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IMF世界経済見通し-上方修正も、先行きの不確実性は高い
経済研究部 准主任研究員 高山 武士
1.内容の概要:20年は▲4.4%、6月より上方修正
1 6月に公表した改定見通しから、購買力平価を変更している(11年基準→17年基準、17年基準では11年基準よりも先進国のシェアが増加、新興国・途上国のシェアが低下している)。6月に公表した見通しは世界成長率で20年▲4.9%、21年+5.4%(11年基準購買力平価)だが、これを17年基準購買力平価で換算すると20年▲5.2%、21年+5.4%となる。
2.内容の詳細:不確実性は依然として大きい
その理由としては、ロックダウン(都市封鎖)緩和後の回復が速やかに進んだことなどから、4-6月期の落ち込みの実績が予想よりも軽微だったこと、7-9月期の回復力が強めだったことを挙げている。一方で、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保が長期化すると見られることから、21年の見通しは下方修正している(6月時点:5.4%→今回:5.2%)。
また、コロナ禍後の4月時点で作成した見通しは、不確実性の高さから2年間(2021年まで)の予測値しか公表されなかったが、今回は6年間(25年まで)の予測が公表されている。中期の見通しについては、深刻な景気後退による倒産や失業などで潜在供給力が失われ、コロナ禍前に見込まれていた経済水準への回復が遅くなることを指摘している3(前掲図表2)。さらに今回の経済の落ち込みにより貧困削減が止まり、格差拡大が進む点を重要な課題として強調している。
IMFは、こうした状況下では、短期的には成長を支える経済政策を実施しつつも、中期的な潜在GDPが低下する中では返済が困難になるほどに債務を増加させないようにするという舵取りをしていく必要があるとしている。
また、IMFは今回のベースライン予想の不確実性の高さを引き続き強調するとともに、代替シナリオも用意しているため、これについては後述する。
各国・各地域の失業率を見ると4(図表5)、先進国全体の失業率は、20年7.3%、21年6.9%と20年に大きく悪化したのち、改善ペースも小幅となることが予想されている。しかし、4月時点の見通し(20年8.3%、21年7.2%)と比較すると下方修正(改善)されているが、時短勤務などの不完全就業者の増加が著しい点を指摘している。また、新興国については見通しを作成していないものの、入手可能なデータからは2020年の失業者が大幅に増加すると見込まれているとしている。
IMFでは、リスクバランスを定量的に評価することは困難であるとしつつ、いくつかのリスク要因を挙げている。
具体的には上方要因としては「感染拡大を伴わず景気回復が予想以上に進む」「財政政策の拡充」「新技術などによる生産性の向上」「治療法の進歩」「安全・有効なワクチン開発」を指摘する一方、下方要因として「感染爆発(outbreaks)」「政策支援の剥落」「金融市場の緊張」「流動性不足、支払い不能」「社会不安の高まり(政治的・社会的問題の顕在化や悪化)」「地政学的緊張」「貿易政策の不確実性、技術摩擦」「気象災害」を挙げている。
また、IMFでは今回のベースラインの予想を作成するにあたって、社会的な距離の確保が2021年に入っても続くが、ワクチン普及や治療法の改善などによって、2022年末には広範囲にわたって感染が低水準に抑制できると前提を置いており、代替シナリオとして、新型コロナウイルスに対する封じ込め政策を強化・長期化する必要がある悲観シナリオと、ウイルスを比較的早期に克服できる楽観シナリオも説明している。

2 なお、同日に公表したブログでは、「長く、不均等で、不確実な復興の道」の題名を付けている。「不均衡」で国による経済への影響・回復にバラツキが生じると考えられること、国内でも労働市場で低所得労働者・若年層・女性への被害が大きいことなど、「不確実」で今後の回復過程でもリスクがかなり残っていることを示していると推測される。
3 同日公表のブログでは、具体的にコロナ禍前と比べ2020-21年で11兆ドル、2020-25年で28兆ドルのGDPが失われると言及している
4 IMFでは新興国・途上国地域の失業率については集計・試算していない国が多いため、先進国を中心に見る。
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03-3512-1818
(2020年10月14日「経済・金融フラッシュ」)
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