2020年11月09日

米雇用統計(20年10月)-雇用者数は前月比+63.8万人、前月から伸びは小幅に鈍化も、市場予想(+58.0万人)は上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数、失業率ともに市場予想を上回る改善

11月6日、米国労働省(BLS)は10月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+63.8万人の増加1(前月改定値:+67.2万人)と、+66.1万人から上方修正された前月から雇用の伸びが小幅に鈍化した一方、市場予想の+58.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2参照)。

失業率は6.9%(前月:7.9%、市場予想:7.6%)と前月から▲1.0%ポイント低下し、市場予想(▲0.3%ポイント)を上回る低下幅となった(後継図表6参照)。労働参加率2は61.7%(前月:61.4%、市場予想:61.5%)と前月から+0.3%ポイント上昇し、市場予想も上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:民間部門は4ヵ月ぶりに前月から伸び加速も、回復ペースは依然として緩やか

10月の非農業部門雇用者数は前月から小幅に伸びが鈍化したものの、当月は国勢調査に関連する連邦政府の臨時雇用が減少したなどに伴い、政府関連雇用が▲26.8万人減少したことが影響しており、これを除いた民間部門では前月比+90.6万人(前月:+89.2万人)と4ヵ月ぶりに前月を上回った。もっとも、非農業部門雇用者数は3月~4月の2ヵ月間で喪失した2,216万人に対して5月~10月の6ヵ月間の増加幅が+1,207万人と喪失分の5割強を戻したに過ぎず、雇用回復ペースは依然として緩やかに留まっていると言えよう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.1%(前月改定値:横ばい、市場予想:+0.2%)と、+0.1%から下方修正された前月を上回ったものの、市場予想は下回った。また、前年同月比は+4.5%(前月改定値:+4.6%、市場予想:+4.5%)と、こちらは+4.7%から下方修正された前月は下回ったものの、市場予想に一致した(図表1)。前年同月比は依然として新型コロナ流行前の3%台前半の水準を大幅に上回っているものの、低賃金の娯楽・宿泊業や小売業の雇用が新型コロナで大幅に減少した影響を受けているため、賃金動向の実態を把握するのが難しくなっている。

このようにみると、10月は労働市場の緩やかな回復基調の持続を確認する結果と言えよう。もっとも、足元で新型コロナの1日の新規感染者数がこれまでで最高となる12万人超となるなど新型コロナの感染拡大に拍車が掛かっているほか、期待された追加経済対策も早期実現が難しくなっていることから、今後労働市場の回復ペースはさらに鈍化が見込まれる。

3.事業所調査の詳細:政府関連雇用が減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+78.3万人(前月:+79.5万人)と6ヵ月連続の増加となったものの、前月から小幅ながら増加幅が縮小した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+27.1万人(前月:+40.6万人)となり、前月から伸びが鈍化したものの、10月の雇用全体の増加幅のおよそ4割強を占める増加となった。また、医療・社会扶助サービスも+7.9万人(前月:+11.8万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、人材派遣業が+10.9万人(前月:+2.2万人)と大幅に伸びが加速した専門・ビジネスサービスが+20.8万人(前月:+12.2万人)となったほか、小売業も+10.4万人(前月:+2.3万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+12.3万人(前月:+9.7万人)と、こちらは前月から伸びが加速した。製造業が+3.8万人(前月:+6.0万人)と前月から伸びが鈍化したものの、建設業が+8.4万人(前月:+3.5万人)と伸びが加速し、全体を押し上げた。

一方、政府部門は前月比▲26.8万人(前月:▲22.0万人)と、こちらは前月からマイナス幅が拡大した。内訳をみると、州・地方政府が▲13.0万人(前月:▲18.7万人)と前月からマイナス幅が縮小したものの、国政調査に伴う臨時雇用が▲14.7万人減少したことから連邦政府が▲13.8万人(前月:▲3.3万人)と減少幅が大きく拡大して全体を押し下げた。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は前月が+67.2万人(改定前:+66.1万人)と+1.1万人上方修正されたほか、前々月が+149.3万人(改定前:+148.9万人)と、こちらも+0.4万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.5万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って11月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+36.5万人(前月改定値:+75.3万人、市場予想:+64.3万人)と+75.3万人から下方修正された前月、市場予想を大幅に下回った。前述のように雇用統計は政府部門を除いた民間部門では前月比で伸びが加速しており、伸びが大幅に鈍化したADP統計とは不整合な動きとなった。
 
10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.50ドル(前月:29.46ドル)となり、前月から+4セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.8時間(前月:34.8時間)とこちらは前月から横ばいとなった。この結果、週当たり賃金は1,026.60ドル(前月:1,025.21ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率の改善を伴って失業率が低下

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で+72.4万人(前月:▲69.5万人)と前月から増加に転じた。内訳を見ると、失業者数が▲151.9万人(前月:▲97.0万人)とマイナス幅が拡大した一方、就業者数が+224.3万人(前月:+27.5万人)と失業者の減少幅を上回る増加となって全体を押し上げた。一方、非労働力人口は▲54.1万人(前月:+87.9万人)と前月から減少に転じた。

これらの結果、労働参加率は61.7%と前月から上昇した(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も10月が81.2%(前月:80.9%)と前月から+0.3%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が87.9%(前月:87.7%)と+0.2%ポイント、女性も74.6%(前月:74.2%)と+0.4%ポイントといずれも前月から上昇した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
一方、失業率は前月比▲1.0ポイントの大幅な低下となったが、前述のように労働参加率の改善を伴っており、労働需給の改善を示していると言えよう(図表6)。
 
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は355.6万人(前月:240.8万人)と前月から+114.8万人の大幅な増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも32.5%(前月:19.1%)と前月から+13.4%ポイント増加し、14年7月(32.6%)以来の水準となった(図表7)。平均失業期間は21.2週(前月:20.7週)と前月から+0.5週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(195.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(668.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、10月が12.1%(前月:12.8%)と前月から▲0.7%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+5.2%ポイント(前月:+4.9%ポイント)と前月から+0.3%ポイン拡大小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年11月09日「経済・金融フラッシュ」)

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