2020年10月30日

米GDP(20年7-9月期)-前期比年率+33.1%と統計開始以来最大の伸びも新型コロナ流行前を下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は1947年の統計開始以来最大の伸び、市場予想を上回る

10月29日、米商務省の経済分析局(BEA)は20年7-9月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+33.1%(前期:▲31.4%)と3期ぶりにプラスに転じたほか、プラス幅は前期に統計開始以来最大の落ち込みとなった反動もあって、47年の統計開始以来最大となった(図表1・2)。また、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の同+32.0%も上回った。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
7-9月期の成長率を需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+40.7%(前期:▲33.2%)となり、成長率を+25%ポイント以上押し上げたほか、民間設備投資が+20.3%(前期:▲27.2%)、住宅投資が+59.3%(前期:▲35.6%)と軒並み前期から大幅なプラス成長に転じた(図表2)。また、在庫投資の成長率寄与度も+6.62%ポイント(前期:▲3.50%ポイント)と6期ぶりにプラスに転じて成長率を押し上げた。

一方、政府支出は大型経済対策の政策効果が剥落した反動で前期比年率▲4.5%(前期:+2.5%)とマイナスに転じたほか、輸入が輸出を上回る増加となったことから外需の成長率寄与度も▲3.09%ポイント(前期:+0.62%ポイント)と5期ぶりにマイナスに転じ成長を押し下げた。

このように、7-9月期の成長率は統計開始以来最大の伸びとなったものの、前期の反動の影響が大きく、実質GDPの水準では7-9月期が18.584兆ドルと新型コロナ流行前である19年10-12月期の19.254兆ドルを依然として▲3.5%程度下回っている。また、多くの経済指標が夏場以降に景気回復ペースが鈍化していることを示していることや、足元で新型コロナ感染者数の増加に弾みがついているにも関わらず追加経済対策の年内成立が困難となっていることなどを考慮すると、10-12月期の成長率は大幅な低下が避けられない状況となっている。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)個人消費は全般的に持ち直しも可処分所得は減少
7-9月期の個人消費は、財消費が前期比年率+45.4%(前期:▲10.8%)、サービス消費+38.4%(前期:▲41.8%)と前期から大幅なプラスに転じた(図表3)。財消費では、耐久財が+82.2%(前期:▲1.7%)、非耐久財が+28.8%(前期:▲15.0%)といずれも前期から大幅なプラスに転じた。

耐久財では、娯楽・スポーツカーが+48.1%(前期:+39.2%)と好調を維持したほか、自動車・自動車部品が+87.1%(前期:+1.2%)と前期から大幅に伸びが加速、家具・家電が+60.9%(前期:▲7.9%)と前期からプラスに転じた。

非耐久財は、食料・飲料が+4.0%(前期:▲5.6%)と前期からプラスに転じたほか、衣料・靴が+161.3%(前期:▲48.7%)、ガソリン・エネルギーが+93.9%(前期:▲56.6%)と大幅な落ち込みとなった前期の反動もあって、大幅なプラスに転じた。

一方、サービス消費は、住宅・公共料金が+1.5%(前期:+4.3%)と前期から伸びが鈍化したものの、それ以外の分野では医療サービス+93.7%(前期:▲53.7%)と2桁のプラスに転じたほか、輸送サービス+173.2%(前期:▲82.8%)、娯楽サービスが+276.6%(前期:▲91.6%)、飲食・宿泊サービスが+209.8%(前期:▲80.2%)と、いずれも3桁の大幅なプラスとなった。

実質可処分所得は個人消費の回復とは対照的に前期比年率▲16.3%(前期:+46.6%)と前期からマイナスに転じた(図表4)。前期の可処分所得を押し上げた家計への直接給付が終了した反動に加え、期限切れに伴い失業保険の追加給付が落ち込んだがことが大きい。

貯蓄率は15.8%(前期:25.7%)となった。当期は個人消費が回復した一方、政策効果の剥落で可処分所得が減少した結果、貯蓄率は前期から大幅な低下となった。もっとも、新型コロナ流行前の7%台前半に比べて依然として高止まりしている。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(民間投資)設備機器投資が全体を押し上げ
7-9月期の民間設備投資は、知的財産投資が前期比年率▲1.0%(前期:▲11.4%)、建設投資が▲14.6%(前期:▲33.6%)と前期からマイナス幅は縮小したものの、知的財産投資が2期連続、建設投資が4期連続でマイナス成長となった(図表5)。もっとも、設備機器投資が+70.1%(前期:▲35.9%)と前期から大幅なプラスに転じ、民間設備投資全体を押し上げた。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 知的財産投資では、ソフトウエアが+2.6%(前期:▲5.9%)と前期からプラスに転じたものの、研究・開発が▲1.8%(前期:▲13.1%)、娯楽・文学等が▲13.6%(前期:▲25.9%)とマイナス幅は縮小したものの、前期に続きマイナス成長となった。

