

なお、国内の議論は、海外の動向にも左右され得る。特に、デジタル人民元への対抗で連携を模索する、米国の動きには要注目だ。米国では、民主党の方がCBDCに対して親和的であり、バイデン政権のもとで、デジタルドルを巡る議論も加速する可能性がある。米国の動向次第では、国外からの圧力も強まることが予想される。

下図は、世界の主なCBDC導入計画や、その見通しをまとめたものだ。通貨のデジタル化は、すでに世界の大きな潮流となっており、この流れに逆らって進むことは難しいだろう。デジタル通貨を巡る国家間、および官民の競争は、CBDCの発行が現実的な課題として認識されたこれからが本番だ。今後、デジタル通貨を利用した様々なユースケースが、次々と生まれて来るだろう。私たちの生活やビジネスの在り方を変えるこの潮流からは、これからも目を離すことができない。
[図表]注目度の高い「一般利用型CBDC」の開発/導入計画
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
日本経済・金融

(2021年02月05日「基礎研マンスリー」)

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