2021年01月25日

バイデン政権が発足-安定政権も、新型コロナ対策と追加経済対策が喫緊の課題となる中で厳しい船出

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1.はじめに

米国では新型コロナの死亡者数が第2次世界大戦の死亡者数(40.5万人)を超えるなど、危機的な状況となっている。そんな中、1月20日にジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任した。バイデン政権は上下院で与党民主党が過半数を占める安定政権での政権運営となる(前掲図表1)。

バイデン政権は優先的な政策課題を「新型コロナ対策」、「気候変動」、「人種平等」、「経済」、「医療制度」、「移民」、「米国の世界的な地位回復」としており、これらの分野で就任初日から多くの大統領令に署名するなど、前政権からの政策転換を精力的に推進している。また、喫緊の課題である新型コロナ対策と追加経済対策についても政策案を提示しており、議会に協力を求めている。

一方、安定政権とは言え、上院では与野党の議席数が拮抗しているため、政権運営では野党共和党のみでなく、与党民主党内の保守や左派にも配慮する必要があり、議会での調整手腕が評価されてきたバイデン大統領の真価が問われる。バイデン政権は新型コロナ対策と追加経済対策が喫緊の課題となる中で、厳しい船出と言えよう。
 

2.バイデン政権が発足

2.バイデン政権が発足

(図表2)大統領支持率 (支持率):トランプ大統領よりは高い支持率も、支持政党で支持率の乖離は大きい
ピュー・リサーチによるとバイデン大統領の就任時の支持率は58%1となった(図表2)。これはトランプ大統領(39%)やブッシュ(子)大統領(50%)は上回ったものの、オバマ大統領(70%)、クリントン大統領(64%)、ブッシュ(親)大統領(65%)を下回っており、歴代大統領と比べて高いとは言えない。

また、支持政党別では民主党支持者の88%がバイデン大統領を支持する一方、共和党支持者では25%の支持に留まっており、支持率には党派性が強く反映されている。
(経済閣僚人事):性別、人種などの多様性を重視しつつ、専門性の高い即戦力の布陣
バイデン政権の主要な経済閣僚人事をみると、イエレン前FRB議長が女性初の財務長官に指名されたのをはじめ、女性が多数採用されているほか、人種でもアフリカ系、ヒスパニック系、インド系アメリカ人が指名されており、バイデン大統領が重視する多様性が反映された人選となっている(図表3)。

また、指名閣僚の経歴をみるとそれぞれの政策担当分野での知識や経験を有した専門家を多数配置していることが分かる。例えば中小企業庁長官に指名されたイザベル・ガスマン氏はオバマ政権時代に中小企業庁の上級顧問を歴任したほか、現在はカリフォルニア州のビジネス開発局の局長を務めており、中小企業政策の専門家である。これはトランプ政権下で同じポストにトランプ大統領と親交があったプロレス団体の元CEOが指名されたのと対照的である。バイデン政権の経済閣僚は即戦力の布陣と言えよう。
(図表3)バイデン次期政権の経済閣僚候補
一方、本稿執筆時点(1月22日)ではこれらの閣僚候補の1人も上院で承認されておらず、承認の遅れが一部で指摘されている。もっとも、重要な財務長官ポストは1月25日に承認されることが見込まれており、トランプ政権下のムニューシン財務長官(2月1日)やオバマ政権下のガイトナー財務長官(1月26日)に比べて遅いとは言えない。

上院では2日9日からトランプ大統領の弾劾裁判が予定されており、弾劾裁判中は承認手続きが停止されるため人事承認への影響が懸念される。バイデン政権は弾劾裁判開始前の承認を目指すとみられるが、仮に弾劾裁判前に承認が得られない場合には、承認時期は大幅に遅れよう。
(優先的な政策課題):大統領令を活用して、トランプ政権下からの政策を巻き戻し
バイデン政権は当面の優先政策課題として、「新型コロナ対策」、「気候変動」、「人種平等」、「経済」、「医療保険制度」、「移民」、「米国の世界的な地位回復」を掲げている2。これらの政策にはトランプ政権時代に大統領権限で実施された政策からの転換が多数含まれており、バイデン大統領は就任初日から多くの大統領令に署名を行い、前政権からの政策転換を勢力的に推進している。

実際に、バイデン大統領は就任初日にトランプ大統領が決定した世界保健機関(WHO)からの脱退を撤回したほか、パリ協定の復帰や、イスラム諸国を対象にした入国制限の緩和、国境の壁建設の中止など、17本の大統領令に署名してトランプ政権下で実施された政策からの巻き戻しを行った(図表4)。
(図表4)バイデン大統領による命令措置
また、就任翌日には後述する新型コロナの国家戦略発表と合わせて、新型コロナ対策として11本の大統領令に署名し、トランプ政権が消極的な対応に終始していた新型コロナ対策を積極的に推進する姿勢を明確に示した。

