2020年09月07日

米雇用統計(20年8月)-雇用者数は前月比137.1万人増、失業率は8.4%と、いずれも市場予想を上回る回復

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数、失業率ともに市場予想を上回る回復

9月4日、米国労働省(BLS)は8月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+137.1万人の増加1(前月改定値:+173.4万人)と、+176.3万人から小幅下方修正された前月から雇用の伸びが鈍化した一方、市場予想の+135.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2参照)。

失業率は8.4%(前月:10.2%、市場予想:9.8%)と、前月から▲1.8%ポイントの低下となり、市場予想を上回る低下幅となった(後継図表6参照)。労働参加率2は61.7%(前月:61.4%、市場予想:61.8%)とこちらは前月から+0.3%ポイント上昇したものの、市場予想は下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:ペースは緩やかながら、労働市場の回復は持続

8月の非農業部門雇用者数は前月比の増加ペースが鈍化したものの、4ヵ月連続で増加となった。もっとも、4ヵ月の累積増加幅は1,061万人と3月~4月の2ヵ月間で喪失した2,216万人の雇用減に対して5割弱程度を復元できたに過ぎない。このため、雇用水準が新型コロナ流行前に戻るには相当な期間を要そう。

失業率は4ヵ月連続の低下となったほか、労働参加率も8月は上昇に転じたことから、家計調査も労働需給が改善していることを示す結果となった。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.4%(前月改定値:+0.1%、市場予想:横ばい)と、+0.2%から下方修正された前月、市場予想を上回った。前年同月比は+4.7%(前月改定値:+4.7%、市場予想:+4.5%)と、+4.8%から下方修正された前月に一致、市場予想は上回った(図表1)。

このようにみると、8月は新型コロナに伴う落ち込みから、5月以降は労働市場の回復が持続していることを確認する結果となった。もっとも、新型コロナ流行前の2月に比べると労働市場の回復は未だ道半ばであり、新型コロナ流行前の水準に回復するのには相当程度時間を要するとみられる。

3.事業所調査の詳細:国勢調査関連の臨時雇用が押上げ

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+98.4万人(前月:+142.0万人)と4ヵ月連続の増加となったものの、前月から増加幅がさらに縮小した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+17.4万人(前月:+62.1万人)となったほか、医療・社会扶助サービスが+9.0万人(前月:+19.6万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、専門・ビジネスサービスが+19.7万人(前月:+15.3万人)となったほか、小売業が+24.9万人(+23.6万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+4.3万人(前月:+6.1万人)と、こちらも前月から伸びが鈍化した。製造業が+2.9万人(前月:+4.1万人)となったほか、建設業が+1.6万人(前月:2.7万人)と、いずれも前月から伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+34.4万人(前月:+25.3万人)と、こちらは前月から大幅に伸びが加速した。内訳をみると、州・地方政府が+9.3万人(前月:+22.4万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した一方、連邦政府が+25.1万人(前月:+2.9万人)と大幅に伸びが加速したことが大きい。BLSによれば、国勢調査に伴う臨時雇用が+23.8万人と連邦政府雇用の大宗を占めたようだ。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+173.4万人(改定前:+176.3万人)と▲2.9万人下方修正されたほか、前々月が478.1万人(改定前:+479.1.9万人)と、こちらも▲1.0万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲3.9万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って9月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+42.8万人(前月改定値:+21.2万人、市場予想:+100.0万人)と、+16.7万人から上方修正された前月を上回った一方、市場予想を大幅に下回った。ADP統計は6月が449万人と雇用統計に近い水準となっていたものの、7月から2ヵ月連続で雇用統計に比べて1桁小さい雇用増加ペースに留まっており、足元で両統計の乖離が大きくなっている。
 
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.47ドル(前月:29.36ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.6時間(前月:34.5時間)とこちらは+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,019.66ドル(前月:1,012.92ドル)と、3ヵ月ぶりに増加に転じた(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:就業者数の増加に伴い、労働参加率が改善

家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+96.8万人(前月:▲6.2万人)と前月から増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+375.6万人(前月:+135.0万人)増加し、失業者数の▲278.8万人(前月:▲141.2万人)の減少幅を上回って労働力人口を押し上げた。非労働力人口は▲78.3万人(前月:+23.0万人)と、こちらは減少に転じた。

これらの結果、労働参加率は61.7%と前月から上昇に転じた(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も8月が81.4%(前月:81.3%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.1%(前月:87.6%)と前月から+0.5%ポイント上昇した一方、女性は74.9%(前月:75.1%)と▲0.2%ポイントの低下となり、8月は男女で動きが分かれた。

一方、BLSは過去5ヵ月と同様に本来失業者として認識されるべき人数の一部が欠勤として認識されていることによって、失業率が過小評価されている可能性を示唆した。BLSは、これらの人数が110万人程度と推計されるとしており、これを加味した失業率は9.1%と実際に発表された8.4%から+0.7%ポイント押し上げられる可能性があるとした。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は162.4万人(前月:150.1万人)と前月から+12.3万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも12.0%(前月:9.2%)と前月から+3.2%ポイント増加した(図表7)。さらに、平均失業期間は20.2週(前月:17.9週)と前月から+2.3週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(208.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(757.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、8月が14.2%(前月:16.5%)と前月から▲2.3%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+5.8%ポイント(前月:+6.3%ポイント)と、前月から▲0.5%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年09月07日「経済・金融フラッシュ」)

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