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- 新型コロナによる都道府県別の個人消費減少額を試算-緊急事態宣言の再発令でさらなる落ち込みは不可避
2021年01月15日
●新型コロナによる都道府県別の個人消費減少額を試算
(1都2府8県に緊急事態宣言が再発令)
政府は1月7日に、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象に緊急事態宣言を発令した後、1月13日には対象地域に7府県(大阪府、京都府、兵庫県、愛知県、岐阜県、福岡県、栃木県)を追加した。日本経済は、2020年5月の緊急事態宣言解除後、重い足取りながら持ち直しの動きを続けてきたが、緊急事態宣言の再発令によってこの流れがいったん途切れることは確実となった。
政府は1月7日に、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象に緊急事態宣言を発令した後、1月13日には対象地域に7府県(大阪府、京都府、兵庫県、愛知県、岐阜県、福岡県、栃木県)を追加した。日本経済は、2020年5月の緊急事態宣言解除後、重い足取りながら持ち直しの動きを続けてきたが、緊急事態宣言の再発令によってこの流れがいったん途切れることは確実となった。
(新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人消費の減少額)
現時点では、緊急事態宣言の対象地域は限定されており、対象地域とそれ以外では消費動向に差が出てくることが考えられる。前回の緊急事態宣言時においても、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県では、4/7~5/25の全期間で緊急事態宣言が発令されていたのに対し、38県では期間が4/16~5/20と2週間程度短かった。
ここでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛や前回の緊急事態宣言によって、都道府県別の個人消費がどれだけ落ち込んだかを確認した上で、緊急事態宣言の再発令によって個人消費がさらにどれだけ落ち込む可能性があるかを試算した。
地域別の消費動向を包括的に把握することができる統計は少ない。都道府県別の個人消費の全体像を捉えることができるのは内閣府の「県民経済計算」だが、同統計の計数は基本的に年ベースであり、最新値は2017年度となっている。一方、内閣府は2012年4月から「地域別消費総合指数」を試算しており、都道府県別の消費指数(原数値、季節調整値)が月次ベースで提供されている。
そこで、「県民経済計算」と「地域別消費総合指数」を用いることにより、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、都道府県別の個人消費がどれだけ落ち込んだかを試算した。
試算の具体的な手順は以下のとおりである。
(1) 県民経済計算における全県計の2017年度の個人消費(持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出、以下同じ)に対する国民経済計算における2019年の個人消費の比率を用いて、都道府県別の個人消費の2019年の値を求める。
(2) 2020年2月以降の都道府県別消費指数(季節調整値)と2020年1月との乖離率を新型コロナウイルス感染拡大による個人消費の減少率とし、これに2019年の都道府県別個人消費を掛け合わせ、12で割ることにより月次ベースの個人消費の減少額を求める。
(3) 緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月については、2020年3月からの減少率を緊急事態宣言による影響として取り出す。
(4) 「地域別消費総合指数」の最新値は2020年9月なので、10~12月については当研究所が作成している全国ベースの月次GDP(月次民間消費)を基に全都道府県の指数を先延ばしする。
このようにして求めた2020年2月から12月までの都道府県別個人消費の減少額は図表1のとおりである。全国の個人消費減少額は▲19.3兆円、年間の個人消費に対する割合は▲7.9%となった。このうち、2020年4、5月が▲6.5兆円と全体の約3分の1を占めており、このうち▲3.6兆円が緊急事態宣言の影響によるものと考えられる。
都道府県別では、個人消費の減少額が最も大きいのは東京都の▲4.1兆円となった。東京都はもともと個人消費の規模が大きい(全国に占める割合は14%)ため、減少額が大きくなることは当然だが、年間の個人消費額に対する割合でみても▲11.7%と全国で最も高くなっている。
現時点では、緊急事態宣言の対象地域は限定されており、対象地域とそれ以外では消費動向に差が出てくることが考えられる。前回の緊急事態宣言時においても、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県では、4/7~5/25の全期間で緊急事態宣言が発令されていたのに対し、38県では期間が4/16~5/20と2週間程度短かった。
ここでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛や前回の緊急事態宣言によって、都道府県別の個人消費がどれだけ落ち込んだかを確認した上で、緊急事態宣言の再発令によって個人消費がさらにどれだけ落ち込む可能性があるかを試算した。
地域別の消費動向を包括的に把握することができる統計は少ない。都道府県別の個人消費の全体像を捉えることができるのは内閣府の「県民経済計算」だが、同統計の計数は基本的に年ベースであり、最新値は2017年度となっている。一方、内閣府は2012年4月から「地域別消費総合指数」を試算しており、都道府県別の消費指数(原数値、季節調整値)が月次ベースで提供されている。
そこで、「県民経済計算」と「地域別消費総合指数」を用いることにより、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、都道府県別の個人消費がどれだけ落ち込んだかを試算した。
試算の具体的な手順は以下のとおりである。
(1) 県民経済計算における全県計の2017年度の個人消費(持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出、以下同じ)に対する国民経済計算における2019年の個人消費の比率を用いて、都道府県別の個人消費の2019年の値を求める。
(2) 2020年2月以降の都道府県別消費指数(季節調整値)と2020年1月との乖離率を新型コロナウイルス感染拡大による個人消費の減少率とし、これに2019年の都道府県別個人消費を掛け合わせ、12で割ることにより月次ベースの個人消費の減少額を求める。
(3) 緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月については、2020年3月からの減少率を緊急事態宣言による影響として取り出す。
(4) 「地域別消費総合指数」の最新値は2020年9月なので、10~12月については当研究所が作成している全国ベースの月次GDP(月次民間消費)を基に全都道府県の指数を先延ばしする。
このようにして求めた2020年2月から12月までの都道府県別個人消費の減少額は図表1のとおりである。全国の個人消費減少額は▲19.3兆円、年間の個人消費に対する割合は▲7.9%となった。このうち、2020年4、5月が▲6.5兆円と全体の約3分の1を占めており、このうち▲3.6兆円が緊急事態宣言の影響によるものと考えられる。
都道府県別では、個人消費の減少額が最も大きいのは東京都の▲4.1兆円となった。東京都はもともと個人消費の規模が大きい(全国に占める割合は14%)ため、減少額が大きくなることは当然だが、年間の個人消費額に対する割合でみても▲11.7%と全国で最も高くなっている。
(緊急事態宣言再発令の影響試算)
次に、緊急事態宣言再発令を受けた個人消費の追加的な減少額を試算する。前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊行施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。また、緊急事態宣言の対象地域も現時点では11都府県に限られている(全国の個人消費に占める割合は59%)。さらに、緊急事態宣言が再発令される前の時点で、消費はすでに平常時よりも抑制された状態にある。これらのことを踏まえれば、個人消費への悪影響は前回の緊急事態宣言時よりも小さくなる可能性が高い。しかし、それはあくまでも緊急事態宣言の内容がこのまま変わらないとした場合である。
次に、緊急事態宣言再発令を受けた個人消費の追加的な減少額を試算する。前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊行施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。また、緊急事態宣言の対象地域も現時点では11都府県に限られている(全国の個人消費に占める割合は59%)。さらに、緊急事態宣言が再発令される前の時点で、消費はすでに平常時よりも抑制された状態にある。これらのことを踏まえれば、個人消費への悪影響は前回の緊急事態宣言時よりも小さくなる可能性が高い。しかし、それはあくまでも緊急事態宣言の内容がこのまま変わらないとした場合である。

実際、前回の緊急事態宣言でも、当初は7都府県に限定されていた対象地域がその後全国に拡大され、期間も延長を余儀なくされた。もともと冬は風邪が流行する季節で、インフルエンザは1月下旬から2月にかけて患者数のピークを迎えるのが一般的である。緊急事態宣言による自粛が感染拡大抑制にどこまで効果があるかは不透明だ。1ヵ月とされている緊急事態宣言の期間が延長される可能性はそれほど低いとはいえない。
そこで、緊急事態宣言再発令による個人消費への影響を試算する上では、緊急事態宣言の対象地域は1都2府8県、期間は2/7までの約1ヵ月を基本とした上で、対象地域が全国に拡大した場合、期間が1ヵ月から2ヵ月に拡大した場合をあわせて試算した。
試算の想定は以下のとおりである。
