2020年09月17日

米FOMC(20年9月)-予想通り、政策金利を据え置き、フォワードガイダンスを強化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き、フォワードガイダンスを強化

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月15-16日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いた一方、金融政策ガイダンス部分で政策金利維持の条件として、雇用の最大化とインフレ率がしばらくの間2%をやや上回るまでとの条件を付すなどフォワードガイダンスの強化が決定された。もっとも、フォワードガイダンスの変更に対して、ダラス連銀のカプラン総裁が政策金利の柔軟性を保つことを理由に、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁はインフレ率にコアインフレ率と明記することを主張して反対した。

今回発表された声明文では、前期の金融ガイダンス部分に加え、景気の現状判断では経済活動と雇用に対する評価が「幾分上向いた」から「上向いた」に上方修正された。

一方、FOMC参加者の経済見通しは、前回(6月)から、成長率は20年が上方修正された一方、21年と22年の見通しが下方修正された(後掲図表1)。失業率とインフレ率は20年~22年分が上方修正(失業率は低下)された。

政策金利見通し(中央値)は、今回追加された23年末まで含めて実質ゼロ金利政策が継続することが示された。長期見通しの水準は据え置かれた(後掲図表2)。

2.金融政策の評価:実質ゼロ金利政策の長期化を強調するハト派的な内容

政策金利や量的緩和策に変更が無かったことは予想通り。また、8月下旬に実施されたシンポジウムで金融政策のフレームワークが変更されたため、それを盛り込む形でフォワードガイダンスが強化されたことも予想通りであった。今回のフォワードガイダンス変更で実質ゼロ金利政策の長期化が強調されたことから、全般的にハト派的な結果であったと評価できる。

FOMC後に行われたパウエル議長の記者会見の内容も新味はなく、概ね予想通りの内容と言えよう。

一方、今回新たに追加された23年のFOMC参加者の見通しでは、実質ゼロ金利政策の継続方針が示されたほか、23年末のインフレ率が漸く物価目標水準(2%)に到達することが示された。このため、しばらくの間2%を超えるインフレ率を許容するフォワードガイダンスと併せて実質ゼロ金利政策の解除時期は早くても25年以降となろう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)。
  • FRBは市場機能を円滑に維持し、緩和的な金融環境を促進するために、今後数ヵ月に亘って少なくとも現行ペースで米国債やエージェンシーの住宅ローン担保証券(RMBS)、商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の保有を増やすことで、家計や企業の信用の流れを支える。(文章の順番を変更したほか、金融環境に関する表現を「より広範な金融環境に金融政策を効果的に伝達する」”fostering effective transmission of monetary policy to broader financial conditions”から「緩和的な金融環境を促進」”foster accommodative financial conditions”に変更)
  • 翌日物とターム物のレポ取引を大規模に提供(今回削除)。
 
(フォワードガイダンス)
  • 経済が最近の出来事を乗り切り、最大限の雇用と物価安定の目標を達成する軌道にあると委員会が確信するようになるまで、この目標レンジを維持する(今回削除)。
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(今回追加)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(今回追加)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(今回追加)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(今回追加)
  • 金融政策のスタンスに対する将来的な調整のタイミングと規模を決める上で、委員会は最大限の雇用確保の目標と対照的な2%のインフレ目標に関連付けながら、経済情勢の現状と予測の面から精査する(今回削除)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(今回追加)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(今回追加)
 
(景気判断)
  • 新型コロナの流行は米国全土と世界各地に甚大な人的、経済的困難を引き起こしている(小幅な表現変更)。
  • 経済活動と雇用は急激な落ち込みの後、ここ数カ月で上向いたものの、今年初めの水準をなお大きく下回っている(経済活動と雇用について「幾分上向いた」”pick up somewhat”から「上向いた」”pick up”に上方修正)。
  • 需要の弱まりと大幅に下落した原油価格は、消費者物価の上昇を抑制している(変更なし)。
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して改善してきた(変更なし)。
 
(景気見通し)
  • 経済の行方はウイルスの成り行きに大きく左右される(変更なし)。
  • 現在進行中の公衆衛生の危機は、経済活動に大きな影響を与えるだろう(変更なし)。
  • 短期的には雇用やインフレなど、中期的には経済見通しに大きなリスクをもたらす(変更なし)。

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • FRBは議会が示した金融政策目標である雇用の最大化と物価の安定を達成することに強くコミットしている。
    • 景気回復は一般に予想されていたよりも急速に進んでおり、FOMC参加者の今年の成長率見通しは6月時点から上方修正された。
    • パンデミックの期間を通じて経済の見通しは非常に不確実であり、ウイルスを食い止めることに成功するかどうかに大きく依存している。また、今後の道筋は救済を提供し、必要とされる限りの復興を支援するために、政府のすべての部門でとられる政策行動にかかっている。
    • 我々は、この困難な時期に経済を支えるために、我々のあらゆる手段を用いることに引き続きコミットする。
    • 我々の声明で述べているように、インフレ率が2%を下回っている状態が続いていることから、我々は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、しばらくの間、2%をやや上回るインフレ率の達成を目指す。
    • これまでにとられた財政支援策は、全国の家庭、企業、地域社会に決定的な違いをもたらした。今年初めの経済活動と雇用の水準に戻るにはしばらく時間がかかり、それを達成するためには金融・財政政策双方からの継続的な支援が必要となるかもしれない。
 
  • 主な質疑応答
    • (今回決定したフォワードガイダンスの強化に景気刺激効果はあるのか)今回の変更は概ね事前に予想された通りであったため、変更直後に大きな反応があることを期待していない。しかしながら、経済が目標に向かって大きく前進するまで、現在の政策スタンスを維持するという指針は力強いものだ。これは長期的に経済を支えると考える。
    • (財政支援がなければ今年の成長は鈍化するか、または大幅な収縮になると考えるか)追加的な財政措置があるかは分からない。経済への影響は追加財政措置が何時、どの程度出るかによって変わる。しかし、一般的に言って追加措置がなければ経済の下方リスクがある。
    • (債券の買い入れを市場安定から景気刺激にシフトするために、短期の償還からより長期に変更する方が賢明だと思うか)資産購入は両方のことを行っている。明らかに市場機能の面で大きな進歩があった。また、緩和された財政状態を提供し、成長を支援している。これで問題ない。今後の展開を引き続き監視し、必要に応じて計画を調整する用意がある。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(6月)見通しとの比較では、前述のように成長率では20年が上方修正された一方、21年から22年が下方修正された。失業率と物価は20年から22年にかけて上方修正(失業率は低下)された。また、物価では新たに追加された23年見通しで2%の物価目標に一致することが示された。一方、長期見通しに大きな変更はない。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(9月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、20年から22年まで前回に引き続き、現在の実質ゼロ金利水準(0%~0.25%)の継続が見込まれているほか、新たに追加された23年見通しでも実質ゼロ金利に据え置くことが示された(図表2)。

さらに、ドット・チャートをみると、予測者17名のうち20年と21年は全員が政策金利の据え置きを予想しているほか、22年が16人、23年でも13人が据え置きを予想しており、予想のバラつきが極めて限定的となっている。このため、実質ゼロ金利政策の長期化方針はFRBの中でコンセンサスと言えよう。

最後に、長期見通しは2.5%で前回から変更がなかった。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年09月17日「経済・金融フラッシュ」)

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