2020年11月27日

地域で高齢者のつながりをどう作るか?~柏市「生きがい就労事業」の事例~

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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Q1.リタイアした高齢者の中には地域で友人も知り合いもいない人が少なくありません。地域で高齢者のつながりを作るために何かよい事例はないですか?

■リタイア後の「仕事」の場が産み出す新たなつながり~柏市「生きがい就労事業」
人生100年を歩んでいく上で、人や社会とのつながりは重要です。しかし、高齢期は退職や友人らとの永遠の別れ(死別)などで、そのつながりを失う機会は少なくありません。失うだけで新たに築いていくことをしなければ、やがて孤立という現実を迎えてしまう可能性もあります。高齢期に新たなつながりを築く方法は、地域活動に参加する、趣味のサークルに加入する等、様々ありますが、今回ご紹介したいのは「仕事」を通じた新たなつながり方です。その一つの事例を紹介します。

それは、東京大学高齢社会総合研究機構と千葉県柏市、UR都市機構の3者が2009年から取組んだ「生きがい就労事業」というものです。これは柏市における「長寿社会のまちづくり」プロジェクトの一環として進められたものです(筆者もこのプロジェクトのメンバー)。きっかけは2008年当時、地域課題として深刻化していた「高齢者の孤立」の問題です。地域における人と人とのつながりが非常に希薄でした。千葉県柏市は東京都の北東部に近接する東京都のベッドタウンで、都内に働きに出かけ、自宅には寝に帰るだけの生活を送っていた方が少なくありませんでした1。その結果、リタイアした後、地域を見渡しても友人や知り合いは誰もおらず、「やることがない」「行くところがない」「会いたい人もいない」といった“ない・ないづくし”の生活となり、自宅に閉じこもりがちになってしまう高齢者が少なくなかったのです。そこでプロジェクトメンバーは、「どうすればそうした方々に自然と外に出てもらえるようになるか」を地域の高齢者に聞いて回りました。
高齢者が自然に外に出てもらえるようにするには?
ヒアリングを行う前は、「サロンや喫茶店を増やせばよいのではないか」、あるいは「図書館を新設してみてはどうか」といった考えもありましたが、多くの方が口にしたのは「自宅のそばで働ける場所(仕事)があれば自然と外出する」という意見でした。ただ、現役当時と同じように月~金曜日のフルタイムの仕事ではなく、“無理なくマイペースに働けること(週2-3日、短時間)”が強い希望でした。やはり、「朝起きて仕事に向かう」ライフスタイルは現役時代から最も慣れ親しんだものであり、その習慣が望まれたということです。そこでプロジェクトメンバーは、まちづくり事業としての目的を踏まえながら、「無理なく楽しく働ける」、さらに「地域の課題解決にも貢献できる」ような仕事(=「生きがい就労」と称する)の開拓を目指しました。具体的には、人手不足が顕著な「農業」や「保育」、「生活支援」や「福祉サービス」などの分野で、生きがい就労の場を拡げました。
「生きがい就労」のコンセプト
この結果、「生きがい就労」という新たな仕事の場を通じて、地域に誰も知り合いがいなかった高齢者同士が必然的につながりあい、仕事が終われば近くの蕎麦屋で一杯飲んで帰る、仕事以外の日でも一緒にカラオケを楽しむなど、日常的な交流も盛んになっていきました。生きがい就労に勤しむ高齢者には、「仕事を再び始めてから健康になった」、「毎日にハリが戻った、リズムがよくなった」など、健康面や生活面でのプラスの効果も見られました。

この事例は、地域(自治体)が、孤立化する高齢者の「人と人」、「人と地域」の“つながりの再生”を目指した話です。この生きがい就労事業はその後、事業名は変わっていきましたが、現在も継続的に取り組まれています。「就労に再び勤しむこと」は高齢期の新たなつながりを築く一つの方法です。全国の各地域でそうした場が拡がっていくことが望まれます。
 
1 筆者が柏市住民へのヒアリングを行った結果からの印象。

※ その他ジェロントロジー関連のレポートはこちらからご確認下さい。
https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

(2020年11月27日「ジェロントロジーレポート」)

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