2020年12月25日

雇用関連統計20年11月-厳しい中にも明るい兆し

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.失業率が5ヵ月ぶりに低下

完全失業率と就業者の推移 総務省が12月25日に公表した労働力調査によると、20年11月の完全失業率は前月から0.2ポイント低下の2.9%(QUICK集計・事前予想:3.1%、当社予想も3.1%)となった。労働力人口が前月から27万人増加する中、就業者数が43万人の増加となったため、失業者数は前月から▲16万人減の198万人(いずれも季節調整値)となった。

緊急事態宣言が発令された4月に非労働力化した人が労働市場に戻る動きが続く中で、11月は就業者数が大幅に増加したことによって失業者が減少した。内容的にも良い失業率の低下といえるが、労働力調査は単月の振れが大きい統計であるため、今月の動きだけで雇用情勢が改善に向かい始めたと考えるのは尚早だろう。
産業別・就業者数の推移 就業者数は前年差▲55万人の減少(10月は同▲93万人)となった。産業別には、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている宿泊・飲食サービスが前年差▲29万人減(10月:同▲43万人減)と引き続き大幅な減少となったほか、製造業は生産活動の持ち直しが続いているにもかかわらず、前年差▲19万人減(10月:同5万人増)と2ヵ月ぶりに減少した。一方、医療・福祉は前年差26万人増と4ヵ月連続で増加し、10月の同13万人増から増加幅が拡大した。
雇用形態別雇用者数 雇用者数(役員を除く)は前年に比べ▲41万人減と8ヵ月連続で減少したが、10月の同▲76万人から減少幅が縮小した。雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員数は前年差▲62万人減(10月:同▲85万人減)と9ヵ月連続で減少したが、7月の同▲131万人減をピークにそのペースは徐々に緩やかとなっている。一方、正規の職員・従業員数が前年差21万人増(10月:同9万人増)と増加幅が拡大したが、均してみれば増加ペースが鈍化している。非正規が中心となっていた雇用調整が今後正規に広がる可能性がある。

2.休業者数は平常時の水準まで減少

休業者から失業者への移行は限定的 緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった休業者数は、11月には176万人(前年差15万人増)となり、ほぼ平常時(19年平均は176万人)の水準まで減少した。この間、前月の休業者が当月にどの就業状態に移行したかを確認すると、休業者にとどまる者の割合が55.5%、従業者への移行が33.4%、失業者への移行が2.4%、非労働力人口への移行が8.6%(いずれも2020年5~11月の平均)となっている。休業状態から失業する人の割合は低く、現時点では、雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしていると評価できる。
新卒採用計画の推移 ただし、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。実際、日銀短観20年12月調査では、11年度から増加が続いていた新卒採用計画が20年度に前年比▲2.6%と10年ぶりの減少となった後、21年度は同▲6.1%と減少幅が拡大した。

景気はすでに底打ちしているものの、もともと失業率は景気の遅行指標であるうえ、雇用調整助成金の拡充を背景とした企業内の雇用保蔵が将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善を遅らせる可能性がある。失業率は当面上昇傾向が続き、最悪期を脱した後も、改善ペースは緩やかなものにとどまることが予想される。

3.有効求人倍率は2ヵ月連続で上昇

厚生労働省が12月25日に公表した一般職業紹介状況によると、20年11月の有効求人倍率は前月から0.02ポイント上昇の1.06倍(QUICK集計・事前予想:1.04倍、当社予想も1.04倍)となった。失業者の増加傾向を受けて有効求職者数が前月比1.5%(10月:同1.1%)と7ヵ月連続で増加したが、有効求人数が前月比3.0%(10月:同2.2%)とそれを上回る伸びとなった。
有効求人倍率の推移 有効求人倍率の先行指標である新規求人倍率は前月から0.20ポイント上昇の2.02倍となった。新規求職申込件数が前月比▲1.4%(10月:同4.4%)の減少となる一方、新規求人数が前月比9.2%(10月:同▲5.8%)の増加となった。新規求人倍率は大きく改善したが、このところ大幅な上昇、低下を繰り返しており(8月:1.82倍→9月:2.02倍→10月:1.82倍→11月2.02倍)、基調を見極めるためには来月以降の動きを確認する必要があるだろう。

20年11月は失業率、有効求人倍率ともに改善し、厳しい中にも明るい兆しが見られた。ただし、経済活動の水準は引き続きコロナ前を大きく下回っており、先行きについては新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けた「Go To トラベル事業」の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請の影響などから、再び落ち込む可能性が高くなっている。雇用情勢が明確に改善し始めるのはしばらく先となりそうだ。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年12月25日「経済・金融フラッシュ」)

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