2020年06月25日

IMF世界経済見通し(改定)-30か国中24か国で下方修正

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:20年で1.9%ポイントの下方修正

6月24日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO;World Economic Outlook)の改定版を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
・2020年は前年比▲4.9%となる見通しで、4月時点の見通し(同▲3.0%)から下方修正
・2021年は前年比+5.4%となる見通しで、4月時点の見通し(同+5.8%)から下方修正

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:30か国中24か国で下方修正

IMFは、今回の見通しを「類を見ない、不確実な回復」と題して作成した1。4月に見通しを作成して以降、新興国・途上国を中心にパンデミックが拡大し、厳しいロックダウンが必要になったと振り返っている。また、1-3月期の成長率が予想を下回ったこと、その後の指標が弱含んでいることから、IMFは今回の見通しを20年で1.9%ポイント下方修正した。国別には、改定見通しで公表している30か国中24か国を下方修正、4か国を据え置きとし、上方修正は2か国にとどまった2

IMFは2021年の見通しも下方修正しており、回復の遅さも反映させている。IMFは回復の遅さに関して、20年上半期の成長鈍化が予想以上だったということに加えて、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の長期化、企業の感染防止基準の強化による生産性への悪影響を織り込んだことを指摘している。

またこの結果、世界GDPは2020年および21年で12.5兆ドル失われたと試算している(今回の見通しと1月の見通しの差額から計算)。

なお、今回もベースラインシナリオおよび代替シナリオを用意しており、ベースラインでは感染が減少傾向にある国では、20年上半期のような厳しいロックダウンを再実施しないという仮定を置いている。また、表題ともなった「不確実性」として、以下の要因を列挙している。
 

・パンデミックとロックダウンの期間
・自発的な社会的距離(消費に影響)
・離職者(displaced worker)が雇用を守られる能力(ケースにより異なる部門)
・廃業や失業による離職の影響を受けた、パンデミック収束後の活動再開の難しさ
・職場の安全性確保(シフト制、清掃強化、近接についての職場慣行)によるビジネスコスト増
・サプライチェーンの強化を企図したグローバルサプライチェーンの再構築の生産性への影響
・外需低迷と資金不足の国際的な波及効果
・金融資産価格と実体経済の乖離がもたらす、最終的な調整


さて、代替シナリオについては後述することにし、ベースラインのシナリオで各国・地域の状況を確認しておきたい。まず、先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率を見る(前掲図表2)と、成長率の水準の違いはあるものの、いずれも2020年に減速し、新興国・途上国全体でもマイナス成長となることが分かる。4月作成の見通しでは、中国を含むアジア新興国・途上国はプラス成長を維持していたものの、今回はインドが大幅下方修正(20年度で1.9%→▲4.5%と6.4%ポイントの下方修正)されたことを受けて、マイナス圏に落ち込むことになった。

先進国についても下方修正され、2020年に前年比▲8.0%と急減速し、2021年は+4.8%の回復となっている。
(図表3)各国・各地域の成長率と実質GDP水準
図表3には主要国・地域の成長率見通し、および2019年を100としたときの実質GDP水準の見通しを記載している。世界全体では、2021年の実質GDP水準は2019年を若干超える水準に回復すると予想しているが、回復をけん引しているのは、アジア新興国の一部(中国・ASEAN5)で残りの国の2021年時点の活動水準は低い。先進国では、フランス・イタリア・スペイン、新興国ではブラジル・メキシコが弱い予想となっている。
 
次に代替シナリオを確認する。今回、IMFが提示した代替シナリオは以下の2種類である。

「(1)2021年初の第二波到来(ただし封じ込め政策の厳しさは第一波の半分)」(悲観シナリオ)

「(2)2020年上半期のロックダウンからの早期回復」(楽観シナリオ)

IMFの試算結果によると、(1)の場合、2021年のGDPはベースラインと比較して4.9%低くなり、22年のGDPもベースライン対比3.3%下回る。(2)の場合は、2020年にGDPはベースライン対比0.5%高くなり、21年のGDPではベースライン対比3%以上の改善を見せる。なお、代替シナリオの(1)については、仮に今年の秋に第二波が襲来したとすれば、さらに負の影響が強くなると補足している。

最後に、IMFは今回の見通し改定報告書の付属資料として、財政収支見通しも添付している。
(図表4)主要国の財政政策規模 添付資料では、各国の異例の政策支援は11兆ドル(うち5.4兆ドルが財政支出、5.4兆ドルが流動性供給)に達しており(図表4)、その結果、公的債務対GDP比では100%を超えて2020年に101.5%、21年で103.2%となる見通しであることが示された。この結果、公的債務の水準は第2次世界大戦後の最高値を超え、史上最高水準となる見込みである

IMFはこれら財政政策や金融政策が実体経済や金融市場の回復をけん引していると評価する一方で、実体経済と金融市場の乖離が過剰なリスクテイクを生み、無視できない脆弱性をもたらしているとも警告している。また、公的債務の大きさがGDP比で史上最高水準になることから、中期的な財政再建の必要性も説いている。
 
1 なお、同日に公表したブログでは、「『大封鎖(the Great Lockdown)』後の経済再開:不均一で不確実な回復」の題名を付けている。不均一はコロナ禍の被害状況・回復状況の各国間でのバラツキのことと推測される。
2 上方修正はオーストラリア(20年で2.2%ポイントの上方修正)および、パキスタン(同1.1%ポイント)
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年06月25日「経済・金融フラッシュ」)

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