2020年08月31日

米個人所得・消費支出(20年7月)-消費支出は前月比+1.9%と市場予想(+1.6%)を上回るも、前月(同+6.2%)から伸びが大幅鈍化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、消費ともに市場予想を上回る

8月28日、米商務省の経済分析局(BEA)は7月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.4%(前月改定値:▲1.0%)と▲1.1%から小幅に上方修正された前月からプラスに転じたほか、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲0.2%を上回った(図表1)。個人消費支出は前月比+1.9%(前月改定値:+6.2%)と+5.6%から上方修正された前月から伸びが大幅に鈍化した一方、市場予想(+1.6%)は上回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)も+1.6%(前月改定値:+5.7%)と+5.2%から上方修正された前月から伸びが大幅に鈍化、市場予想(+1.3%)は上回った(図表5)。貯蓄率1は17.8%(前月:19.2%)と、前月から▲1.4%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.3%(前月改定値:+0.5%)と+0.4%から上方修正された前月、市場予想(+0.4%)を下回った。一方、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は+0.3%(前月改定値:+0.3%)と+0.2%から上方修正された前月に一致、市場予想(+0.5%)は下回った(図表6)。前年同月比では、総合指数が+1.0%(前月改定値:+0.9%)と+0.8%から上方修正された前月を上回った一方、市場予想(+1.0%)に一致した。コア指数は+1.3%(前月改定値:+1.1%)と+0.9%から上方修正された前月、市場予想(+1.2%)を上回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:消費回復モメンタムは低下

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 7月の個人消費は市場予想を上回ったものの、伸びは前月から大幅に鈍化した。これで個人消費は5月の前月比+8.6%からの伸び鈍化が顕著となった(図表1)。これは、労働市場の回復持続によって雇用者報酬は増加しているものの、成人一人当たり1,200ドル支給するなどの直接給付はほぼ支給が終了しており、所得押上げ効果が剥落していることなどが消費の伸びを鈍化させた要因とみられる。

さらに、失業保険の週600ドルの追加給付は7月末に期限が到来し、議会が期限延長で合意できていないため、8月以降は追加給付が打ち切られており、消費のさらなる伸び鈍化が懸念される。

新型コロナ感染終息の目途が立たない中、労働市場の回復ペースが鈍化しているため、今後も消費が堅調な伸びを維持するためには、2回目の直接給付や失業保険の追加給付の再開などの追加経済対策が不可欠だろう。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数が5月の+0.5%を底に2ヵ月連続、物価の基調を示すコア指数は4月の+0.9%を底に3ヵ月連続上昇しているものの、両指数ともにFRBの物価目標(2%)を大幅に下回っており、物価は依然抑制されている。

3.所得動向:移転所得は3ヵ月連続減少も減少幅が大幅に縮小

個人所得は3ヵ月ぶりに増加に転じた。政府による社会保障関連の補助金などの移転所得が前月比▲1.7%(前月:▲8.8%)と3ヵ月連続で減少したものの、減少幅は前月から大幅に縮小した(図表2)。これを金額ベース(前月比、年率)でみると、「失業保険給付」が前月比▲1,055億ドル(前月:+972億ドル)と減少幅を拡大させたものの、「家計への直接給付」の縮小幅が6月の▲5,656億ドルから▲74億ドルに大幅に縮小したことが大きい。

一方、賃金・給与は前月比+1.2%(前月:+2.1%)、自営業者所得は+1.4%(前月:+6.7%)といずれもプラスを維持したものの、前月から伸びが鈍化した。とくに、自営業者所得は非農業部門の給与保護プログラムに伴う融資額の増加幅が7月は+32億ドル(前月:+522億ドル)と前月から縮小したことが大きい。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、7月の名目が+0.2%(前月:▲1.3%)、価格変動の影響を除いた実質ベースが▲0.1%(前月:▲1.8%)となり、名目ベースでは3ヵ月ぶりにプラスに転じたものの、実質ベースは3ヵ月連続のマイナスとなった(図表3)。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:財・サービスともに前月から伸びが大幅に鈍化

7月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+2.0%(前月:+6.7%)、サービス消費が+1.9%(前月:+5.9%)と、いずれも前月から伸びが大幅に鈍化した(図表4)。

財消費では、耐久財が+3.1%(前月:+8.9%)、非耐久財が+1.4%(前月:+5.6%)となった。

耐久財では、新車販売が+9.3%(前月:+1.9%)と好調だったことから、自動車・自動車部品が+4.5%(前月:+5.9%)と堅調な伸びとなった一方、娯楽財・スポーツカーが+2.7%(前月:+5.9%)と伸びが鈍化したほか、家具・家電が▲横ばい(前月:+10.3%)と僅かながらマイナスに転じた。

非耐久財では、食料・飲料が+0.6%(前月:▲0.5%)と前月からプラスに転じたものの、衣料・靴が+1.6%(前月:+29.0%)、ガソリン・エネルギーが+8.4%(前月:+25.9%)と前月から伸びが大幅に鈍化した。

サービス消費は、住宅・公共料金が+0.5%(前月+0.4%)と伸びが小幅ながら加速した一方、娯楽サービスが+10.1%(前月:+37.7%)、輸送サービス+7.0%(前月:+15.8%)、外食・宿泊+5.6%(前月:+23.2%)、医療サービス+2.5%(前月:+12.8%)と、前月から伸びが大幅に鈍化した。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:前月比ではエネルギー価格が2ヵ月連続で物価を押し上げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+2.5%(前月:+4.7%)と2ヵ月連続プラスとなった(図表6)。一方、食料品価格指数は▲0.9%(前月:+0.5%)とこちらは19年12月以来、7カ月ぶりにマイナスに転じた。

前年同月比では、エネルギー価格指数が▲11.4%(前月:▲12.8%)と4ヵ月連続で2桁のマイナスとなった(図表7)。一方、食料品価格指数は+4.3%(前月:+5.2%)とこちらは17年7月以来37ヵ月連続のプラスとなった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年08月31日「経済・金融フラッシュ」)

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