2020年11月16日

第3次タピオカブームを振り返る

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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1――タピオカブームの歴史

テーマパーク「東京タピオカランド」が東京・原宿駅前に期間限定でオープンし、「タピる」「タピ活」などの流行語が生まれるなど、2019年は当にタピオカイヤーだった。昨今のブームは2018年以降に始まったとされ、第3次タピオカブームと呼ばれている。タピオカが初めてブームになったのは1992年頃で、エスニックブームの煽りを受け、ココナッツミルクとともにブームとなった。第2次ブームには諸説あり、2003年に誕生した日本生まれのタピオカ&クレープ専門店「パールレディ(Pearl Lady)」の台頭により2008年にかけて店舗を増やしていった時期ととらえる説や、2013年に台湾からタピオカミルクティー発祥の店とされる「春水堂(チュンスイタン)」が日本に上陸し、市場を拡大していった時期を指すこともある。そして2018年以降の第3次ブームであるが、これは台湾ブームが牽引している。LCCが就航したことで若者が気軽に台湾に行けるようになったこともあり、エイビーロードの「海外旅行調査2019」1によると台湾は渡航先ランキングで5年連続1位だったという。またタピオカブームが起こった前年のエクスペディア・ジャパンの「2017年度グルメ旅行に関する意識調査」2によると、グルメを目的として「行ったことある」海外旅行先として1位に台湾が選ばれるなど台湾フードブームが起こっていた。このような背景から、台湾のタピオカ店が数多く上陸したことが要因と言えるだろう。
表1 2019年に行った・行きたい渡航先ランキングTOP5(複数回答:N4,454)
また、消費したものをSNSに投稿するという一種の流れが若者の消費文化の一側面として定着しており、マカロンやパンケーキ同様にタピオカもインスタ映えの対象となった。併せて前述した通り、SNSの投稿から派生した「タピる」や「タピ活」といった新語が若者文化からマスメディアを通じて大衆文化へと変化していったことも人気拡大の要因であったと言えるだろう。  

2――コロナ禍のタピオカ

2――コロナ禍のタピオカ

しかし、夏場に比べて今がシーズンではないことや、新型コロナウィルスの影響もあるだろうが、大手チェーン店の行列が以前と比較して短くなったように感じるのは筆者だけだろうか。東京商工リサーチによると、2020年8月末のタピオカ専業及び関連事業を営む企業は、125社を数えた3。企業数は、2019年8月から65社増えている。特に、2019年9月から2020年3月の期間では52社が増加し、このうち半数近い24社は新規法人だったという。新規参入する事業者の本業は「パンケーキカフェ」、「肉バル」、「助成金コンサルティング」や「売電事業」など、飲食業から電力事業まで様々で、本業とは別にタピオカブームにあやかる副業的な店舗展開が特徴になっている。だが、コロナ禍の4月以降は13社の増加にとどまり、新設法人はわずか2社に激減した。
図1 タピオカ専業及び関連事業を営む企業数
また、貿易統計によると、2019年1-7月のタピオカとタピオカ代用物の輸入は約6,300トンで、2018年(1-12月)の約3,000トンを大幅に上回っていたという。しかし、2020年1-7月の輸入量は約3,900トンと大幅に減少している。新型コロナによる外出自粛、店舗休業などで萎縮する他の飲食店と同様、タピオカ関連企業も影響が大きく受けていることがわかるが、新型コロナだけが原因と言えるのだろうか。  

3――タピオカの今

3――タピオカの今

例えば、新型コロナによる問題発生以降、原宿駅近辺に一時は20店舗あったタピオカドリンクの店も半数の10店が閉店し、その足取りも戻っていないという。タピオカの市場は拡大することで、その流行の規模を大きくしていたが、タピオカの需要は行列ができたり、売切れたりすることで生まれる「希少性の価値」を生み出していた。しかし、いつでも手に入る、並ばなくても手に入るという状況が続くことは、タピオカの情緒的価値自体を陳腐化させ、目新しいものに食いつく若者は、少しずつ飽和したタピオカブームから離れていく。さらには、スーパーマーケットやファストフード店にも簡易的なタピオカドリンクが並び、誰もが気軽に並ばずとも購入できるようになり、タピオカが「映えなくなった」のである。従来、流行は知らぬ間に終わっているモノであったが、Instagramのように#(ハッシュタグ)で流行がシェアされる文化が定着した今、ハッシュタグの利用度合いで、流行り廃りが視覚化されるようになった。日々のタイムラインでタピオカを見る回数が減ることでタピオカの流行に陰りが見え始めると、若者は新しい流行を求める。

コロナ禍で外出自粛期間中にはInstagramで「#おうちカフェ」というハッシュタグとともに韓国で流行しているダルゴナコーヒーやいちご飴、トゥンカロンが投稿され、韓国フードブームが到来した。元々韓流アイドル人気が長く続いており、コスメやファッションのトレンドが韓国にあるということもあってか、特に若者の女性と韓国のトレンドは親和性が高い。このような背景もあり、コロナ以降の人出を去年の同時期と比較すると、原宿の40%減に対し新大久保は15%減と新型コロナの影響は小幅にとどまっているというデータもある。

一方で前述した「春水堂」や「Gong cha(ゴンチャ)」などは、過去のブームとは異なり、タピオカブランドが市場に定着し始めた。ゴンチャジャパンは2020年7月21日の成長戦略発表会で、数年以内に国内400店体制を目指すと発表した4。そのなかで店舗数の拡大については、韓国ではスターバックスが1000店、ゴンチャが660店ある一方で、日本ではスタバは1500店、ゴンチャがわずか55店舗であると韓国市場を引き合いに出して、コロナ禍の厳しい環境においても、着実に店舗数を伸ばすポテンシャルがあると説明している。筆者は、パンケーキ専門店が群雄割拠の時代から淘汰の時代になっていったように、タピオカも今まさに流行から定着のフェーズへと変化していると考えている。

(2020年11月16日「基礎研レター」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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