コラム
2020年12月07日

株高で大きく売られた国内株式ファンド~2020年11月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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ファンド全体で資金流出に転じる

2020年11月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、外国株式には引き続き大規模な資金流入がある一方で、それ以上の資金流出が国内株式からあった【図表1】。その他にも外国債券、バランス型、外国REIT(と その他)からも資金流出があり、ファンド全体でみると11月は4,400億円の資金流出になった。ファンド全体で資金流出に転じたの は今年6月以来、5カ月ぶりである。
【図表1】 2020年11月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入
11月は内外問わず世界的に株価が大きく上昇したが、外国株式には11月も2,600億円と10月の2,900億円と比べるとやや鈍化したものの、引き続き2,000億円以上の資金流入があった。一部では利益確定の売却も出た外国株式ファンドもあった様子であるが、以前から人気の外国株式ファンド(赤太字)を中心に販売は堅調であった【図表2】。また、中国株式ファンドにも11月は200億円強の資金流入があり、10月の60億円から増加した。
【図表2】 2020年11月の推計純流入ランキング

国内株式は中旬以降、様子見の投資家も

外国株式の販売が堅調な一方で、国内株式は11月に4,600億円の資金流出と10月の1,000億円の資金流出から急拡大し、2017年以降で最大の資金流出となった。国内株式では、(SMA、DC専用でない)一般販売されているインデックス・ファンドから1,900億円の資金流出、アクティブ・ファンドから1,700億円の資金流出と、11月は両タイプとも大きく売却が膨らんだ。さらに、SMA、DC専用ファンドからも1,000億円の資金流出があった。
 
国内株式の資金動向を日次で詳しくみると、11月は特に上旬に資金流出が膨らんでいたことが分かる【図表3】。1日あたりの流出金額はインデックス・ファンド(黄棒)で9日の310億円、アクティブ・ファンド(青棒)で11日の220億円が最大であった。中旬以降もインデックス・ファンド、アクティブ・ファンドともに資金流出が続いたものの、流出金額は鈍化基調であった。日経平均株価が2万6,000円にのった翌営業日の25日でもインデックス・ファンド、アクティブ・ファンドともに流出金額は最大となった9日、11日の半分以下であった。さらに、インデックス・ファンドでは日経平均株価が2万5,500円まで下落した翌営業日の24日には、金額は小さいが資金流入に転じていた。
 
ちなみにアクティブ・ファンドでも26日に資金流入に転じているが、これは新設ファンド(【図表2】青太字)の影響であり、既設ファンドに限ると資金流出が続いていた。

確認してきた国内株式の日次の資金動向からは、日経平均株価で2万4,000円から2万5,000円あたりを上値として意識していた投資家が多かったことがうかがえる。ただ、その一方で中旬以降は新型コロナウイルスのワクチンの実用化に伴う経済活動の早期正常化期待が膨らんだこともあり、株価は上昇し続けたため、売却を控える投資家が増えたようである。特にインデックス・ファンドには、ワクチンに対する期待感からなのか少しでも下がったら投資しようとタイミングをうかがっている投資家もいたようである。
【図表3】 国内株式ファンドの推計資金流出入

バランス型に加えラップ口座からも資金流出?

11月は国内株式だけでなく、外国債券も1,500億円の資金流出と10月の900億円の資金流出から拡大した。地域分散された先進国債券ファンド(為替ヘッジしているものを含む)から11月は700億円の資金流出があり、10月の60億円の資金流出から大幅に増加した。やや気が早いかもしれないが、ワクチンの普及による経済活動の正常化後の金融政策の変更やそれに伴う金利上昇を見越して、債券の売却に動いた投資家もいたため、11月は資金流出が膨らんだのかもしれない。
 
また、バランス型(緑棒)も11月は850億円の資金流出に転じた【図表4】。一部のバランス型ファンド(【図表2】緑太字)には引き続き資金流入があったが、バランス型全体でみると資金流出に転じた。また、11月はラップ口座からも資金流出が大きかった模様である。ラップ口座で用いられているSMA専用ファンド(橙棒)の資金動向をみると、11月は600億円の資金流出があった【図表4】。SMA専用ファンドからは5月以降、資金流出が続いているが、特に11月は大きかった。
 
11月はバランス型ファンドやラップ口座のパフォーマンスも概ね好調であったため、国内株式と同様にバランス型ファンドやラップ口座でも利益確定の売却が膨らんだと思われる。バランス型ファンドやラップ口座を保有している投資家の中には、3月の急落時から戻り待ちをしている投資家が多いことが背景にあるかもしれない。
【図表4】 バランス型ファンドとSMA専用ファンドの資金流出入の推移
なお、全体でみると資金流出していたSMA専用ファンドであるが、SMA専用ファンド内でもある程度まとまった資金移動があった【図表5】。国内株式、外国債券のSMA専用ファンドから800億円、400億円の資金流出がある一方で、外国株式と国内債券のSMA専用ファンドには500億円、140億円の資金流入があった。一部のラップ口座で国内株式と外国債券のウェイトを下げ、その一方で外国株式と国内債券のウェイトを上げた様子である。11月はSMA専用ファンドを除外しても【図表1】の資産クラスごとの資金流出入の傾向は変わらないが、SMA専用ファンド(つまり、ラップ口座のリバランス)によって資産クラスごとで動いた金額が多少は大きくなっていた面があるだろう。
【図表5】 2020年11月のSMA専用ファンドの推計資金流出入

これまで厳しいパフォーマンスだった株式ファンドの一部が大きく上昇

11月は内外問わず世界的に株式が大きく上昇する中で、株式ファンドの中には11月の収益率が25%を超えるファンドもあった【図表6】。ただ、それらのファンドのほとんどが11月に大きく上昇したにも関わらず(11月を含む)過去1年の収益率がいまだにマイナスであり、中にはマイナス幅が20%を超えているファンドもあった。10月まで厳しかった株式ファンドの一部が11月に特に大きく上昇したといえよう。
【図表6】 2020年11月の高パフォーマンス・ランキング
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2020年12月07日「研究員の眼」)

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