2020年11月10日

文字サイズ

1. 経済動向と住宅市場

未だ終息の見えないコロナ禍による経済活動停滞の影響は、幅広い分野に及んでおり、不動産市場でも顕在化している。

11/16に公表予定の2020年7-9月期の実質GDPは、前期比3.8%(前期比年率16.1%)と4四半期ぶりのプラス成長になったと推計される1。国内外の経済活動の再開を受けて、大幅なプラス成長となったが、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込みの4割強を取り戻したにすぎず、経済活動の正常化に向けた足取りは重い。

経済産業省によると、2020年9月の鉱工業生産指数は 前月比+4.0%と4ヵ月連続で上昇した。6~9月の4ヵ月累計で+16.4%の高い伸びとなり、2~5月の落ち込み(累計で▲21.1%)の6割強を取り戻したが、指数の水準自体はコロナ禍前の20年1月と比べると▲10%近く低い水準にとどまっている。10-12月期もプラスで2四半期連続プラスとなる可能性が高いが、急回復した7-9月期から伸びは大きく低下する見込みである2

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2020年度▲5.8%、2021年度3.6%を予想する(図表-2)3。ソーシャルディスタンスの確保が外食・旅行・娯楽などのサービス支出を抑制すること等から、経済活動が元の水準に戻るまでには時間を要する見通しである。
図表-1 鉱工業生産指数/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場は、コロナ禍による営業活動自粛が明けたものの、新規着工は回復が遅れている。2020年9月の新設住宅着工戸数は70,186戸(前年同月比▲9.9%)と15カ月連続で減少し、7-9月累計では209,531戸(前年同期比▲10.1%)となった(図表-3)。内訳をみると、「貸家」が25カ月連続で減少したほか、「持家」が14カ月連続、「分譲」が11ヶ月連続で減少した。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
一方、2020年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,477戸(前月同月比+5.0%)、7-9月累計では6,229戸(前年同期比+1.9%)となり、前年同期を上回った(図表-4)。9月の初月契約率は73.4%、販売在庫は6,449戸(前月比▲409戸)と好調だが、1戸当たり平均価格は5,812万円(前年同月比▲3.0%)、㎡単価は87.7万円(▲3.9%)と販売価格はやや下落した。販売戸数は、モデルルームの閉鎖などの影響で大幅に減少した4-6月期(▲55.5%)から回復したが、不動産経済研究所によれば、2020年の年間販売戸数は約2万戸と、2019年(3.1万戸)を大きく下回る見通しである。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2020年9月の首都圏の中古マンション成約件数は3,328件(前年同月比▲7.3%)、7-9月累計では9,537件(前年同期比+1.4%)となった。緊急事態宣言と営業自粛の影響で、大幅に減少した4-6月期の6,428件(前年同期比▲33.6%)から回復に転じている。(図表-5)。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2020年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前年比+2.3%となり11カ月連続で上昇した。景気悪化の影響は、今ところ住宅価格には及んでいない(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

これまで上昇基調にあった地価は、都心商業地を中心に下落に転じた。国土交通省の「地価LOOKレポート(2020年第2四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「1」(前回73)、横ばいが「61」(前回23)、下落が「38」(前回4)となり、上場地点が1地点(「中央1丁目」(仙台市))のみとなり、下落地点が大幅に増加した(図表-7)。同レポートでは、「新型コロナウイルス感染症の影響により、需要者の様子見など取引の停滞が広がるとともに、ホテルや店舗を中心に収益性低下への懸念から需要の減退が一部では見られる」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
一方、野村不動産アーバンネットによると、首都圏住宅地価格の変動率(10月1日時点)は前期比+0.3%となった(年間▲0.3%)。「値上がり」地点の割合は19.6% (前回1.8%)に増加し、「値下がり」地点の割合は0.6%(前回26.2%)に減少した。コロナ禍での在宅勤務等による新たな需要の高まりもあり、住宅地価格に大きな変動はみられない(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、東京都心5区の空室率(9月)は7カ月連続上昇の3.43%(前月比+0.36%)、平均募集賃料(月坪)は2カ月連続下落の22,733円(前月比▲0.4%)となった。他の主要都市でも、空室率は上昇基調にある(図表-9)。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」によると、2020年第3四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は38,048円(前期比▲2.1%)となった。賃料水準を見直す動きは限られるが、一部では新規募集物件だけでなく、募集中の物件でも賃料引き下げの動きが出始めている。一方、東京都心部Aクラスビルの空室率は0.6%となり、8期連続で1%を下回った。Aクラスビルでは、解約時期が限定される定期借家契約の割合が高いことから、在宅勤務の導入やコスト削減によるオフィスの解約が直ちには現れにくいということもあり、空室率は低水準で推移している(図表-10)。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【オフィス市場は調整局面入り。REIT市場は価格の戻りが鈍い。-不動産クォータリー・レビュー2020年第3四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

オフィス市場は調整局面入り。REIT市場は価格の戻りが鈍い。-不動産クォータリー・レビュー2020年第3四半期のレポート Topへ