まず、ベースラインとして緊急事態宣言が再発令されなかった場合、2021年1月から3月までの個人消費は横ばい(前月比ゼロ%)と仮定する。緊急事態宣言の対象地域については、2021年1月の個人消費が前回の緊急事態宣言時の各都道府県の3月から4月にかけての落ち込みの3分の1減少する。緊急事態宣言が1ヵ月で解除された場合、2月の個人消費は1月の落ち込みの1/3を取り戻す(3月は2月から横ばい)。緊急事態宣言の対象外の地域でも、自粛の動きが一定程度強まることを想定し、個人消費は2021年1月、2月が前月比▲0.3%、3月は同0.0%とした。
緊急事態宣言の期間が2ヵ月に延長された場合は、2021年1月の落ち込みは上記と同じ、2月は1月の落ち込みの1/2減少する。3月は2020年12月から2021年2月にかけての落ち込みの1/3を取り戻す。
このようにして求めた2021年1-3月期の個人消費の水準とベースラインの個人消費の水準の差を、緊急事態宣言再発令による追加的な個人消費の減少額とした。
まず、対象地域、期間が変更されない場合、全国の個人消費の減少額は▲1.1兆円となり、前回の緊急事態宣言(▲3.6兆円)の約3割となることが試算される(図表5)。都道府県別にみると、東京都の減少額が▲3,280億円と最も大きくなることは前回の緊急事態宣言時と同じだが、年間の個人消費に対する割合でみると、▲4.0%と福岡県が最も高くなる(東京都は▲3.7%)。福岡県は前回の緊急事態宣言時の2020年4、5月の個人消費の落ち込みが非常に大きかったことが影響している。
試算の想定は以下のとおりである。
まず、ベースラインとして緊急事態宣言が再発令されなかった場合、2021年1月から3月までの個人消費は横ばい(前月比ゼロ%)と仮定する。緊急事態宣言の対象地域については、2021年1月の個人消費が前回の緊急事態宣言時の各都道府県の3月から4月にかけての落ち込みの3分の1減少する。緊急事態宣言が1ヵ月で解除された場合、2月の個人消費は1月の落ち込みの1/3を取り戻す(3月は2月から横ばい)。緊急事態宣言の対象外の地域でも、自粛の動きが一定程度強まることを想定し、個人消費は2021年1月、2月が前月比▲0.3%、3月は同0.0%とした。
緊急事態宣言の期間が2ヵ月に延長された場合は、2021年1月の落ち込みは上記と同じ、2月は1月の落ち込みの1/2減少する。3月は2020年12月から2021年2月にかけての落ち込みの1/3を取り戻す。
このようにして求めた2021年1-3月期の個人消費の水準とベースラインの個人消費の水準の差を、緊急事態宣言再発令による追加的な個人消費の減少額とした。
まず、対象地域、期間が変更されない場合、全国の個人消費の減少額は▲1.1兆円となり、前回の緊急事態宣言(▲3.6兆円)の約3割となることが試算される(図表5)。都道府県別にみると、東京都の減少額が▲3,280億円と最も大きくなることは前回の緊急事態宣言時と同じだが、年間の個人消費に対する割合でみると、▲4.0%と福岡県が最も高くなる(東京都は▲3.7%)。福岡県は前回の緊急事態宣言時の2020年4、5月の個人消費の落ち込みが非常に大きかったことが影響している。

対象地域の拡大、緊急事態宣言の期間延長ともに個人消費の減少額を拡大させることは言うまでもないが、期間延長のほうが個人消費への悪影響がより大きくなることが読み取れる。
2021年1-3月期の実質GDP成長率への影響は、現在の緊急事態宣言を前提とした場合、前期比▲0.8%、対象地域が全国に拡大、期間が2ヵ月に延長された場合には同▲1.4%となる。
現時点では、前回の緊急事態宣言と比べれば経済への悪影響は小さくなると考えている。ただし、経済活動の制限自体が前回の緊急事態宣言時より限定的だとしても、経済の耐久力が当時よりも大きく低下していることには注意が必要だ。たとえば、法人企業統計の経常利益はコロナ前の水準を2割以上下回っており、特に新型コロナの影響を強く受けた宿泊業、飲食サービス業は2020年1-3月期から3四半期連続で赤字となっている。緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増え、失業者数が急増するリスクは前回の緊急事態宣言時よりも高くなっている。
また、ここでは個人消費に限定して緊急事態宣言再発令の影響を試算したが、経済活動の制限は住宅投資、設備投資など他の需要項目にも悪影響を及ぼす。2021年1-3月期が大幅なマイナス成長となることは不可避と考えられるが、実質GDPの落ち込み幅は現在の緊急事態宣言の内容を前提としたした個人消費の減少以上に大きくなる可能性が高いだろう。
また、ここでは個人消費に限定して緊急事態宣言再発令の影響を試算したが、経済活動の制限は住宅投資、設備投資など他の需要項目にも悪影響を及ぼす。2021年1-3月期が大幅なマイナス成長となることは不可避と考えられるが、実質GDPの落ち込み幅は現在の緊急事態宣言の内容を前提としたした個人消費の減少以上に大きくなる可能性が高いだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年01月15日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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