さらに、就任3日目にも経済分野で連邦政府職員の最低時給をトランプ政権時代の7.25ドルから15ドルへの引き上げを検討するように指示するなど、大統領権限で実現できる政策について矢継早に前政権時代の政策から軌道修正を行った。
(新型コロナ対策):ワクチン接種や感染抑制など7項目の政策目標からなる国家戦略を策定
新型コロナ感染者数、死亡者数の増加に歯止めがかからない中、バイデン政権の最優先課題は新型コロナ対策である。バイデン大統領は1月21日におよそ200ページからなる「新型コロナ対応とパンデミック対策のための国家戦略」3を発表し、政権発足から100日で1億回分のワクチン接種の実現を目指している。

国家戦略には、ワクチン接種の推進、マスク着用や検査拡大などによる感染抑制、学校再開など7項目からなる政策目標を掲げ、目標を達成するための政策が示されている(図表5)。このうち、提示された多くの政策方針は前述の大統領令に盛り込まれた。
(図表5)新型コロナ国家戦略(政策目標と政策概要)
(追加経済対策):1.9兆ドル規模の経済対策を議会に要求
新型コロナ対策と併せ、新型コロナで落ち込んだ経済の立て直しや新型コロナ対策の費用を盛り込んだ追加経済対策の実現もバイデン政権の最優先課題だ。バイデン大統領が「米国救済計画」として1月14日に発表した1.9兆ドル規模の追加経済対策案4には、家計向けの直接給付(1人当たり1,400ドル)や州・地方政府に対する財政支援、失業保険の拡充、12月末で期限切れとなった有給病気休暇の義務付けを9月末まで延長する案などが盛り込まれた(図表6)。
(図表6)「米国救済計画」の概要
また、新型コロナ対策にも関連するワクチン接種プログラムや検査費用、学校再開に対する支援などが盛り込まれており、新型コロナ対策を成功させるためにも追加経済対策案を成立させる必要がある。

追加経済対策案に関して、新型コロナ対策費用などについては野党共和党からも理解が得られやすいものの、共和党の反対が根強い州・地方政府に対する支援が含まれているほか、年末に9,000億ドル規模の追加経済対策を成立させた直後ということもあって、既に複数の共和党上院議員から大規模な追加対策に対する否定的な見解が示されている。このため、バイデン大統領の要求通りに追加経済対策で与野党合意が出来る可能性は低く、経済規模の縮小など軌道修正は不可避とみられる。

一方、バイデン大統領が選挙公約に掲げていた「より良い復興」をスローガンとする米製造業への投資や環境・インフラ投資などの経済政策5については、経済対策第2段として2月に「より良く復興するための回復計画」が発表されることになった。
 
4 https://buildbackbetter.gov/wp-content/uploads/2021/01/COVID_Relief-Package-Fact-Sheet.pdf
5 経済対策案の詳細は、基礎研レター(2020年7月31日)「バイデン大統領は誕生するか(1)経済政策-バイデン元副大統領が経済政策を発表。“Build Back Better“「より良い復興」をスローガンに、トランプ大統領に挑む」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65067?site=nliを参照下さい
 

3.今後の課題と注目材料

3.今後の課題と注目材料

バイデン政権は安定政権として政権運営をスタートさせた。もっとも、上院では民主党と共和党の議席数が50議席ずつと拮抗しているほか、議事妨害を回避するための60議席を下回っているため、政策実現のためには野党共和党の意向を一定程度反映することが必要となる。さらに、民主党内でもエネルギー産業を選挙基盤とする、ジョー・マンチン上院議員(ウエストバージニア選出)、キルステン・シネマ上院議員(アリゾナ州選出)などは環境規制の強化に反対しているほか、中道的な政策に対しては民主党内の左派議員からの反対も予想されるため、バイデン大統領が目指す政策に対して民主党内は一枚岩ではない。

このため、政権運営では野党共和党のみでなく、与党民主党内の保守や左派にも配慮する必要があろう。議会での調整手腕が評価されてきたバイデン大統領の真価が問われる。
(図表7)当面の注目スケジュール 一方、当面の注目スケジュールでは内政面では2月に行われる予定の上下員合同会議での施政方針演説と予算教書、前述の経済対策第2段の発表が注目される(図表7)。

バイデン政権が提示する政策に対して野党共和党がどのような反応を示すのか今後の政権運営を占う上でも注目される。

また、外政面では4月22日に開催方針が示された気候変動サミットや6月中旬のG7首脳会議、10月下旬のG20首脳会議が注目される。トランプ大統領が進めてきた米国単独主義的な「米国第一」の外交、通商政策からバイデン大統領が目指す国際協調路線へどのような軌道修正がされるか注目される。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2021年01月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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