建設投資では、製造業が+5.8%(前期:▲22.4%)と6期ぶりにプラスに転じたものの、電力・通信が▲3.9%(前期:▲16.5%)、商業・医療が▲6.6%(前期:▲8.9%)、資源関連が▲67.3%(前期:▲82.1%)といずれもマイナス幅は縮小したものの、前期に続いてマイナスとなった。

一方、設備機器投資は、情報処理関連が+53.1%(前期:+29.3%)と前期から伸びが加速したほか、産業機器が+18.1%(前期:▲23.0%)、輸送機器に至っては+258.5%(前期:▲84.9%)と前期から大幅なプラスに転じた。

最後に住宅投資は、戸建てが前期比年率+13.7%(前期:▲41.8%)、集合住宅も+42.4%(前期▲7.8%)と前期からプラスに転じた。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)連邦政府の政策効果剥落から減少
7-9月期の政府支出の内訳は、連邦政府が前期比年率▲6.2%(前期:+16.4%)と前期の2桁のプラス成長からマイナスに転じたほか、州・地方政府が▲3.3%(前期:▲5.4%)とマイナス幅は縮小したものの、2期連続でマイナス成長となった(図表6)。

連邦政府支出では、国防関連支出が+3.0%(前期:+3.8%)と2期連続でプラスを維持したものの、非国防支出が▲18.1%(前期:+37.6%)と大幅な伸びとなった前期の反動もあって2桁のマイナスに転じ、連邦政府支出全体を押し下げた。非国防関連支出の落ち込みは中小企業の資金繰り支援策である給与保護プログラム(PPP)の期限切れに伴う補助金支給の減少の影響が大きい。
(貿易)輸出入ともに前期から大幅に増加
 7-9月期の輸出入は輸出が前期比年率+59.7%(前期:▲64.4%)、輸入が+91.1%(前期:▲54.1%)となった。このため、当期は外需の成長率寄与度はマイナスとなったが、これは輸出入ともに前期から大幅なプラスに転じる中で、輸入の伸びが輸出を上回ったことがマイナス寄与の要因である。

輸出を仔細にみると、サービス輸出が前期比年率▲0.6%(前期:▲59.6%)とマイナス幅は縮小したものの、前期に続きマイナスとなる一方、財輸出が+104.5%(前期:▲66.8%)、大幅なプラスに転じ輸出全体を押し上げた(図表7)。

財輸出では、自動車関連の+3,218.3%(前期:▲97.1%)を筆頭に、消費財(食料、自動車関連除く)が+218.6%(前期:▲73.6%)、資本財(自動車関連除く)が+62.2%(前期:▲67.5%)、食料・飲料が+33.5%(前期:▲4.0%)、工業用原料が+25.2%(前期:▲53.8%)と軒並み前期から大幅なプラスに転じた。

サービス輸出では、輸送が+88.9%(前期:▲93.9%)と前期から大幅なプラスに転じた一方、旅行は▲49.6%(前期:▲98.5%)と回復が遅れている。

一方、輸入は、財輸入が+107.9%(前期:▲49.6%)、サービス輸入が+24.2%(前期:▲69.9%)とこちらは財、サービスともに前期からプラスに転じた(図表8)。

財輸入も、自動車関連の+1,805.4%(前期:▲95.3%)を筆頭に、消費財(食料、自動車関連除く)が+102.2%(前期:▲24.6%)、資本財(自動車関連除く)が+63.6%(前期:▲34.6%)、食料・飲料が+36.7%(前期:▲17.0%)、工業用原料が+3.0%(前期:▲33.6%)と、いずれも前期からプラスに転じた。

一方、サービス輸入は輸送が+107.8%(前期:▲90.5%)と前期から回復したほか、サービス輸出とは対照的に旅行も+430.9%(前期:▲100.0%)と前期から回復した。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格指数は総合、コアともに前期比でプラスに回復
7-9月期のGDP価格指数は前期比年率+3.6%(前期:▲1.8%)と前期からプラスに転じたほか、市場予想(同+2.9%)も上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+38.0%(前期:▲32.8%)となった(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+3.7%、前年同期比+1.2%(前期:▲1.6%、+0.6%)と前期比がプラスに転じたほか、前年同期比も前期から伸びが加速した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+3.5%、前年同期比+1.4%(前期:▲0.8%、+1.0%)と、こちらも前期比がプラスに転じたほか、前年同期比も前期から伸びが加速しており、当期は基調としての物価の押し上げ圧力が高まった。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年10月30日「経済・金融フラッシュ」)

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