2020年12月01日

法人企業統計20年7-9月期-企業収益は持ち直すが、設備投資は調整が継続

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 6四半期連続の減益も、減益幅は縮小

経常利益の推移 財務省が12月1日に公表した法人企業統計によると、20年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲28.4%と6四半期連続で減少したが、減少幅は4-6月期の同▲46.6%から縮小した。製造業は前年比▲27.1%(4-6月期:同▲48.7%)と9四半期連続、非製造業は前年比▲29.1%(4-6月期:同▲45.5%)と3四半期連続で減少したが、いずれも前期から減益幅が縮小した。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、内外の経済活動再開を受けて、売上高が前年比▲13.2%(4-6月期:同▲20.0%)と減少幅が縮小したが、売上高経常利益率が19年7-9月期の5.7%から4.8%へと悪化したことが収益の押し下げ要因となった。

非製造業は、緊急事態宣言の解除を受けて売上高が前年比▲10.8%(4-6月期:同▲16.8%)と若干持ち直したが、売上高経常利益率が19年7-9月期の4.7%から3.7%へと悪化した。製造業、非製造業ともに人件費要因が利益率を大きく押し下げた。人件費は減少(製造業:前年比▲6.7%、非製造業:同▲4.3%)したものの、売上高の減少幅がそれを上回ったことから、売上高人件費率が大きく上昇した。

2.経常利益(季節調整値)の増加幅はコロナ禍の落ち込みの半分弱

経常利益の内訳を業種別に見ると、ほとんどの業種が減益となったが、新型コロナウイルスの影響を強く受けた宿泊業(▲1,163億円)、飲食サービス業(▲1,095億円)は1-3月期から3四半期連続で赤字となった。

季節調整済の経常利益は前期比33.7%(4-6月期:同▲30.2%)と6四半期ぶりに増加したが、新型コロナウイルスの影響が顕在化した20年1-3月期、4-6月期の落ち込みの半分弱を取り戻すにとどまった。製造業が前期比43.6%(4-6月期:同▲34.3%)、非製造業は前期比29.5%(4-6月期:同▲28.2%)となった。
経常利益(季節調整値)の推移 7-9月期の企業収益は前期比では高い伸びとなったが、経済活動が依然として極めて低い水準にあることから、経常利益(季節調整値)は14.5兆円とピーク時(18年4-6月期の24.5兆円)の6割弱の水準にとどまっている。7-9月期は緊急事態宣言の解除を受けた経済活動の再開によってはっきりと持ち直したが、新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けたGo To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請などの影響もあり、10-12月期は持ち直しのペースが鈍化する可能性が高い。

3.設備投資は減少が継続

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲10.6%(4-6月期:同▲11.3%)と2四半期連続で減少した。製造業(4-6月期:前年比▲9.7%→7-9月期:同▲10.3%)は4四半期連続の減少、非製造業(4-6月期:前年比▲12.1%→7-9月期:同▲10.8%)は2四半期連続の減少となった。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比▲1.2%(4-6月期:同▲7.1%)と2四半期連続で減少した。製造業が前期比▲1.1%(4-6月期:同▲5.4%)、非製造業が前期比▲1.3%(4-6月期:同▲8.0%)といずれも2四半期連続で減少した。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 景気はすでに底打ちしており、テレワークや遠隔サービス関連など一部の投資は拡大しているものの、全体としては、企業収益の悪化、感染症や景気の先行き不透明感の高まりを背景に投資計画を先送り、中止する動きが強まっている。設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提が崩れたこと、需要の急激な落ち込みを経験したことで企業の投資抑制姿勢が一段と強まることから、設備投資は底打ち時期が遅れることに加え、底打ち後の回復ペースも緩やかにとどまる可能性が高い。

4.7-9月期・GDP2次速報は1次速報と変わらず

本日の法人企業統計の結果等を受けて、12/8公表予定の20年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比5.0%(前期比年率21.4%)になると予測する。1次速報の前期比5.0%(前期比年率21.4%)と変わらないだろう。
2020年7-9月期GDP2次速報の予測 設備投資は1次速報の前期比▲3.4%から変わらないだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比▲11.6%(4-6月期:同▲10.4%)と4四半期連続で減少した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ前年比▲10%程度の減少となった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比7.0%(4-6月期:同15.9%)と4四半期連続で増加した。1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比▲9.7%となっており、本日の法人企業統計の結果はそれにほぼ一致する。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度▲0.2%から変わらないだろう。

なお、12/8公表予定の20年7-9月期2次速報では、約5年に1度の基準改定(2011年基準→2015年基準)の結果を反映した上で、19年度の速報値が年次推計値に改定される。今回の基準改定では、2015年の「産業連関表」、「国勢調査」等の結果を反映させるとともに、国際基準への対応や経済活動の適切な把握に向けた推計方法の改善が行われる。

具体的には、・改装・改修(リフォーム・リニューアル)の総固定資本形成への計上、・分譲住宅販売マージン等の反映、・娯楽作品原本の資本化、・著作権等サービスの計上、などが実施される。内閣府では、2015年基準改定により2015年の名目GDPの水準が6.7兆円(改定前GDP比で1.3%)押し上げられるとの試算を公表しているが、GDP成長率(名目、実質)への影響は不明である。今回の2次速報では、GDPの水準が過去に遡って変わることに加え、年度、四半期毎の成長率も大幅に修正される可能性がある。しかし、現時点では基準改定後の過去の計数が公表されていないため、今回の7-9月期GDP2次速報の予測はかなり幅をもってみる必要がある。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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